排泄障害の女性が「心を満たす福祉下着」を形にしようとしている。
こだわったのは機能性だけではなく、人に見せたくなるセクシーでおしゃれなデザインだ。その背景には、社会に横たわる“気付かない壁”があった。

排泄障害、そして奪われた自信

「誰にも見られたくない部分なのに、人の手を借りないといけない。その姿に人間じゃなくなったような気持ちになりました」
そう語るのは、新たな福祉下着ブランド「Care Embrace Fashion」を立ち上げた車いすネイリストの新藤杏菜さん。

車いすで生活する新藤杏菜さん
車いすで生活する新藤杏菜さん
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新藤さんは2008年、2人目を出産後に膠原病の一種である全身性エリテマトーデスを発症。下半身まひとなり、車いす生活を送っている。
「特につらかったのは排泄障害でした」
障害を受け入れられない。そんな状態で尿取りパッド姿の自分を毎日見ることは、女性としての自信を奪った。
「自分の姿が情けなくて、女性の魅力もなくなってしまった気がして…」

新藤さんが求めるものとは異なる、既存の福祉下着
新藤さんが求めるものとは異なる、既存の福祉下着

新藤さんは長い間、パッドがはみ出すなどの機能性を妥協しながらも、健常者用の下着を選んできた。おしゃれな下着を身につけた一瞬だけは障害を忘れられたという。
一方、心を癒してくれる福祉下着には出会えなかった。
「色でしかかわいさを出していない。私の求めるおしゃれさ、セクシーさとは違う」
ならば、自分で作ろう。ネイリストとして培ったデザイン感覚と当事者としての視点を生かし、福祉下着の開発に乗り出した。

福祉下着の機能性とおしゃれを両立

自らデザイン画を描き、太ももやウエスト部分のレース使いにこだわった。機能性と両立させるため、生地を一枚一枚はり合わせる。製造工程は通常ショーツの4倍だ。

新藤さんが自らデザインした福祉下着のショーツ
新藤さんが自らデザインした福祉下着のショーツ

2025年2月、試作品が完成。
新藤さんが開発したショーツは、黒地にレースをあしらったセクシーで上品なデザイン。尿取りパッドがはみ出さない構造で、防臭性の高い素材を採用している。テープ部分は柔らかく、止める位置を自分で調整できるように仕上げた。障害のある人だけでなく、尿もれに不安がある人や妊婦にも使ってほしい。そう考えている。

2025年のグッドデザイン賞を受賞
2025年のグッドデザイン賞を受賞

製作を担う大阪の大手繊維商社・SAWAMURAの河上政慶さんは「利益はあまり考えていない。新しいものを作ることに重点を置いている」と開発に伴走してきた。
その結果、手がけた福祉下着が日本デザイン振興会主催の2025年「グッドデザイン賞」に選ばれたのだ。

「妥協しない」という決断

だが、課題はコスト。
「想定していた費用の倍になった」
コストを抑えるためにこだわりを削れば、それは“妥協して履きたくない”という原点を裏切ることになる。

製品の開発から販売まで手がける新藤さん
製品の開発から販売まで手がける新藤さん

「自分の作りたいものを作ったらこの価格でした、と正直に伝えよう」
新藤さんの挑戦は“心を満たす福祉下着”を社会に届けること。機能も美しさも、どちらも妥協できない。

クラウドファンディングで先行予約販売
クラウドファンディングで先行予約販売

その思いを形にするため、2026年2月8日から先行予約販売を兼ねたクラウドファンディングを開始した。ショーツを10~30%値引きしたリターンのほか、商品を受け取らない支援のみのリターンも用意している。
集まった支援金は、新製品の開発や運営費などに充てられる予定だ。産褥用ショーツや男性用福祉下着など、新たな構想が次々と生まれている。

横浜国立大で「気付かない壁」語る

福祉下着の開発をきっかけに、新藤さんは障害の実態を伝える活動にも踏み出した。
2026年1月、横浜国立大学の講義にゲストとして招かれた。大学は「ダイバーシティ推進宣言」のもと、相違を個性として尊重し、多様性を生かす取り組みを進めている。
学生に何を伝えたいのか。新藤さんはこう話す。
「気付かない壁というか、そういうものがあるということを考えてもらえる時間になったらいい」

横浜国立大学で経験や思いを語る新藤さん
横浜国立大学で経験や思いを語る新藤さん

初めて大学の教壇に立ち、緊張した面持ちで学生に語りかけた。
病気の発症、排泄障害の現実…。
「自信を失い、コンプレックスを持ちました」
そして、長らく抱えてきた思いを言葉にする。
「障害があってもなくても、おしゃれをしたい気持ちは同じです。健常者の人が履きたいと思えない下着を、障害者も履きたいと思わない」

福祉下着や尿取りパッドに触れる学生たち
福祉下着や尿取りパッドに触れる学生たち

学生たちは、実際に福祉下着や尿取りパッドを手に取り、新藤さんが開発したショーツを広げる。どこか他人事だった空気が、少しずつ自分事や社会の問題に変わっていった。
受講した学生からは「当事者が発信すること自体に壁がある」「デリケートでプライベートなことだから聞きづらいけど、どうやったら壁がなくなるかを考えないといけない」などの声が聞かれた。

知ることが、壁を崩す第一歩になる。新藤さんは伝える大切さを噛みしめながら語った。
「言えない人がいるとわかってくれたら、気付いてくれる人も増える」

福祉下着の新しい選択肢。ただ、それは単なる商品ではない。自信を取り戻すための一枚であり、社会の“気付かない壁”に光を当てるメッセージでもある。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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