新型コロナウイルスの感染拡大が、人々の働き方に思わぬ影響を与えている。感染予防対策としてテレワークが推奨されたこともあり、ビジネスシーンでも遠隔でのやり取りが増えてきた。

こうした状況もあって一部では、オフィスがなくても仕事はできるのではないか?という、「オフィス不要論」すら浮上しているという。

業務内容や企業内の立場にもよるが、たしかにメールや電話、オンライン会議などを活用すれば、完結できる仕事も少なくない。労働者側は通勤時間や通勤ストレスなどからの解放、企業側はオフィスの賃貸コストなどを削減することにもつながるだろう。

ベンチャー企業の「ENECHANGE」に取材した

しかし、現実的にそんなことはできるのだろうか。こうした中、エネルギーベンチャー企業の「ENECHANGE」(東京都千代田区)は社員の働き方改革と並行して、オフィスの縮小に取り組み始めたという。

オフィス面積の約4割を削減へ

ENECHANGEでは、東京都が在宅勤務を推奨したことを受けて、3月26日から全社員約130人の業務全てをテレワークに切り替えた。それと同時に、働き方にどのような影響が出てくるのかを、アンケートなどで定期的に調査した。

その結果、テレワークの移行後も顧客満足度に悪影響はなく、社員の生産性や健康状態、業績においてはむしろポジティブな効果を得られたという。緊急事態宣言が解除されたこともあり、6月1日からはテレワーク週3日、出社週2日としているが、今後も出社は極力減らす方針だという。

そしてこの決断で、オフィスの価値観が変化した。1日あたりの出社人数が約3分の1程度に減ったことで、大きな場所を借りる必要性が薄くなったというのだ。

ENECHENGEのオフィス。出社人数が減り、スペースが余る状態となっている(6月23日撮影)

ENECHENGEのオフィス面積は約850平方メートルだが、このうちの一部解約手続きを進めていて、7月中には約500平方メートルに縮小するという。オフィス面積の約4割、約350平方メートルを削減するという大胆な発想だが、なぜこの短期間で決断したのだろうか。

そして企業や社員には、どのような影響が出ているのだろう。ENECHANGEの創業者で代表取締役会長の城口洋平さんにお話を伺った。

テレワーク1カ月で「意外といけるぞ」と感じた

――オフィスの縮小を決断した背景は?

オフィス縮小を決めたのが、4月末ごろです。社会の空気に押されて全社員のテレワークを決めたこともあり、新型コロナウイルスが沈静化すれば元に戻ればいいと考えていましたが、1カ月ほど続けてみて「意外といけるぞ」と感じました

理由は大きく二つあり、一つはプラス面が大きかったこと。テレワークで生産性が落ちている人は限定的でしたし、1カ月も続けると環境にも慣れて改善する動きも出てきます。会社側がお金を出して支援すれば、その環境も整えられます。何より、出社や通勤が無駄な時間やストレスとなっていたことに気付きました。
 

ENECHANGEの創業者・代表取締役会長の城口洋平さん

――もう一つの理由は?

弊社は電気・ガスの切り替えを支援する企業ですが、世間の在宅時間が増えたことで、2020年4月~6月は問い合わせが前年同月比でほぼ倍増しました。仕事が増えているにも関わらず、全員テレワークでこなせている状況だったのです。働き方を見直すことにもなると思いました。


――オフィスの縮小で工夫したことはある?

テレワークを続ける中で、オフィスには人と会うために来るのでは?と考えるようになりました。社外の人と会う機会は重要ですし、対面でなければできないこともあります。対面での関係が一切ない人同士のテレワークは難しいところもありますね

そのため、場所の使い方としては、大きな執務室やデスクは減らして、8人ほどが集まれる来客用の会議室を増やすことにしました。社員が利用できる一人用のブースも作る予定です。オンラインミーティングは、プライベートな空間でなければやりにくいところもありますからね。
 

セミナー・研修に使っていた大部屋は、少人数用の会議室などに改装される

年間4000万円~5000万円を削減

――オフィス縮小で、会社はどう変わった?

東京都の相場で考えると、社員1人が一等地の職場で働くスペースを用意するには、賃貸料や設備関連などで月額約5万円のコストがかかります。当社の社員は約130人なので、月ごとに700万円ほどかかっていたわけです。弊社の場合はそれが約半減することになるので、年間だと4000万円~5000万円のコスト削減効果を見込めます。

その一方で、社員には一律で月5000円の手当を支給することにしました。また、削減したお金はボーナスや昇給原資にも回します。社員にとっても豪華なオフィスにいるよりは、豪華な家に住みたいわけですしね。限られたお金の再配分を人に回せることはメリットだと思います。
 

この部屋は7月ごろに削減される予定。経理業務などで使用していたという

――テレワークを恒久化したのはなぜ?

弊社は週3日をテレワークとしましたが、これも理由があります。土日を含めると週5日は家にいるので、遠方からの出社が可能になるんですね。ビジネスホテルに泊まるような、プチ単身赴任も可能になる。居住の選択肢が大幅に広がるんです。

そうすると、同じ家賃でもより大きな家に住むことができる。奥さんや子供がいる人、両親を介護したい人がその選択肢を選べるようになります。昔は生活をよくするには、がむしゃらに働いて給与を稼ぐものだったかもしれませんが、必ずしもそうだけではない。新しい働き方、ニューノーマルな生き方・価値観もあるのではないでしょうか。


――今回の試みを通じて、課題に感じたことはある?

出社をどこまで減らしていいかは悩みどころですね。個人的には、社員の出社は週1日にさせたいのですが、所属部署以外の人と会わなくなるので、折衷案として週2日にしています。それでも、僕自身ですら「これなら週1日でよかったな」と思うこともあります。

社員と経営者では見ている視点も違い、社員は今すぐのことを、経営者は3年~5年先を見ていることが多い。そこのギャップをどう埋めていくかは、難しいなとも思います。
 

オフィスを縮小できる「二つの条件」

――オフィスの縮小は一般的な企業でもできる?

一般的な企業がオフィスを縮小するには、二つの条件があると思います。一つはテレワークを導入したことで業績が落ちていないこと。もう一つは定期的に社員の声を聞いて、生産性や要望などを観測できること。ここができないのなら、縮小は企業にとって自殺行為だと思います。

僕らも最初はテレワークで「生産性が落ちた」という人が多かったのですが、理由を聞くとネットの通信環境が整っていないことなどでした。この辺を解決するにはお金もかかるので、短期的な支出は増えます。オフィス縮小はそれからできることです。


――それでは、企業はどう考えればいい?

オフィスの縮小は、何もお金のためだけにやるのではない
と思います。自分たちの新しい働き方を定義して、社員や新しく入る人たちへのメッセージにもなる。賃貸を解約する場合は違約金がかかることもありますが、その後を見るとペイすることもできるでしょう。

無責任なことは言えませんが、今はテレワークを恒久化しやすいタイミングでもあります。会社が5年、10年続いていくことを考えると、働き方を変える機会を逸することのほうが良くないのではないでしょうか。


オフィスの縮小にはメリットがあるが、その恩恵を受けるには、会社全体で働き方を転換するような取り組みが求められるようだ。

縮小に魅力を感じた経営者は一度、自分の会社がテレワークに向いているか、社員の要望を改善できる環境が整っているかを確認するべきだろう。

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