熊本市などの地下水を増やすために、大津町や菊陽町の畑の使っていない時期に水を張る湛水(たんすい)事業が始まって、2023年で20年目を迎えた。農業を取り巻く環境の変化で新たな形態による水張りも行われている。

浸透力は一般の5倍 ザル田とは?

2004年1月、熊本市と大津町、菊陽町のトップが集い当時の潮谷知事立ち会いのもと協定書にサイン。

調印式の様子
調印式の様子
この記事の画像(17枚)

これが湛水事業の始まりだった。

熊本市・幸山政史市長(当時):
まさに環境保全型農業の模範となる取り組みでもありまして

湛水事業とは、畑を使っていない期間水を張る取り組み。白川中流域と呼ばれる大津町や菊陽町では減反やコメの生産調整で、稲作からニンジンや大豆に作物を切り替えた農家が多く、水張りはこうした転作田で行われる。

白川中流域は水が地下にしみ込みやすい阿蘇の火山灰で覆われていて、浸透力は一般的な土壌の5倍。ザルのように染み込むことから「ザル田」と呼ばれている。

ニンジンや大豆の作付けの間に湛水

湛水事業が始まった当初から参加してきた大田黒さんのニンジン畑では、2023年も畑に水を入れる作業が行われていた。

テレビ熊本・郡司琢哉アナウンサー:
これ(取水口)を開けて勢いよく出ていきましたけど、だいたいどれぐらいで満たされるものなんですか?

農家・大田黒忠勝さん(左)
農家・大田黒忠勝さん(左)

農家・大田黒忠勝さん:
ここは1回代掻きしたあとですので割合早いです。代掻きをしていない耕耘(こううん)したばっかりだとまるまる1日ぐらいかかります

例えばニンジンであれば、収穫を終えた5月上旬から次の作付け前の7月末までの約3カ月間。麦と大豆の二毛作であれば6月上旬から7月上旬までの1カ月間、通常であれば使っていない時期の畑に水を張り、涵養(かんよう)するというもの。

この湛水事業は、耕したままの水田では水が浸透しすぎて下流域で水が足りなくなる可能性があるため、水張りの前には代かきを行うことが条件となっている。

水張りの様子
水張りの様子

水張りには害虫を駆除したり、連作障害を防ぐ効果が期待されるほか、期間に応じて、農家には熊本市と協力企業から助成金が支払われる。

まるで稲のない田んぼの光景
まるで稲のない田んぼの光景

こうして大津や菊陽の農地ではこの季節、まるで稲のない田んぼの光景が広がる。

参加農家の減少 新たな湛水事業の形

この湛水事業新たな課題に直面している。

水土里ネットおおきく・冨田典男事務局長:
農家の人の高齢等で離農者が増えまして、水張り事業も減少しているのが現状です

湛水事業によって生み出された地下水の推移から、熊本地震で用水路や農地が被災した2016年を除き、涵養量は年間1,400万トンを維持している。

しかし参加農家数は2011年をピークに減少の一途をたどっている。

つまり、限られた農家がより多くの面積をまかない涵養量を維持している。
新たな湛水事業の形の一端を見せてもらった。

地元農家(水土里ネットおおきく​理事)・村上秀隆さん:
十数年前に圃場(ほじょう)整備を行いまして、農業形態は「集落営農農事組合法人 大津白川」ということで経営をやっております

圃場整備とは、いわば農地の区画整理。小さい田畑を大きな区画に整地、農道や用水路を整備することで大型の重機を使うことができ、採算性が向上する。

その上で、地域で営農の一部または全てを行う「集落営農」が湛水事業も行っている。例えば大雨が降って用水路の水が濁った場合は、畑への取水を止めるなど、湛水事業の期間中は水の管理をしなくてはならない。

地元農家(水土里ネットおおきく​理事)・村上秀隆さん:
これ(水の取り入れ口)を閉めれば水は入らないんですけど、これを開ければ水がドッと入ると。これが7反のところに4カ所、排水口が3カ所あるわけです

地元農家(水土里ネットおおきく​理事)・村上秀隆さん:
水田の管理はこういう水の取り入れ口の、水の調整をしっかりやらないと作物も取れないんですよ。これが約17ヘクタールに200カ所ぐらいあると思うんですよ。それを農家の作業員が減っていくと、その管理がものすごく農家に負担になってくるんじゃないかと思うんですよ

地元農家(水土里ネットおおきく​理事)・村上秀隆さん:
今は個々の農家がある程度やっていますけど、それを少ない人間の集落営農でやる場合は水の管理が負担になりはしないかと私はそう思っています

地域の協力 これからの10年に向けて

水土里ネットおおきく・冨田典男事務局長:
これから先は営農法人ですとか、大規模農家の方に推進して、水張り事業を減らさないように地域一帯で取り組んでいくことが大事と考えています

農家個人に加え、地域が協力しての取り組みへ。
20年目を迎えた熊本の水を育む湛水事業は時代の変化とともにその姿を変えつつある。

(テレビ熊本)

テレビ熊本
テレビ熊本

熊本の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。