高額報酬をうたい、SNS上で強盗や特殊詐欺などの実行役を募集するいわゆる“闇バイト”。
そんな闇バイトに軽い気持ちで応募し、特殊詐欺に手を染めかけてしまった女性がいる。
「同じような目に遭ってしまう人がいなくなれば」女性が犯行グループとのやり取りを詳細に明かしてくれた。

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「子供におもちゃを…」

「高額報酬と日払い即金という言葉の魅力に『欲しいな』って…」

こう話すのは、実際に闇バイトに応募してしまったという宮城県内在住のAさん(女性・40代)。娘2人を育てるシングルマザーだ。

両親の支援はあるが、主な収入源は日雇いのアルバイト。上の娘は中学生、次女は持病を抱え、切り詰めた生活を送っているというが、思うような条件での仕事はなかなか見つからない。そんな矢先、彼女の目に留まったのが、X(旧ツイッター)で表示された1枚の広告だった。

「即金日払い¥9万円!!確実に全額支給!!」

X(旧ツイッターより)
X(旧ツイッターより)

白地で明るい花柄が描かれた背景にポップな書体。「闇バイト」などの文言はない。
「子供たちにかわいいものやおもちゃを買ってあげたい…」
そんな気持ちと、高額報酬と日払いという文言に目がくらみ、Aさんはその広告主にダイレクトメッセージを送ってしまった。Aさんは「軽い気持ちだった」と当時を振り返る。

優しい口調の男「子持ちの人もやってますよ」

メッセージを送ったところ、相手側から2つの通信アプリをダウンロードすることを指示されたというAさん。仕事内容についてはお客さんの家に荷物を取りに行く簡単な仕事という説明だったという

Aさんによると、相手の男とのやりとりは、基本的には一つのメッセージアプリを使用。文面のみでのやり取りだった。しかし、踏み込んだ話になると、もう一つの通話アプリで連絡を取っていたという。やり取りの内容によって使い分けているように感じたとAさんは話す。

Aさんと男のメッセージのやりとり 重要な内容は別の通話アプリを使用していたという
Aさんと男のメッセージのやりとり 重要な内容は別の通話アプリを使用していたという

そもそも、Aさんがこの案件について、特殊詐欺などの闇バイトの可能性を疑わなかったわけではない。「自宅を訪問してお金を回収したりすることはできない」などと、特殊詐欺などの犯罪には関与したくないという意思を、事前に示していたという。そんなAさんに対し、相手はこう話した。

「グレーだけど誰でもやっていますよ。簡単で子持ちの人もやっているし、稼げます」

優しい口調で話す男にAさんは「みんなやっているなら大丈夫」と、深く考えるのを止めてしまった。

その後、最寄り駅や髪の色、ネイルの有無、スーツの有無、年齢、現在の所持金などを確認されたというAさん。質問に答えていくと、男から「宮城でも紹介できる仕事があるので電話したい」とのメッセージが送られてきた。

電話をかけてみると「お客さんの家に荷物を取りに行きキャッシュカードをもらったら、暗証番号を教えてもらってお金をおろして渡すだけの、とても簡単な仕事」と説明を受けたという。

特殊詐欺の手口をあまり知らなかったAさん。「お金の回収でなければ犯罪ではなく、まずくなったらやめればいい」と安易に考え、やり取りを続けてしまったという。「高額報酬」「日払い即金」といった魅力が思考力を鈍らせたと当時を振り返る。

さらに男は「お金を持ち逃げする人がたまにいるので、身分証と顔をセットで写した写真が必要」と要求。Aさんは、疑うことなく顔写真と免許証を送信してしまった。

Aさんは顔写真と免許証の情報を 男に言われるがまま送信した
Aさんは顔写真と免許証の情報を 男に言われるがまま送信した

送られてきた「QRコード」に…

実行の日。男からQRコードが送信されてきた。その内容をコンビニエンストアのコピー機で読み込み、データを印刷するよう指示を受けたAさん。
印刷すると、表題には「介護保険料の払い戻し手続き」、本文には「市役所保険年金課より介護保険料の払い戻し手続きがございます」などと記載された紙が出てきた。さらに文末には、実在する金融機関名のロゴと、Aさんの名前ではない、全く知らない職員名が記載されていた。

その後、男から、ある住宅の住所とともに「“お客さん”のもとに向かってほしい」という指示が。「“お客さん”(特殊詐欺のターゲットとみられる)は、高齢者で、少しボケている」などと男は説明したという。

これは絶対やばい…
車で指定された住所に向かう中で、Aさんの疑念は確信に変わった。
Aさんが「家が見つからない」とうそをつくと、指定先の地図と画像が送られ、「角の分かりやすい家だ」と念押しされた。その後Aさんが明確に拒否の姿勢を示すと、男は態度を急変させた。

 
 

「詐欺未遂罪成立」男の脅迫

「家が見つからない」とうそをつき、その場を乗り切ろうとしたAさんだが、そこに男からメッセージが届く。内容は以下の通りだ。

「この物件は高額案件だったらしく、70万以上の入金予定だったので、上司がかなり怒ってしまった。お姉さんは詐欺未遂罪が成立しています。僕らと共謀し、前日から打ち合わせをし、職員でもないのに書類を持ち被害者自宅付近まで行きました。お姉さんの身分証、顔が写っている写真、こちらとのメッセージやDMのやり取りを、全て宮城県警公式ホームページの情報提供メールに匿名にて送信する。客先の自宅にもお姉さんの身分証など全てカラーコピーして郵送する。そうなった場合確実に逮捕されます。」

さらにAさんのもとには、窃盗未遂罪で有罪判決を受けた特殊詐欺の受け子の過去の判例を報じた記事まで添付されてきた。さらに「損失を多少補填できれば検討はする」などと、金を要求してきたという。

 
 

Aさんは弁護士や警察に相談。立件は見送られたが、闇バイトの恐ろしさについて身を持って知り、「身を滅ぼしてしまうもの。軽率な考えで、家族を悲しませる結果になった」と深く反省している。

求められる「自衛」

言葉巧みに女性を“闇バイト”へと巻き込んだ犯罪グループ。今回女性が特殊詐欺に手を染めかけた一因には、特殊詐欺の手口についての知識が不十分だったことも挙げられる。警察庁や各都道府県警のホームページでは特殊詐欺の手口や対策が分かりやすくまとめられている。

<警察庁特殊詐欺対策ページ>
https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/sos47/case/

政府や警察は、闇バイト対策にも乗り出しているが、自分自身や家族、身近な人々が加害者にならないためには、私たち自身が知識を得て周囲と共有し、「自衛」することも重要だと言える。

Aさんは改めて「仕事探しを断念していたが、もう一度コツコツ頑張る姿を子供に見せたい」と語った。

うまい話には落とし穴がある。
「娘が間違った道に進まないよう手本を見せないといけない」
Aさんは最後に自らを戒め、前を向いた。

(仙台放送)

仙台放送
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