「犬も飼い主も幸せに」。そう願って運営されている老犬ホームが長野県安曇野市にあります。先日、そこで一匹の老犬が息を引きとりました。飼い主は認知症により夜鳴きが悪化し、互いの幸せを考えて、悩んだ末に預けたといいます。「最期、さよならできず、ごめんね」と罪悪感を感じている一方で、「選択は間違っていなかった」と話します。ホームでの日々と飼い主と愛犬の「別れ」を取材しました。

悩んだ末、愛犬を老犬ホームに

新潟県糸魚川市の佐藤江利子さん。7月、19年ともに暮らした愛犬を亡くしました。

佐藤さんの愛犬「ティム」。最後の8カ月は安曇野市の「ドッグステイハウスDOG'S」で過ごしました。

元教員で保護ボランティアをしていた宮脇史さんが、2022年4月に立ち上げた老犬ホームです。

佐藤江利子さん
佐藤江利子さん
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佐藤さんは2022年11月に預けてから月1回、片道2時間をかけて会いに通いました。

2023年5月―。

「ティムちゃん、来たよ」、「歩きたいの」とやさしく声をかける佐藤さん。

「ティム」はしたいことや、欲しいものがあると鳴いて伝えます。

左:ドッグステイハウスDOG'S・宮脇さん 右:佐藤さん
左:ドッグステイハウスDOG'S・宮脇さん 右:佐藤さん

「ティム」を預けることになったのも、その鳴き声が理由でした。

認知症による夜鳴き。状態は悪化する一方でした。

佐藤江利子さん(2023年5月取材):
薬を飲ませても長くて4時間、短くて1時間しか寝てくれず、抱っこして押し入れに入ったり、車に入ったり。いつまで続くのかと思うと

悩んだ末、佐藤さんは長期の預かりもしている宮脇さんのホームを頼ることに。

認知症による夜鳴き(佐藤さん提供)
認知症による夜鳴き(佐藤さん提供)

「ティム」が幸せなら

「ティム」は防音壁などを備えた犬舎に迎えられました。

夜は犬舎、昼はドッグラン。そうした生活が、1カ月ほど続くとー。

ドッグステイハウスDOG'S・宮脇史オーナー(2023年5月取材):
(夜鳴きが)少なくなったと思います。何ででしょうね。昼間、他の犬とワイワイガヤガヤしてるので、疲れて寝るのか、安心して寝るのか

宮脇さんは「一度、家に戻っては」と提案しましたが、佐藤さんは最期まで預けることにしました。「好きな時に好きなように歩ける。ティムが幸せなら、手元にいなくてもいい」と思ったからです。

夜は犬舎、昼はドッグランで
夜は犬舎、昼はドッグランで

最期まで希望をかなえてあげたい

徐々に弱っていく「ティム」。

5月になると、それまでの補助器具では歩くのが難しくなり、新しい器具を注文することに。

体を細かく採寸します。

佐藤江利子さん(2023年5月取材):
(ティムは)とにかく歩きたがる。それだけは希望として、かなえてあげたい

新しい補助器具の採寸
新しい補助器具の採寸

10日後、佐藤さんの元に新しい器具で歩く「ティム」の動画が届きました。

(当時の佐藤さんのLINE)
足取りが軽やかですね!

(当時の宮脇さんのLINE)
きょうも元気におしゃべりしながら歩いてます

新しい補助器具で歩くティム(提供写真)
新しい補助器具で歩くティム(提供写真)

1カ月半後、息を引き取る

それから1カ月半後ー。

(宮脇さんからのメッセージ)
ティムさんが虹の橋を渡りました

7月7日の早朝、「ティム」は息を引き取っていました。

前日もいつものように庭を歩き、エサを食べて過ごしたといいます。

ドッグステイハウスDOG'S・宮脇史オーナー:
よく頑張ったね。あまり床ずれもなく、きれいだと思います。大事にされたからね、ティム君ね

ティムが使っていた補助器具
ティムが使っていた補助器具

昼すぎ、佐藤さんがホームに到着―。

佐藤江利子さん:
ティムちゃん、どうした

佐藤さんは、ティムの様子について、「苦しそうな顔じゃなくて、安らかに見えました。痛いところもなかったろうし、苦しくもなかったろうし」と話します。

佐藤江利子さん:
おうちに帰ろうね。みんなにバイバイしたか?

覚悟はできていた佐藤さん。

どこか安どした表情で「ティム」を連れて帰ります。

息を引き取ったティムをなでる佐藤さん
息を引き取ったティムをなでる佐藤さん

ドッグステイハウスDOG'S・宮脇史オーナー:
(ティムは)大変な子でしたよ。鳴けば気になっちゃうし、外出していても見守りカメラ見ちゃったりとか、(佐藤さんも)私が大変だろうなって思いながら毎日いらしたみたいだし。私もなんですよ、お互いのことを心配してるだろうなって思っていた

「最期さよならできず、ごめんね」

6日後ー。

佐藤江利子さん:
朝起きると(ティムに)、「おはよう」ってあいさつして、水を換えて、夜は「おやすみ」って言って寝室へ上がる。(ティムが)足元でいつも寝ている、いるような気持ちで声掛けしてます

ティムが亡くなってから6日後…
ティムが亡くなってから6日後…

佐藤江利子さん:
本当は(私が)抱っこした中で旅立つのが理想でしたけど、(家に帰った)その夜、抱っこして「最期、さよならできなかったの、ごめんね」って5分くらい泣きました

葬儀を終え「ティム」は今、10年前に他界した夫・正男さんの横で眠っています。

ティムは10年前に他界した夫・正男さんの横で眠っている
ティムは10年前に他界した夫・正男さんの横で眠っている

「選択は間違っていなかった」

19年連れ添った愛犬を老犬ホームに預けたこと、そこで最期を迎えさせたことー。

「選択は間違っていなかった」と佐藤さんは確信しています。

愛犬を老犬ホームに・佐藤江利子さん:
(入所の前は)1カ月くらい悩みました。罪悪感がすごくあって、そんなことしていいのかって。1カ月悩んで悩んで、電話してみたら(宮脇さんは)「気軽に預けてください」って

老犬ホームで暮らしていた頃のティム
老犬ホームで暮らしていた頃のティム

愛犬を老犬ホームに・佐藤江利子さん:
(あのホームは)家庭的で、他の犬と触れ合いがあるって後にわかって、人とも会わせてくれる、ボランティア、来客の方とか。誰が(犬の)頭をなでても散歩に連れていってもOK。(宮脇さんは)自分の犬のように扱ってくれる。(ティムのために)できることは全部しました。(幸せは)人それぞれなんですけど、(ティムには)家で寝たきりになるよりは、楽しく食べて、歩けて、いったことが理想的

左:佐藤さん 右:宮脇さんとティム
左:佐藤さん 右:宮脇さんとティム

互いの幸せを願い

犬も飼い主も幸せにー。

そうした結末を迎えるには、老犬ホームのような場所が必要だと佐藤さんは実感しています。

佐藤江利子さん:
(今は)ペットロスはなくて、19年間過ごせた感謝の気持ち。(ティムも私も)お互いに幸せだったと思います。本当は最期まで面倒をみなきゃいけないけど、限度があると思ったときは、老犬ホームを利用する選択がこれからは有りだと思います。最後まで愛犬と幸せに暮らせたら、そういう道も選んでいいと思います

佐藤さんとティム
佐藤さんとティム

(長野放送)

長野放送
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