名古屋のアクセサリーショップの女性が、美しいターバンを作っています。このターバンは、がんの治療などで髪が抜け落ちてしまった人たちに寄り添うターバンです。作ったきっかけは、自分自身ががんに打ち勝つため。闘病中の苦しみをやわらげて、笑顔と希望を与えてくれるターバンです。
アクセサリーショップが始めた「がん患者のためのターバン」
この記事の画像(27枚)名古屋市昭和区のアクセサリーショップ「リップモンスター」。
ドイツのビンテージビーズに…。
天然シェルのピアス。
店内にはハンドメイドのアクセサリーがたくさん並んでいます。店の代表は、アクセサリーデザイナーの内藤美加さん(37)です。
リップモンスター代表・内藤美加さん(37):
「口から生まれたの?」って先輩に言われて、唇おばけって呼ばれていた。英語にしたいなという気持ちで、リップモンスターって名前にしたんです
美加さんが今、最も力を入れているのがターバンです。
中東やインドなどの伝統衣装で、最近はファッションアイテムとしても人気ですが、美加さんが作るのは「がん患者のためのターバン」です。
内藤美加さん:
普通の布みたいに見えるんですけど袋になっていて、脱毛してもこの袋をかぶることで頭皮が隠れる
目指したのは、ファッションとしても楽しんでもらえるターバンです。
抗がん剤の治療などで、髪の毛は抜け落ちてしまいます。多くの人は帽子をかぶったり、ウィッグを付けたりして隠しますが、美加さんは機能性とファッション性を重視しました。
内藤美加さん:
何かの拍子でずれたときに、すぐ直せないと不安なんですよね。すぐ直せるように(結び目の部分に)ワイヤーを選びました
ターバンの端には工夫がされていました。
内藤美加さん:
脱毛すると肌と頭皮の境目がなくなるので、この黒い部分が髪の毛みたいな枠どりをするポイントになる
100人のがん患者の声を聞いて改良したターバンも
さらに、100人余りのがん患者の声を聞き、改良したターバンも作りました。
手術を終えたあと、腕が上がらなかった乳がんの友人の話を聞いて、リボンを短くして腕の動きが最小限で済むデザインのターバンです。
リボンを短くすることでおしゃれさが損なわれるため、短くしたデザインのターバンには、付属のリボンを着けておしゃれになるように工夫しています。
肌触りを追求するため、素材に使っているのは最高級のシルクです。縫い目が頭皮を刺激しないよう、赤ちゃんの下着と同じ縫い方をしました。巻いたときの美しさにもこだわり、おでこと後頭部が立体的になるように仕立てています。
5歳の時に母をがんで亡くし自分も4年前に…
美加さんが5歳のとき、36歳だった母親が膵臓がんで亡くなりました。
内藤美加さん:
入院してすぐに脱毛が始まって、私は幼かったので思ったことを全部口に出しちゃうので、母に対して「お化け恐い」って言って、一切近寄らなかったそうなんです。母はどれだけ苦しくて辛かったんだろうっていうことをずっと思って、私も年を重ねてきた
そして美加さん自身も4年前、健康診断で膵臓にカゲが見つかりました。幸い、悪性の腫瘍はありませんでしたが、ターバンを作るきっかけになりました。
「爪も肌もボロボロに…」
美加さんのターバンを使っている女性が福岡県にいます。
岩橋里紗さん(43)は2年前、乳がんになり、抗がん剤治療を受けました。
岩橋里紗さん:
抗がん剤を入れる直前でもう(髪が)なくなるってわかっていたから、長い髪の毛を落とすのがあまりに私は悲しすぎると思って自分で坊主にして、朝イチに大安の日に。お風呂場で本当にワンオクロックを爆音でかけながら。みなさん脱毛が辛いって思われているけど、脱毛を終えて生やしていく今も辛いわけですね。髪質がやっぱり変わっていくので、爪がボロボロになり肌がボロボロになり、髪が全部なくなるほどの
闘病中の苦しみを和らげてくれたのがターバンでした。
岩橋里紗さん:
病気の私がつけるものという感覚から、かけはなしてくれるもの。非日常的に感じるというか。私こんなカワイイものしているっていうだけでも、とてもとても救われた
辛く苦しい闘病生活で「希望を持てるターバンに」
美加さんは2023年7月上旬、岩橋さんが通院している福岡県福岡市の及川病院を訪ねました。ここは乳がんの患者が多い、乳腺専門の病院です。
美加さんのターバンを岩橋さんが使っているのを見て、病院関係者が興味を持ち、説明に訪れました。
及川病院の江崎章子看護部長:
わ~、すごいやわらかい。軽くて肌触り良いですね
内藤美加さん:
地の色も薄い、白ではなくて生成(きな)りぽくなっているんでけど、これは抗がん剤治療だったり薬の影響で顔がむくんだりくすんだりとかされたときに、真っ白のものを乗せると顔がグンとくすむんですね
美加さんは医療現場の人たちに、ターバンを使ってくれた女性たちの気持ちも伝えています。
内藤美加さん:
私の大切な友人が乳がんになりまして。「がんでも彼氏はいる」からねと言われて、「私おっぱい失ったの。だから他のもっと私よりもきれいで胸もきれいにある女性に、彼がどこか行ってしまうかも、そこに心移りしていってしまうかもしれない事がすごく恐怖で恐い」って。彼女が「寝るときまで彼の前でかわいくいられるターバンを作ってほしい」と言われて作ったのがコレ
及川病院の江崎章子看護部長:
どういう治療の時期でもおしゃれでいたい気持ちを持ち続けるのは、今まで色々紹介してきたものとは違うなっていうのはありますね。仕事も一緒にやりながら、子育てもしながら、自分の生活と両立しながら闘病生活を続けていらっしゃるので、自分らしく笑顔に治療と私生活を両立させていけるように、支援できたらなと思います
辛く苦しい闘病生活に、美加さんのターバンが寄り添い、“希望”を与えてくれます。
内藤美加さん:
おしゃれとして巻こうと思える希望が持てるターバンでありたいと思う。このターバンがぐっと自分の気持ちを押してくれたりとか、纏うことの幸せをもう一回、おしゃれをする時の幸せを思い出してほしい
ターバンは現在店舗での販売はありませんが、リップモンスターのサイトで購入することができるということです。
(東海テレビ・2023年9月6日放送)