憲政史上最長の政権を築き上げた安倍元首相が、選挙の応援演説中に凶弾に倒れてから7月8日で1年が経ち、一周忌法要がしめやかに行われた。BSフジLIVE「プライムニュース」では安倍元首相の盟友・菅義偉前首相を迎え、思いをうかがった。

菅元首相「安倍さんとケンカすることはなかった」

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新美有加キャスター:
安倍元総理の一周忌に参列され、改めての思いは。

菅義偉 前首相:
もう1年経ったのかという思い。政治的な動きがあると、安倍さんならどんな判断を下したかなと。総理と官房長官は、何があっても1日1回会った方がいいという共通の考えだった。たとえ何もなくても訪ね、お茶を飲んで帰ってきたり。振り返れば7年8カ月も務めたなと。

反町理キャスター:
ケンカすることは?

菅義偉 前首相:
なかった。しても勝てない(笑)。ケンカではないが、客観的な意見を伝えるのが官房長官の役割だと思っていた。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
コロナ禍初期に、官房長官の菅さんに話さず総理だけで学校の休業を決めてしまったことがあった。

菅義偉 前首相:
終わったあとで、きちっと話をしてほしいと言った。私だけでなく文科相にも。

反町理キャスター:
安倍さんはどういう反応を?

菅義偉 前首相:
怒ることは絶対にない。嫌な顔もしない。

反町理キャスター:
外交と内政の一部が安倍さんで、内政のほとんどは菅さんが担当されていたのでは、との田﨑さんの見方があった。

菅義偉 前首相:
自然にそのように分かれてきたのだと思う。

インド、韓国、インバウンド…菅氏が引き継ぐ安倍外交

新美有加キャスター:
安倍元総理の外交は「地球儀を俯瞰する外交」がテーマだった。菅前総理は日印協会会長を引き継ぎ、約100人の経済人とインドを訪問。安倍元総理と親交が深かったモディ首相と会談した。

菅義偉 前首相:
総理大臣として、ホワイトハウスでの日米豪印(クアッド)首脳会合でモディ首相と会った経緯もある。インドは今年、人口が世界一になる。2022年のGDP成長率は7.2%。日本にとって大きな可能性がある国。

新美有加キャスター:
菅前総理は日韓議連会長でもある。安倍政権時代は反故にされた日韓合意、元徴用工問題、レーダー照射事案など反日姿勢に対応してきた。

菅義偉 前首相:
一貫して我が国の立場に基づき主張していくことは、当時も今も変わらない。だが相手が大きく変わった。

反町理キャスター:
現在の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領を評価する?

菅義偉 前首相:
私たちの前でも自国民の前でも、これだけ客観的に発言する大統領は見たことがない。

反町理キャスター:
韓国議会で65%を占める野党の議員が、処理水の問題で理解できない対日批判を展開。彼らが来年の選挙でまた勝つ心配は。

菅義偉 前首相:
韓国の内政への言及は控えるが、冷静に客観的に判断している尹大統領は評価すべき。北朝鮮のミサイルを考えれば、自由・民主を掲げる韓国の大統領と連携するのは極めて大事。処理水についても客観的事実に基づいた韓国政府としての見解が出た。

新美有加キャスター:
新型コロナ流行で外国人観光客は減少したが、入国制限も撤廃され今年の数字は回復傾向。

菅義偉 前首相:
現在は元通り以上の数字が見えてきている。1人あたりの消費額がコロナ前の1.5倍ほどと言われる。中国人観光客の数字が動き出せば一挙に増えると思う。

選挙で9戦9勝の安倍元首相は「選挙になると元気に」

新美有加キャスター:
安倍元総理は2014年の解散をアベノミクス解散と名づけ、アベノミクスを進めるか止めるか問うた。消費税率の10%への引き上げを1年半先送りすると表明。結果、自民党が追加公認含め291議席を獲得し圧勝した。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
安倍さんはサミットからの帰途で、7~9月のGDPの数値がマイナス1.6ポイントと非常に悪かったことを知り、麻生太郎財務相と相談した。増税は見送るほかなく、解散だと合意。菅さんも当然聞いていたと思う。

菅義偉 前首相:
聞いていた。まさに安倍さんの大一番で、非常に自信をもって解散したときだった。

反町理キャスター:
4年の任期のうちまだ2年で、GDPはマイナス成長、先送りとはいえ1年半後の消費増税を約束する解散。だが勝機があるとした。一方、この6月の解散はなかった。次の解散も国民負担が大きなテーマになると見られるが。

菅義偉 前首相:
当時、経済がうまくいっていた。有効求人倍率は47都道府県全てで1を超え、世の中の雰囲気がガラッと変わっていた。次にどういう形で解散するかわからないが、少なくとも前の通常国会の会期末とは思わなかった。解散してほしいという国民は確か11%ほど。簡単ではない。

新美有加キャスター:
安倍さんは何度も勝負を賭けて勝ってきた。

菅義偉 前首相:
安倍さんは大好きなんですよね。

反町理キャスター:
えっ、選挙が?

菅義偉 前首相:
勝負師というか、戦いが好きな人だったと思う。

反町理キャスター:
衆参と総裁選を全部勝って9戦9勝。選挙になると元気になるんですか。

菅義偉 前首相:
元気になると思う。そしてトレンドを気にして、多くの情報を集める。解散は総理の判断。私はあまり自分の意見を出さないよう気をつけていた。

反町理キャスター:
安倍さんと菅さんの関係は政策面の絆があったのか、選挙をともに戦う同志だったのか、2人を最も結びつけるものは何だったか。

菅義偉 前首相:
両方では。第2次政権で私が安倍さんを推し続けてきて、自然にそういう形ができた感じ。食い違いはほとんどなかったと思う。

反町理キャスター:
安倍さん関連の話として関心が持たれる清和会(安倍派)の状況。萩生田光一政調会長らいわゆる「5人衆」による集団指導体制に対し、下村博文会長代理が反対する発言。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
清和会内の権力闘争。塩谷立・下村博文会長代理が主導権を持ってきたが、派内では圧倒的に5人に支持が多い。彼らがいかに実権を握り、誰が代表者になるか。安倍さんの5人への評価は? 

菅義偉 前首相:
評価ではないが、よく話題に上っていたのは萩生田さん、また参議院で法案を成立させるのが大変という中で世耕さん。だが、いずれにせよ清和会の皆さんが決めること。

自公連立の今後、躍進する維新との関係はどうなる

新美有加キャスター:
次期衆院選の候補擁立をめぐり自公の連立に亀裂が入った。公明党の石井幹事長が「東京における自公の信頼は地に落ちた」。安倍政権・菅政権時にはなかった状況。

菅義偉 前首相:
政治の安定は政策に直結する。信頼感が大事。例えば、軽減税率の幅を食料品に広げることに自民党は消極的だったが、当時公明党の望んだ形にした。これだけ物価が高い現在、効いている。自民党ならば多分できない政策だった。逆に平和安全法制は、公明党に真正面からお願いして受けていただき成立させることができた。これも多分、自民党一党ではできなかった。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
現在の問題は政策ではなく、東京28区と29区で公明党が候補者を立てられるかどうかという選挙区の問題。「地に落ちた」という言葉を使うような問題か。

菅義偉 前首相:
私の立場で申し上げることは控えるが、冷静な対応が大事。

反町理キャスター:
FNNの世論調査では、自公連立を解消すべきという声が野党支持層や無党派層を含む数字で53.1%。自民支持層では39.9%。公明支持層では17%。

菅義偉 前首相:
今、自民党は参議院で過半数に達していない。連立や特別な連携をしなければ、国会が動かなくなってしまう可能性がある。

新美有加キャスター:
統一地方選で日本維新の会が大躍進。菅さんは安倍政権時代から、橋下徹さんや松井一郎さん、安倍元総理とクリスマスにご飯会を開くなど付き合いがあった。

菅義偉 前首相:
維新が出てきたときは第一党になりそうな雰囲気があった。自民党も野党のときで、なんとか安倍さんに代表を、つまり首班指名で投票するという話があったのは事実。何でも反対ではなく、政策によって賛成・反対を分ける政党だったと思う。

反町理キャスター:
自民と維新の関係は今後どうなるか。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
総選挙の結果次第。今のところ自公が過半数を獲得する見通しだが、過半数が難しいとなれば自民党は維新との関係も考えるだろう。だが維新は自民と組むことを前提とせず、自民党に代わる新しい保守を求める動きに乗っている。神奈川県議会でいきなり6議席、横浜市議会で8議席取った。うねりが起きている感じがするが。

菅義偉 前首相:
私も地方選挙の結果を見ると、何かが動いている感じはする。少なくとも次の総選挙には影響があると思う。

菅義偉 前首相
菅義偉 前首相

反町理キャスター:
最後に視聴者の方からのメール。「再登板はないのか」が一番多い。「菅“総理”にお願いしたいこと。ぜひ再登板し安倍さんのやり残し、特に憲法改正を」とのメールも。ぜひ皆が盛り上がるようなお答えを。

菅義偉 前首相:
(笑)。政治家として大変ありがたいが、自分の反省も踏まえて政治に関わり実行に移していくことが大事と思っている。憲法改正は安倍さんが一番悔やんでいる点だと思う。私が総理のときに国民投票の手続きの法律を成立させていただいた。進められるよう頑張っていきたい。

(BSフジLIVE「プライムニュース」7月10日放送)