愛媛県大洲市の古民家に、あるアートが誕生した。描いたのは、10代の若手芸術家。「アートの力で地域を元気にしたい!」と強い気持ちを持った2人のひと夏の挑戦に密着した。

10代の若き芸術家

愛媛県大洲市にある古民家宿舎「まろや四季」。

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壁にアートを描いているのは、宇和島市出身の村上明さん(19)と、同じく宇和島市出身の若藤はなさん(18)。それぞれ、芸術大学をめざして、県外で浪人中だ。

古民家のオーナーからの依頼を受け、3日間、泊まり込みで作品を仕上げている。

寝室の巨大な壁を描くのは若藤さん。テーマは「非現実的な旅」。

風や川、大洲の自然を表現したいということだが…

若藤はなさん(18):
でもその風景は大洲じゃなくて、大洲ではないどこかの風景。大洲をどこか感じる、大洲ではない世界の方が、旅の非現実感を表現できるかなと思って…

リビングの壁を担当するのは村上さん。作品のテーマは「桜」。

村上明さん(19):
オーナーさんが考える、一番「大洲らしいもの」を、このリビングにいれようと考えた。大洲城にあるサクラは別格なんだっておっしゃってて

高校生アーティストグループで活動

2人は愛媛県の宇和島南中等教育学校出身。高校生の時から絵画教室に通い、高校生アーティストグループ「ARTeeen」として、ポスター作りやアート教室などの活動をしてきた。

ARTeeenを立ち上げた「アトリエぱれっと」代表の清家由佳さんは「実際に10代の子たちが、地域の方たちが何を望まれてるのかを聞いて形にしていくということを経験させていただくのは、本当に子どもたちの力になる」と語る。

今回2人が絵を手掛ける「まろや四季」のオーナーの一瀬直人さんも、ARTeeenの活動を知り、リニューアルを依頼した。

「まろや四季」のオーナー・一瀬直人さん:
素敵な古民家がたくさんある地域なんで、やっぱりちょっと何かオリジナリティのあるものをやるのには、すごくいいアイデアだと思う。彼女たちの一つの仕事の実績みたいになって、こういう取り組みが他の古民家でも広がればいいなと思ってます

地元ならではの良さと課題

高校生の頃からこうした活動を行ってきた2人だが、若藤さんは、愛知県立芸術大学への進学を目指し、現在、名古屋の予備校に通っている。今回、愛媛への帰省に合わせて、この仕事に挑戦した。地元を離れることで、改めてふるさとの良さを感じているという。

一方で、アートの道を目指す上で感じているという地方の課題も…

若藤はなさん(18):
「世界堂」っていう画材屋さんが、愛媛にはなかったよね

村上明さん(19):
(都会は)学校帰りに(画材店に)ちょっと寄ったりっていうのが、すごく気楽にできるんですよね。だからこういうのを試してみたいってなった時に、愛媛よりも上達できる環境が整いやすいというか、スピードが速い

そう話す村上さんも8月から神奈川の予備校に通い、東京藝術大学への進学を目指す。

3日間で完成した2人の作品

都会の大学への進学を目指す2人だが、今回の仕事に熱い思いを持っている。

村上明さん(19):
(「まろや四季」のオーナーの)一瀬さんがすごいきれいだとおっしゃる桜が、一体どんなものなのか想像しながら、自分の中で最高に心地いい色を使っていきたい

作業は夜通し続いた。

そして迎えた最終日。前日からほぼ寝ずに作業を行ったという若藤さんには、最後に大きな作業が残っていた。表現するのは「大洲の霧」。

村上明さん(19):
今どっちもこのシルエットが同じ感じがするよね、やけんこっちをパキッとしたら、また変わるかも

若藤さんの作品に村上さんもアドバイス。画材を変えて試行錯誤しながら、風景画が白い霧に包まれた。

完成したのは…

風に揺られ、水面に映る大きな木。そして川を通る舟。まさに大洲を彷彿とさせる風景画だ。

そして、村上さんの作品は…

使った色は13色。それぞれの色の輪郭をはっきりと際立たせ、桜を表現した。

村上明さん(19):
小さい時は絵を描くことって、自己顕示欲を満たすくらいでしかなかった。でも、色を使い始めてからこの一つの色面を、むらなく丁寧に塗ることが快感になっちゃいました。いい色の構成を思いついたらもうすっごい幸せです

「想像を超えた」と絶賛の嵐

早速、オーナーとアート教室の先生にお披露目した。

「アトリエぱれっと」代表・清家由佳さん:
おお~鮮やか!

「まろや四季」オーナー・一瀬直人さん:
うわ~すげえ。なんか、ほんますごいな。これは…自分の想像をちょびっと超えたのができあがって感動してます

若藤さんと村上さんの家族も、完成した作品を見に来た。感動する家族に2人がアートの道を進むことについて聞いてみると…

若藤さんの母:
とても嬉しく思ってますね。自分のやりたいことを突き進むっていうのはとても誇らしいです

村上さんの祖母:
自分の目標がある子でよかったなと思います。できるだけ、自分の道を行ってほしいなとは思ってます

2人の決めた道を力強く応援していた。

村上明さん(19):
やってよかったですね。大きな壁面に絵を描くことで、色に囲まれるのも好きなんだなって考えました

若藤はなさん(18):
風景画とか描く時に、これよりもっと上達した絵が描けるようになっていければなと思いますね


10代の若き芸術家たちが挑んだ、ふるさとでの「ひと夏」の挑戦。貴重な体験を胸に、それぞれの夢に向かって突き進む。

(テレビ愛媛)

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