G7広島サミットに電撃訪日した、ウクライナのゼレンスキー大統領。各国首脳と相次いで会談を行い、平和記念公園や資料館を訪れた。
その後行われた記者会見で、ウクライナの現状や、復興を遂げた広島について語るゼレンスキー大統領の姿を、特別な思いで見つめるウクライナ人女性がいた。
親族をウクライナに残したまま、中学2年の息子と夫の3人で都内に暮らす、カテリーナ・グジーさん(36)は、音楽活動を通じてウクライナの支援活動をしている。
今回のゼレンスキー大統領の緊急来日をどのように受け止めたのか、カテリーナさんに聞いた。
原爆資料館で泣いた
ーーゼレンスキー大統領がG7に出席した感想は?
広島で行われたG7サミットにゼレンスキー大統領が来られて、私はすごくうれしいです。

ウクライナでまだ戦争が続いていることを、伝え続けなくてはいけないと強く思いました。
ゼレンスキー大統領は国から出たくてもなかなか出られない状態ですが、なんとか広島に来ることができて、広島から世界に向けて「ウクライナで早く戦争が終わるように」との願いを伝えることができて、すごく良かったと思います。
そして資料館や原爆ドームを実際に見て、辛さ、怖さを感じることができたと思います。
戦争のない、核兵器のない世界になって欲しいという思いを世界に届けたいんだと感じました。

ーーカテリーナさんは原爆ドームに行ったことは?
あります。初めて行ったのは10歳の頃で、その時はチェルノブイリ原発事故が起きたところの子供たちで広島にコンサートのために来ていて、その時初めて原爆ドームと資料館に行きました。(※当時、カテリーナさんは、チェルノブイリ原発事故で被災した子どもたちで結成された音楽団「チェルボナ・カリーナ」に所属)
映像などがすごく怖く感じましたが、まだ子供だったので、何が起きたのか、どこまで怖ったのかは、あまり流れ的にはわからなかったです。

その後、いつかまた1人でゆっくり来たいと思っていたので、コロナが流行する前の年に1人で広島に行き、資料館を一日かけてゆっくり見て、原爆ドームの公園も歩きました。
本や映像で見てもそこまで怖くないけど、資料館の中で流れている当時の声や音を聞くと、実際にあの場所にいた人たちが、当時どれだけ怖かったか、辛かったか、危険だったかを想像し、資料館にいるだけで私はずっと泣いていました。
実際に行って良かったなと思い、その後子供も連れて行き、子供も展示物を見て「戦争や核は怖い」と言っていました。
「戦争から“影”だけ残ってしまう」
原爆資料館を視察したゼレンスキー大統領は、その後の記者会見で、展示されていた写真が廃墟となった東部・バフムトに似ていることや、原爆の熱線で焼かれた人の影が残る『人影の石』を自国の置かれた状況と重ね合わせて、惨状を訴えた。
これについてカテリーナさんは、「ロシアもウクライナという国を消して“影”だけを残そうとしている。絶対にやめさせないといけない」との願いを口にした。

ーー大統領の会見で1番印象に残ったことは?
一番最初に彼が話した「戦争から“影”だけ残ってしまう」という言葉はすごく印象に残りました。
実際に私も資料館で「人影の石」を見たので、想像するだけで怖いです。
今、ロシアがやろうとしていることも同じで、ウクライナという国、文化、民族を消そうとしています。“影”だけ残そうとしているのは改めて考えると本当に怖いことで、絶対にやめさせないといけません。

ーー「前進した」と感じた点は?
戦争が終わるところまで少しずつ近付いていき、必ず勝つという光はもちろん見えました。
戦争中なので、ゼレンスキー大統領もこれからの動きなどについてははっきりと言えないことも多かったですが、「必ずウクライナが勝つ」という光は見えました。

一方で残念なところは、まだいろいろな国がロシアに武器を送ったり、ロシアのことを応援していることです。
広島で行われているサミットでは、もっと平和に向けて世界の皆さんと考えることをしないといけないと思いました。(※インタビューは5月21日)
広島から発信できて良かった
今回の来日で、G7の首脳に加えて、インドやブラジルなどをはじめとするグローバルサウスと呼ばれる国々との関係強化も図ったゼレンスキー大統領。
カテリーナさんは、「平和な世界を皆さんの力で作らないといけないことを、広島で発信できて良かった」と話す。

ーーオンラインではなく現地に来た意義は?
今までいろいろな国での集まりはオンライン参加で、今回も広島には来られないと思っていました。
でも広島だからこそ、実際に来て、もう一度声をあげて、世界に向けて「戦争をやめさせなくてはいけない」「平和な世界を皆さんの力で作らないといけない」ということを発信できたら気持ちは届くと思いました。
戦争はウクライナで起きているけど、そこから拡大しないようにウクライナの人たちが必死で戦っています。それはウクライナだけじゃなくて世界をロシアから守っているのです。
広島まで来て、広島で発信できたことは良かったと思います。

ーー来日すると聞いて驚いた?
驚かなかったです。来るだろうと期待していました。
彼が毎日世界に向けて発信している強いメッセージを見て、日本でも伝えた方が良いと思っていたので、来ると信じていました。
ゼレンスキー大統領は今、必死に私たちの民族、文化、歴史のすべてを守ろうとしています。
大統領の経験は初めてで、昔は芸能人でしたが、今までの大統領以上にウクライナ国民のことを考えていて、ゼレンスキー大統領ですごく良かったと改めて思いました。

ーー今後期待したいことは?
日本はウクライナを支援してくれているので、復興に向けて日本がどのように参加するかが気になります。
日本は自然が豊かで、電車や新幹線、地下鉄が速く、また、病院の施設も良く、日本からウクライナにそう言う支援があればもっとウクライナの生活は前向きになるのではないかと期待しています。
兵士たちが生き残るように祈る
しかし、近々反転攻勢に出るとの見方もあり、まだ終わりが見えないウクライナの戦い。
バンドゥーラ奏者のカテリーナさんは、音楽活動を通じて得た収益をウクライナの人道支援の為に寄付しているが、「戦争に出ていく兵士たち、亡くなる人たちを無くさなくてはいけない」と思いを語る。
ーー最近の現地の様子は?
1年以上、みんな毎日恐怖の中で生きていて、向こうにいる家族や友達と連絡をとると、電話の向こうで警報の音が聞こえたり、怖くて夜中眠れないという話を聞き、精神面もすごく心配です。
反転攻勢については、会見でも質問が出ていましたが、いつになるかは言いませんでした。
ウクライナの兵士たちが生き残るように祈るしかないです。

ーーカテリーナさんの最近の生活は?
昨年同様、できるだけたくさんのところでコンサートを開き、ウクライナの状況を強く伝え続けています。
今、ウクライナに物資を届けるために友達2人が現地に行っています。自分の家族も向こうに居るし、友達もたくさんいますが、ウクライナから逃げようとして殺されたという情報も聞いたりします。
今まで以上にウクライナのために何かをしたいと思っています。

ーー日本で困ることは?
困ることは、ウクライナのニュースが大きく取り上げられないと、コンサートで地方のお客さんから「少しずつ落ち着いてきているんでしょう」とか「あと少しでウクライナが勝つでしょう」と言われます。
まだ全然そこまでではないし、毎日小さな子供たちからお年寄りまで殺されています。
「戦争だから当たり前」ということではなくて、もっと伝えなくてはいけないと思っていて、その点は、ちょっと残念に思います。

ーー終結させるには何が必要だと思う?
それはすごく難しい質問です。
プーチン大統領に戦争をやめさせることは簡単ではないと思います。
一方、世界全体で戦いに行くと、もっと大きな戦争になってしまうので、それも出来ません。
何かの形で今の戦争を終わらせて、これ以上、戦争に出ていく兵士たち、亡くなる人たちを無くさなくてはいけません。私たちは子供たちを守らなくてはいけないのです。