シリーズ「被爆78年・サミット経て…伝える“あの日”」。被爆者の高齢化が進む中、被爆証言、被爆の実相をいかに若い世代に受け継ぐかが課題になっている。広島市の高校生が学校の先輩でもある被爆者の思いを受け継ぎ伝えようとしている。78年の時を経てつながる先輩と後輩の姿を追った。
高校生が毎年、学校の先輩の被爆者の証言を聞く会を開催
広島皆実高校の生徒会は毎年この時期、平和学習「語りつぐヒロシマ」の企画・運営を行い、地元の公民館で地域の子どもたちを集めて被爆者の体験などを伝えている。
今回、中心となって動くのは生徒会長の田中春麗さん高校2年生。
この日、平和学習で被爆体験を話してもらう被爆者の河田和子さん(91)を訪ねた。
河田和子さん:
地獄ですよね。あの光景が現実にありえるはずがない。悲しいとか辛いとか見るの怖いとかそういう感情はなくて、よく皆さん頭が真っ白になったとおっしゃいますけど、白もなかった
「ありえるはずがない」という光景を、田中さんらは思い浮かべるかのように話を聞いた。
河田さんは皆実高校の前身となった県立広島第一高等女学校2年生の時に被爆し、父親と伯父夫婦を失った。
普段あまり被爆体験を語らない河田さん、今回引き受けてくれたのは…
河田和子さん:
広島皆実高校じゃないですか。後輩の人たちが頑張ってるんだから、私も命がある限りやろうという気持ちになった
母校の後輩たちの思いに背中を押されたという。
後輩に語り継いでほしいという思いで、河田さんが田中さんたちを連れてきたのは母校、県立広島第一高等女学校の原爆犠牲者の慰霊碑。
爆心地から600メートルにあった校舎は倒壊焼失し、多くの犠牲者が出た。
慰霊碑に刻まれた歌を河田さんは思い出深そうに口ずさんだ。
河田和子さん:
3番まで歌えたんですよ。ここは本当に忘れられない場所
語る言葉は少ないものの、先輩の思いを後輩は感じたようだった。
「話を聞いて帰った人がほかの人に発信するような会にしたい」
生徒会メンバーの間では、平和学習をどう進めるかの試行錯誤が続いていた。
そんな中、生徒たちの様子を見に来たのは、「語りつぐヒロシマ」を主催し、生徒たちをサポートする藤原みどりさん。
「語りつぐヒロシマ」主催 藤原みどりさん：
次の世代が継承していくというところが一番大事かなと思うので、自分のこととして発信をしていくところが大切かなと思う
広島皆実高校生徒会長・田中春麗さん：
文章で見るよりももっと理解できるものがあるように感じたので、本人から聞けることが、すごい貴重だなと改めて思った。「語りつぐヒロシマ」は聞いて帰った人に発信してもらえるような会にしたい
平和学習当日を迎えた。
広島皆実高校生徒会長・田中春麗さん：
怖くて緊張しています。準備した通りにやれば、うまくいくと思います
地域の子どもたちなど、約80人が集まり、会場に用意された席はほぼ埋まった。
河田和子さん:
遺体が本当に転がっていました。生きているんじゃないかと思って、13歳のこの手で屍をひっくり返し、確かめましたが、父を探すことはできません
広島皆実高校生徒：
戦争を経験して大切にしたいと思ったことは何ですか?
河田和子さん:
それは命です。あの日に亡くなった人の無念さを思うと、戦争は私たちにとって大きな衝撃であり、大きな出来事であったと思います
子どもたちも真剣な表情で河田さんの話を聞いた。
参加者A：
ロシアとウクライナの問題もありますし、知らないと戦争を起こしてしまうかもしれないので、子どものころからこういう教育が大事だと感じています
参加者B：
私たちが被爆者の話を聞いて伝えていくことは大事だと思います
河田さんと生徒たちのメッセージは、参加者らに十分届いていたようだ。
河田和子さん:
私は被爆したものでないと、この痛みはわからないと思ってたけど、伝えることで伝承してもらえると期待をしています
生徒らは、自分たちで折った千羽鶴を会場近くの慰霊碑にささげた。
広島皆実高校生徒会長・田中春麗さん：
自発的に知ろうとするきっかけにもなりましたし、この会を通して、いろんな人に伝えることができたので、改めて頑張って活動しようと思います
先輩から若い後輩へ、被爆証言と平和のバトンが、未来へと受け継がれていく。
（テレビ新広島）
