新型コロナウイルス感染症の法律上の位置づけが5類に移行し、企業では、リモートワーク(テレワーク)を廃止や縮小する「出社回帰」の動きが広まっているようだ。

こうした中、子育て中の30~40代マネジメント層に、出社回帰が理由で転職を検討する人が増えていることが調査で明らかになった。

マネジメント層はリモートワークの満足度が高い

ワーキングペアレンツ向けの転職サービス「withwork」を提供するXTalentは、「コロナ禍におけるワーキングペアレンツの転職動向の変化」をテーマした調査を6月2~18日にインターネットで実施。

対象は20~50代の男女1085人で、そのうち女性が約8割、男性が約2割で、97.4%に子どもがいる。この中で、子育て中の30~40代のマネジメント層(リーダー層以上)は407人となる。

(提供:XTalent)
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まず「出社回帰」について尋ねると、30~40代マネジメント層の47.7%が「賛成」(「一部賛成」と「全面的に賛成」の合計)、そして39.6%が「全面的に反対」と回答。

(提供:XTalent)
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また「働く場所」についての満足度は、フルリモートで勤務する30~40代マネジメント層の74.6%が「とても満足」と回答した。

これらの結果から、30~40代のマネジメント層は出社回帰に対する賛成の声もあるが、リモートワーク経験者の満足度が高いことがわかった。

(提供:XTalent)
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そして興味深いのは、リモートワークが導入されない、または縮小・廃止されたことを理由に転職を考えたり実際に転職をしたことがあるかという質問だ。子育て中の30~40代マネジメント層の約2人に1人(407人中198人)が、「ある」と回答したのだ。

XTalentは、出社回帰の増加とともにこのような転職検討者が増えているとしている。

ではコロナ禍を経て、30~40代マネジメント層の働き方に対する意識はどのように変わってきているのだろうか。XTalentの代表取締役・上原達也さんに聞いた。

私生活を犠牲にしない働き方へシフト

――30~40代マネジメント層の考えにどのような変化が起きている?

30〜40代マネジメント層は既にキャリアとライフをトレードオフにしない生き方(働き方)を積極的に選び始めているということです。昭和的な考え方では、出世やキャリアアップを目指すならば、ライフを犠牲にすることが当たり前でした。

しかし、現在は男女問わずに子育てに積極的に取り組みながら、キャリアを捨てない新しい当たり前ができつつあります。その一つの側面として、両立に欠かせないリモートワークという制度が、その企業でずっと働いていきたいと思える指標の一つとなっていることを示していると思います。


――この層に、全体に比べてフルリモートの満足度が高いのはなぜ?

コロナ禍でリモートワークをする中で、プライベートを大切にしながら仕事でも成果を出した経験が大きな背景となっていると思います。

特に子どもを持つ30〜40代マネジメント層にとって、出社中心だった働き方の時は、十分に子育てに時間を費やせなかったところが、時間と場所に融通がきくリモートワーク中心の働き方ですと、子育てや家事にも時間を割けるという点が満足度を高める要因になっているのではないかと分析します。

(画像はイメージ)
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――では、30~40代マネジメント層は出社回帰に「全面的に反対」の割合が全体に比べて少ない理由は?

自由記述の意見をみると、マネジメント層の方たちは、ある程度「出社によるメリットやその必要性」も理解しています。例えば、メンバー同士でコミュニケーションを取る機会は必要だったり、がっつりと議論する事項があるときは集まった方が良かったり、新卒社員のケアやリモートワークができない職種もあるなど、経営の視点で出社回帰現象をとらえています。

リモートワークはキャリアとライフを両立する上で重要な一つの「システム」であるものの、出社することをエッセンス的に取り入れていくことも重要だと考えているのです。

また、最も多かった意見としては、組織の状況や個人の状況に合わせて、出社とリモートワークをうまく組み合わせたり、自由に選べるようにすることを希望する声でした。もうコロナ禍じゃないからといった理由でリモートワークを廃止するのではなく、企業の競争力を高める視点でも、生産的な働き方の一つとして、リモートワークを柔軟に取り入れていくべきだという意見が多かったです。

30〜40代の中途採用ニーズは増えている

――30~40代マネジメント層はどんな働き方・職場を求めている?

前提として、彼らは「柔軟な働き方(リモートワークの導入、フレックスや時短勤務可)」と「子育てや多様性に理解のあるカルチャー、心理的安全性」を求めています。それらが家事育児など様々な制限がある中で、パフォーマンスを最大限に発揮できる要素だと考えています。

その上で、事業の社会的意義や成長性、やりがいなどを見ています。これらの前提を整備することが、これからの企業の中核となる優秀な人材を確保する一歩となると考えます。

(提供:XTalent)
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――実際、30〜40代の中途採用を検討する企業は増えている?

増えています。30代〜40代のマネジメント層の採用ニーズは非常に多く、即戦力やマネジメント経験のある人たちを採用したいと考える企業が、大企業を含め増えてきています。

転職市場は二極化してきており、採用ニーズが、DXなど企業に必要な経験を持つ人に需要が集中してきています。

特にDX人材は、未経験者というよりも、経験豊富なミドル層の採用ニーズが高い傾向があります。平均年齢30代後半くらいの会社で、子育て層をターゲットとする会社も増えています。

企業と個人で思惑のすれ違いも

――そもそも、調査をした狙いは?

2022年秋ごろからwithworkのチーム内では“出社回帰”が度々話題に上がっており、2023年に突入した頃、「現職がリモートワークを廃止するので、子育てと仕事の両立のため転職したい」というユーザーさんの登録が目を引くようになりました。企業と働く個人、それぞれの思惑を転職エージェントとして目の当たりにしたことが、今回の調査の発端となっています。


――実際に出社回帰は増えている?またその理由は?

幸いにもwithworkのクライアントでは原則出社など極端な出社回帰はありません。フルリモートから週1~月数回程度の出社を取り入れたハイブリッドワークにしていく、というケースが多いです。クライアントにも、フルリモートを継続している企業はかなり稀になりました。

世の中全体では出社回帰をする企業はとても増えているようですが、XTalentでは働き方の柔軟性の高い会社とお付き合いしているので、その全体観は掴めていません。ただ、出社回帰を理由に弊社に相談いただく求職者の方は非常に増えました。

出社回帰の理由ですが、「ホワイトボードを使った議論など、大勢で創造的な議論をする際は対面の方が生産的」「部署をまたいだコミュニケーションはリモートワークでは限界がある」といった理由もあります。

一方で、業績が下がったから「とりあえず出社しよう」となったり、管理職レイヤーが「出社させないとちゃんと仕事をしているか不安(サボっているんじゃないか)」と感じてしまってるという話もよくお聞きします。

「すれ違いをなくさないと誰も幸せになれない」

――この調査を通じて、伝えたかったことは何?

私たちは、働き方に対する、企業側の声と個人側の声に“すれ違い”を感じていました。企業の声としては、一般的には「やっぱり出社じゃないと駄目だ。人はサボる」や「リモートだと成果は出ない」という声がまだまだ強く、また、リモートワークを希望する人に対して否定的な声もありました。前提としてリモートワークだと、人はそんなに頑張らない、頑張ったとしても良いチームは作れない…などです。

企業側の意見に対しては全面否定をするつもりはありませんが、一方で、当事者であるワーキングペアレンツの視点から見ると、「頑張って成果を出して貢献したいんだけど、場所と時間の融通がきかないと難しい…」と思ってしまう。「出社したいんだよ…したいんだけど、毎日はできないんだよ…」という声もありました。

お互いに見ている景色の違いを、ちゃんと認識して、このすれ違いをなくさないと、誰も幸せにならないなと感じていました。社会としてより良い形を探していくために、これからの働き方に対する企業と個人それぞれの声を発信したいと考えています。

(画像はイメージ)
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リモートワークにより、子育て中のマネジメント層が私生活と両立しながらの働き方ができるようになってきたようだ。リーモートワークができない業務もあると思うが、企業側はこのような意識の変化への対応が重要になるのかもしれない。

プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。