ウクライナで放射能汚染への危機感が高まっている。

ヨーロッパ最大級といわれるザポリージャ原発を巡り、ウクライナとロシアの双方が、相手側が攻撃を仕掛けようとしていると主張。

2022年3月のロシア軍による攻撃以降、ロシア側の占拠が続いているザポリージャ原発の現状について、ロシア情勢に詳しい筑波大学の中村逸郎名誉教授に聞いた。

ヨーロッパ最大級の原発

ーーザポリージャ原発の役割は?

ザポリージャ原発は、ウクライナだけではなく、ヨーロッパ最大級の原発です。

6つの原子炉があり、ウクライナ国内の半分以上の電力はザポリージャ原発から供給されているということで、ウクライナにとって非常に重要なインフラです。

2022年2月24日にロシアがウクライナに軍事侵攻した後、同年3月上旬にロシア側が原発を軍事制圧し、現在も占拠状態が続いています。

筑波大学・中村逸郎名誉教授
筑波大学・中村逸郎名誉教授
この記事の画像(11枚)

ーー原発の稼働状況は?

現在は、電力を供給していません。

6つの原子炉のうち、4つの原子炉の核燃料は低温状態で維持されていますが、問題は残り2つの原子炉の核燃料がまだ高温状態にあることです。

ザポリージャ原発
ザポリージャ原発

この2つの原子炉の核燃料を冷却するために、すぐ近くにある貯水池から冷却水を取水しなくてはいけないのですが、先日、カホフカダムが破壊されたことによって、冷却水が取水できないという非常に危険な状態にあります。

南東の風で1億人以上に被害

こうした中、ゼレンスキー大統領は4日夜に行ったビデオ演説で、「わが国の偵察部隊から、ザポリージャ原発の原子炉の屋根にロシア軍が爆弾のような物体を設置したとの情報が入った」と発言。

現地ウクライナメディアは、「原発周辺の町にいるロシア人が一斉に退去している」と報じ、ロシア側の攻撃が近いのではとの懸念が起きている。

ビデオ演説するゼレンスキー大統領(4日)
ビデオ演説するゼレンスキー大統領(4日)

ーー実際に爆破される可能性はある?

今すでに冷却水が取水できないということで、核燃料が非常に危険な高温状態にある中、爆発が起これば、ヨーロッパを巻き込んだ大きな惨事になることが予想されます。

被害規模は、風向きにもよりますが、南東の風が吹いている場合は、ポーランド、ドイツ、ヨーロッパ各地に核燃料が飛散し、少なくとも1億人以上が被害を受けると推定されています。

3月上旬にロシア側が制圧したザポリージャ原発
3月上旬にロシア側が制圧したザポリージャ原発

ーー日本も影響を受ける?

日本にも偏西風に乗って核物質が飛んでくることが考えられます。

今ウクライナの人たちは、ザポリージャ原発が爆発するようなことになれば、1986年のチェルノブイリの再来、つまり「第2のチェルノブイリ」が起こってしまうと心配しています。

チェルノブイリが爆発した時は、日本にも核物質が飛んできたので、今回もその恐れがあります。

もう1つの問題は、経済的な影響です。

ザポリージャ原発が爆発してヨーロッパが被害を受ければ、ヨーロッパから入ってきている食料品などさまざまな製品の輸入が滞ってしまうので、日本の経済は大きなダメージを受けることになります。

破壊されたカホフカダム
破壊されたカホフカダム

ーーカホフカダム破壊とザポリージャ原発の関連性は?

カホフカダムの破壊は、おそらくロシア側が仕掛けたものだと考えられます。

ウクライナ側が反転攻勢でロシアに奪われた領土を回復しようとする中で、ロシア側がダムの破壊に走ったんだと思います。

その時点でウクライナ側は、ダムの次はザポリージャ原発が狙われるとの危機感を高めていたので、反転攻勢のスピードを弱めていました。

ーーロシア側は反転攻勢を弱める狙いで爆破?

ウクライナの反転攻勢が本格化すると言われる中で、ダムを破壊して反転攻勢を一時止めたいと言う思惑がロシア側にありました。

今回のザポリージャ原発も同様の思惑があると思います。

プーチン大統領の孤立化と焦り

一方、ロシア側は、ロシア原子力会社幹部の話として、「ウクライナ軍が放射性廃棄物を積んだミサイルなどで原発を攻撃しようとしている」と真逆の主張を展開している。

これについて中村名誉教授は、ワグネルの反乱などプーチン大統領が国内的に孤立化する中、「プーチンの焦り」が見られるという。

ワグネルの反乱
ワグネルの反乱

ーー実際にはどちらの可能性が高い?

ウクライナが反転攻勢する目的の1つに、ザポリージャ原発をロシア側から取り戻したいという点あります。

ロシア側もこの点は理解していると思われます。

一方で、プーチン大統領はロシア国内で非常に弱体化しているとも言われています。

そうした中、プーチン大統領個人の指令で、自分の立場を強化するためにザポリージャ原発を爆破するんじゃないかという記事も出ています。

ザポリージャ原発
ザポリージャ原発

プーチン大統領の焦り、そして先日のワグネルの反乱があって、プーチン大統領が国内的に孤立化する中で、自分の立場を明確に打ち出すために原発を狙っているのではないかと考えられます。

ザポリージャ原発で働いている原発作業員は、最大4000人います。その人たちが撤退するということは非常に厳しい状況が迫ってきていると言うことです。

私の推測では、ウクライナの反転攻勢がどんどん本格化している中、焦っているプーチン政権がこの反転攻勢を止めるために、原発に爆発物を仕掛けたのではないかと考えています。

ーー実際にロシアが攻撃する可能性は?

風向き次第だと思います。

南または、南東の風が吹いているタイミングで爆破すれば、ウクライナ国土の約2/3が放射能によって汚染されるというシミュレーションがあります。
一方、ロシアはほとんど被害を受けることはありません。

よって、ロシア側が爆発を仕掛けるとすれば、風向きを見ながらとなりますが、実行した場合、ウクライナの2/3近くが核物質の飛散により住めない領土になってしまう危険性があるわけです。