障がいを生かしたパフォーマンス

大阪を拠点に活動するパフォーマンス集団「態変」。メンバーは皆、身体障がい者で、それぞれにある障がいを生かし、言葉ではなく身体を使って表現している。

「態変」を主宰する金 滿里(きむ・まんり)さんは、3歳の時にポリオにかかり、首から下がまひ。その後、幼少期の10年間を障がい者施設で過ごした。

態変主宰・金 滿里さん:
(当時は)死んだような時代だったので…何もしないことが一番で、意欲的になることが駄目だと思っていました。施設での体験が今の原体験になっているので、なんで身体障がい者の“身体”として舞台で表現するのかというところの、全部の体験がそこに詰まっているなぁと思うので。折りに触れていつも思い出します

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“障がい者も街へ出よう”と、声高に叫ばれていた時代、滿里さんが身体障がい者の仲間と共に創りあげた芝居は社会に衝撃を与えた。役者たちはレオタードを履いて障がいのある身体をさらけだし、己の存在を社会に見せつけた。

態変主宰・金 滿里さん:
私たちの日常の感覚とか、日常の価値観に健常者は気づいてないやろ。酒飲みがいたり、たばこを吸う仲間がいたり、そういうのを取り入れて。障がいの格好とか、アテトーゼ(脳性まひによる不随意運動)を目立たせる動きをしたかったんです。すごいウケましたよ。だけど“挑発芝居”って呼ばれました。やっぱりそれは挑発ですよね。舞台の上から投げかける挑発というのを初めて障がい者側の価値観でやったのが、旗揚げ(公演)の“色は臭へど”(という演目)です

それから40年間、滿里さんは身体障がい者の障がいそのものを表現力に変え、観る人の心を打つ“芸術としての美しさ”を追究してきた。それは、社会が抱く障がい者への価値観を変えたいという信念からだった。

障がい者施設での事件…被害者への追悼

2016年7月26日。神奈川県相模原市の障がい者施設「津久井やまゆり園」で、19人の入所者が殺害される残忍な事件が起きた。

事件から7年が経った日、殺された19人の被害者を追悼するため、滿里さんの呼びかけで多くの人が大阪・ミナミの街に集まった。街中を大勢で行進した追悼集会について、滿里さんは次のように話した。

態変主宰・金 滿里さん:
(私が)先に進んでいくことも含めて、“行進”という形で、自分たちでみんなのいる街の中へ入っていくという気持ちで(行った)。(被害者の)19人も一緒に街の中に入って行けたらいいなと、(19人を)背負いながら行くような気持ちです。みんな当たり前に介護を受けて自立生活をするべきだという思いを、街中で行進することでより感じてもらえたらいいなと思いました

長年舞台に立ち続けてきた滿里さんは、“社会は何も変わっていない”と思わずにはいられなかった。そんな滿里さんが率いる態変の芸術は、パフォーマーの身体表現だけでは成立しない。縁の下で支える“黒子”と呼ばれる、健常者の存在がある。

態変の黒子・七井 悠さん:
パフォーマーが“主”で裏方が“従”ではなく、どちらも対等に作品に関わっています

パフォーマーの舞台袖での移動、着替えなど、パフォーマーが一人でできないことを黒子がフォローする。パフォーマーと黒子は、二人で一つの身体。舞台を一緒に創りあげていく。

40周年の節目に新たなチャレンジ

2023年で40周年となった態変では、次回作の稽古に熱が入っていた。人類発祥の地であるアフリカを舞台に、人が生まれる遥か昔の生命の記憶を全身で表現しようとしている。これもまた、新しいチャレンジだ。

態変主宰・金 滿里さん:
魂から共感しないと、身体障がいの“障がい”そのものというのは共鳴しないんです。障がいの良さ自体を見せようと思うと、そういう正直なところがあって。その正直なところというのが世の中からすると一番醜い、“出すな”といわれている部分なんですよね。醜いところを凝視させるぐらいの醜さであり、そこ自体が良いという。見せるだけではなく、そこ(醜と美)が一緒に、一体になっていく瞬間をつかまえたい

そんな思いを胸に、大きな節目を迎えた態変。40周年記念公演は10月27日から大阪の劇場で行われる。

(関西テレビ「newsランナー」 2023年10月16日放送)

関西テレビ
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