「323件/約5億円」。この数字は2022年、宮城県内で起きた、特殊詐欺による被害件数と被害額だ。被害防止のための対応が急務となる中、宮城県警は、窃盗容疑で逮捕した詐欺グループの“受け子”とみられる男から押収した「犯行マニュアル」を公開した。
グループが共有していたのは、稚拙でありながらも、細かく作られた「犯行の手口」だった。

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“受け子”男の携帯に残っていた「犯行マニュアル」

4月19日、一人の男が送検された。
窃盗の疑いで逮捕された仙台市太白区の会社員・阿部修也容疑者(35)だ。

窃盗の疑いで逮捕された阿部修也容疑者(19日)
窃盗の疑いで逮捕された阿部修也容疑者(19日)

警察によると、阿部容疑者は、2023年3月7日、何者かと共謀し警察官を装って、仙台市に住む90代の男性に、「キャッシュカードを不正に使われないようにするため、財務局職員が訪問する」などとうその電話をした上、財務局職員になりすまして男性の自宅を訪れ、キャッシュカード2枚を盗んだ疑いが持たれている。阿部容疑者は、容疑を認めているという。

闇バイトを通じて特殊詐欺グループの受け子・出し子の役割を果たしていたとみられる阿部容疑者。県警は、阿部容疑者のスマートフォンから、指示役から送信された「犯行マニュアル」を押収し、報道陣に公開した。そこに書かれていたのは、犯行当日の一日の流れから、キャッシュカードのすり替え方法、犯行に必要な携帯電話のアプリなど。細かすぎる「犯行の手口」だった。

マニュアル作成者は若者?

マニュアルでは、指示の出元を「本部」、ターゲットを「客」、キャッシュカードを「板」などと表現している。ここではそのマニュアルを原文のまま記載する。

【警察が押収した犯行マニュアル】1.犯行当日の流れ ※原文のまま
待機駅で待機。本部から住所送られたら、Googleマップで現在位置から客宅までの時間を出し、スクショをして本部へ。本部から連絡があったら、客宅へ向かい板のすり替え、キャッチしたら銀行へ。金下ろしたら回収へ向かい 回収後再び新しい待機駅へ

阿部容疑者のスマホに残っていた「犯行マニュアル」(提供:宮城県警)
阿部容疑者のスマホに残っていた「犯行マニュアル」(提供:宮城県警)

文章は話し言葉が中心となっていて、スマートフォンなどに表示されている画面を、そのまま一枚の画像として保存する機能、スクリーンショットを「スクショ」と表現している。若者が作成した文章なのだろう。こういった文章は、次のすり替えの説明でも見受けられる。

「すり替え出来たら咳払い1回」

【警察が押収した犯行マニュアル】2.すり替えの説明 ※原文のまま
ピンポン(インターホン)鳴らすとき、指示があってから押しますって本部へ伝えて押す
客が出てきたら名乗る(名乗りは毎回変わるので事前に確認)
例:〇〇警察署、〇〇の件で来ました、警視庁or金融庁)の〇〇です。
名乗り終えたら、『では、さっそく保管作業開始しますので、キャッシュカードをご用意ください。あと、保護申請番号のメモ紙もお願いします。(メモ紙ない場合もあり)
※メモ紙がしっかり書いてあるか確認すること
キャッシュカードを受け取り封筒にいれる、紙も同様。
入れたら、封をする。
(このとき、封筒は客に渡さない、絶対に封筒から手を離さない。)
封をしたら割印が必要なので、シャチハタ以外のご印鑑と、朱肉ありますか?印鑑は何でも結構です。と。印鑑を取りに行ってる好きに事前用意した封筒とすり替え。
すり替えが出来たら咳払い一回。

話す内容など事細かに記されている(提供:宮城県警)
話す内容など事細かに記されている(提供:宮城県警)

文章は、依然話し言葉が中心で、カギ括弧の位置や、副詞が正しく使用されていない。一方で「インターフォンを押す際は本部の指示を受けてから」「ターゲットへの身分の名乗り方」「受け取ったキャッシュカードを入れた封筒の扱い方」など、指示自体は、細かすぎると言ってもいいほど、詳細が書かれていることがわかる。
「すり替えが出来たら咳払い1回」とも書かれている。指示役がリアルタイムでやり取りを聞いているのだろうか。

細かすぎる「すり替え手順」

さらに、マニュアルを読み進めていくと、より細かく書かれている部分がある。それは、犯行で一番重要とみられる、キャッシュカードの「すり替え手順」。一言一句が記載されていた。

【警察が押収した犯行マニュアル】3.すり替えの手順 ※原文のまま
①〇〇警察△△の件で伺いました。●●と申します。封入作業の件で伺いました。
②早速ですが、封入作業を行わせていただきます。
・カラの封筒を出す
・カードを願いします。(お客様がカードを持ってくる)
ーーーーーーーーーーーーーーー
【作業手順】
・自分で封筒を持って
・自分でお客様のカードを入れる
「今入れますからねー」
「はい!全部で〇枚、入れましたよ!」
・ノリをつける
「じゃあノリつけますねー!」
(間髪入れずに)
※「あ、〇〇さん。割印がいるので印鑑持ってきてください!」
 玄関にあった場合、銀行のお届け印か実印じゃないと駄目と言う。
※印鑑を取りに行かせる。
(封筒をキープしたまま隙を作る)

すり替え完了
ーーーーーーーーーーーーーーー
③では、これで終わりになります
 私、別の被害者のおウチに行くので、こちらで失礼します。
 電話口の〇〇からこの後の詳しいお話を聞いてください。

「細かすぎる」すり替えの手順(提供:宮城県警)
「細かすぎる」すり替えの手順(提供:宮城県警)

ターゲットにアポイントを取ってから訪問していることが見て取れる。さらに、相手を安心させる目的なのか、行動一つ一つを説明。「間髪入れずに」という表現があるように、考える隙を与えず、その場を離れさせようとする目論見も、透けて見える。さらに、読み進めていくと、不慮の事態の対応について、複数のケースを想定した対処方法が記載されていた。

ケース1)印鑑が玄関にあり、ターゲットがその場を離れず、カードのすり替えが出来ない場合
筆記用具(赤いペン)を借りるふりをしてターゲットに探させ、そのうちにすり替える

提供:宮城県警
提供:宮城県警

ケース2)印鑑だけでなく、筆記用具も玄関にある場合
身分証の提示を促してターゲット本人に取りに行かせ、その隙にすり替える

提供:宮城県警
提供:宮城県警

このほかにも、「封筒はすぐパンツに入れて移動」などと、犯行が完了した後の対応も、指示の対象となっている。あきれるほど細かく指示されている。いずれにしても、これだけ細かいマニュアルを必要とするのは、詐欺にかかわったことなどない、普通の若者たちであることは容易に想像がつく。

犯行後の指示まで記載されている 提供:宮城県警
犯行後の指示まで記載されている 提供:宮城県警

若者を凶悪犯罪に加担させない取り組みを

警察によると、特殊詐欺グループは、闇バイトなどで受け子などの実行役を集め、こうしたマニュアルを共有し、組織的に犯罪に及んでいる。さらに、必ずしもマニュアル通りではなく、ターゲットの家庭の事情や、地域ごとの実情に合わせて、柔軟に手口を変えているという。

巧妙化、かつあらゆる手口が日々生まれる特殊詐欺。犯行の手口を知ることで、被害防止に役立てるだけでなく、普通に生活してきただけの若者を、詐欺やそのほかの凶悪犯罪に加担させないための取り組みも求められている。

(仙台放送)

仙台放送
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