熊本・菊陽町にある工場で半導体製品を造っているソニーグループの地下水保全の取り組みに焦点を当てる。大量の水を使用する工場では20年前から、「使った水はきちんと戻そう」をスローガンに、水を地下に蓄える「涵養（かんよう）」を行っている。
“三笘の1ミリ”とらえたソニーの「α1」
ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング・山下満 熊本TEC長:
ソニーとして一番のフラグシップの「α1」という製品で、この中に入っているのが熊本テクノロジーセンターで造られたデジタルカメラ用のセンサーです
2022年のサッカーワールドカップのハイライトとも言える“三笘の1ミリ”をとらえたソニーのデジタル一眼「α1」のセンサーについて説明するのは、ソニーセミコンダクタマニュファクチャリングの山下熊本TEC長。
2001年に稼働を開始した菊陽町にあるソニーグループの熊本テクノロジーセンターは、約27万平方メートルの敷地を持ち、「イメージセンサー」と呼ばれる半導体を造っている。
アップルも採用するイメージセンサー
ソニーのイメージセンサーはアメリカ・アップルの最新スマートフォンのカメラにも採用されていて、2022年12月にはティム・クックCEO（最高経営責任者）が熊本を視察に訪れた。
ソニーグループのイメージセンサーは2022年度の金額シェアで全世界の約半分を占めていて、2025年度には6割を目指すとしている。
ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング・山下満 熊本TEC長:
写真を撮るためのセンサーだけでなく、「センシング」という技術のいろいろなセンサーが載る。車載センターも周りの環境を捉えるためにたくさんのカメラが載っていくだろう
イメージセンサーは車の自動運転などにも使われていて、その需要はさらに伸びる見通しだ。
製造に欠かせない「大量のきれいな水」
一方で、半導体の製造に欠かせないのが大量のきれいな水だ。半導体にとってごみや汚れは大敵。
ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング・山下満 熊本TEC長:
ごみや（薬品の）汚染はイメージセンサーに不良を発生させる。何百という工程があるが、そのたびに洗浄を行ってきれいにする。そのために水が必要
例えば、「ウエハー」と呼ばれる円盤の上に形成されたイメージセンサーの中には、目には見えないほどの微細な画素が集まっている。
その画素に、ほこりや薬剤が付着したままだと、わずかなものでもノイズの原因となってしまうため、工場では何百とある製造工程のたびに洗浄を行っている。
菊陽町のソニーグループの工場では、設備の改良など使用する水の削減に取り組むほか、20年前の2003年から涵養活動に取り組んでいる。
20年前から取り組む地下水涵養
「涵養」とは、水が地下に浸透し地下水として蓄えられること。その代表的な取り組みとして水田涵養がある。
大津町の田んぼでは、ソニーグループも参加する熊本県環境保全協議会による水田オーナー制度の田植えが行われた。
水田オーナー制度とは、田植えや稲刈りを通じて田んぼを守ることで地下水を保全する取り組みだ。
ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング・小原啓志 環境部統括部長:
普段デスクワークが多く、屋外で自然と触れ合え、子どもたちも経験できてとてもありがたい
ソニーグループでは、この他にも白川中流域の田畑で作物を育てない期間に水を張る、いわゆる湛水事業を支援している。
「使った水はきちんと戻そう」
ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング・小原啓志 環境部統括部長：
2003年から「使った水はきちんと戻そう」のスローガンのもと、日本企業で初めて地下水涵養を始めました。工場で取水する水の量以上の水を涵養で戻しています
このような取り組みを通じて、2022年度には年間約339万トンの水を涵養した。この量は熊本の工場でくみ上げた地下水の年間量を上回る。
ソニーセミコンダクタマニュファクチャリングのこれまでの涵養への取り組みは、2019年にくまもと地下水財団の最優秀グランプリを獲得し、2022年には環境大臣から表彰を受けている。
熊本の地下水涵養のモデルケースに
台湾の半導体製造大手・TSMCの子会社で、ソニーグループも出資するJASMもこの取り組みを参考にしており、「取水量の100%を超える涵養を行う」と表明している。
ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング・山下満 熊本TEC長：
涵養事業とは、企業が参加して水を守り環境を守ることが重要で、地下水を使う企業の責任かもしれない
熊本の宝である地下水を守るためにも、使う量と蓄える量のバランスが重要となっている。
経済と環境の両立のためにも、ソニーセミコンダクタマニュファクチャリングの先進的な取り組みは、熊本のモデルケースになりつつある。
（テレビ熊本）
