やらなきゃならないことはわかっているし、やりたくないわけではない。でも、やる気が起きない。ビジネス、プライベートでそんなときもあるだろう。

メンタルを上手に整えて前向きに進むコツを紹介している、プロフェッショナルコーチ・坂井伸一郎さんの著書『メンタルトレーニング大全』(アルク)。

今回は、やる気が起きないときの原因ややる気の起こし方を一部抜粋・再編集して紹介する。

やる気を待ったり、頼るのはやめよう

試験勉強や提出すべきレポートの作成、会議準備や記録の作成、経理処理、掃除・洗濯、書類の整理など、やるべきものが目の前に積み上がっていくのを見るのはしんどいものです。

人はどうすればやる気を高めることができるでしょうか。やる気が出ないときはどんな原因が潜んでいるのでしょうか。

ですが、私はどちらに転ぶかわからないような「やる気」を待ったり、頼りにしたりするのはやめたほうがいいと思います。「わからない」ものに左右されている状態はストレスがたまります。

やる気のあるなしにかかわらず、淡々と目の前のことに手を動かすほうが結果的にはメンタルを守ることにつながります。

やる気とモチベーションの違い

「やる気」と似た言葉に「モチベーション」がありますが、アスリートたちはこの2つを似て非なる言葉として扱います。

「やる気」は辞書を引くと「自ら進んでやり遂げようとする気持ち」とあります。つまり、やる気は気分や気持ちなど、ある感情の状態のことを言います。前向きになったり、積極的・意欲的に、力強く取り組もうと思うのはやる気です。

一方の「モチベーション」は、自分がやりたいと心底思えた理由のことで、自分自身にとっての真の目的です。

真の目的は自分の中心にあって、取り組むときの原点(起点)になるので、上がることも下がることもありません。変わらずに自分の中心にあり続けます。

例えば、ある選手は「競技で活躍してたくさんのお金を稼ぎ、家族に少しでもよい暮らしをさせてあげたい」と言いました。

これはモチベーション。どんな気分の日でも、競技で活躍して家族に楽をさせてあげたいという思いは変わらないからです。

それに対して、やる気はモチベーションに下支えされない状態では気まぐれにしか現れてくれません。継続的にやる気を保ちたいのであれば、やる気の源泉となるモチベーションを明らかにする必要があります。

「ねばならない」は禁句

「やる気」は気持ちであって、自分の内からわき起こる内発的なものです。一方で、自分の外側からできるのは、やる気を起こさせるためのきっかけ作りだけです。

アスリートはどのように自分の内側からやる気を起こしやすくしているのでしょうか。

それは「~ねばならない」「~すべき」という「MUST(マスト)思考」にならないことです。

「絶対に勝たなければならない」「ヒットを打たなければならない」「初戦を落としてはならない」「練習はここまでやらなければならない」「試合で活躍して監督にアピールすべき」などと考えると、完璧にやらなければという義務感が先に立ち、やる気はシューっとしぼんでしまいます。

「MUST思考」には要注意(画像:イメージ)
「MUST思考」には要注意(画像:イメージ)
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やり遂げなければいけないことばかりが先に浮かんで、楽しもうとする意識や、リラックスして挑戦する気持ちの余裕が阻害されてしまうのです。

「MUST」と思っているのは、実際には自分自身だけかもしれず、心を縛り、心身を硬直させる過剰な呪文になるため、要注意です。

MUST思考の反対は「オーウェル思考」です。英語の「oh well(まあいいや、しかたがない)」のように、何かあっても「まあ、しょうがないか」と受け流すことができれば、前向きに次へ進みやすくなります。

チャレンジ精神を上手に保つことができるので、口癖は「oh well」を意識しましょう。

やる気が出るのを待つのはNG

やる気がわき上がってこないとき、ついつい他のことをやったり、やる気が出るのをのんびり待ったりしがちです。

しかし、待つのはお勧めしません。いつになるか「わからない」ものを待つのでは、「わからない」は減っていきません。

そんなときは、何でもいいので少しずつ行動することから始めましょう。心と体は表裏一体という考えがあって、どちらかが悪ければ、もう一方も悪くなるといわれます。

やる気を待つのではなく少しずつでも行動してみよう(画像:イメージ)
やる気を待つのではなく少しずつでも行動してみよう(画像:イメージ)

やる気が出なかったり、気分がふさぐときに部屋に閉じこもってもんもんと過ごしていると、さらに暗い気持ちになりがちです。

1人きりで閉鎖的な空間で過ごすと、ネガティブな感情に支配される構図ができてしまうので、その構図は意識的に壊したいものです。

最初はベッドから出て、太陽を浴びてみるだけでもいいのです。小さな行動によって負の構図を崩すことから始めてみてください。

絶好調なときは“普段の実力”ではない

やる気がみなぎっているときのパフォーマンスやその成果を、まるで自分の「普段の実力」だと見誤ってしまうことがあります。

やる気に満ち満ちているときは、数年に1度の絶好調が来たと考えるのがいいと思います。人には好調と不調の時期が必ずあるので、残念ながらずっと好調が続くことはありません。

やる気にあふれた自分がいつもの自分ではないので、やる気が出ないときに自分を責めすぎないようにしてください。

自分を責めるとかえってストレスがたまりますので、やる気が出たら臨時ボーナスくらいに考えましょう。

『メンタルトレーニング大全』(アルク)
『メンタルトレーニング大全』(アルク)

坂井伸一郎
株式会社ホープス代表取締役。プロフェッショナルコーチ(ACC、CPCC)。株式会社高島屋、ベンチャー企業役員を経て2011年に独立起業。現在はプロスポーツ選手やトップアスリートに向けた座学研修を行う会社を経営。自らも講師として年間1000名を超えるアスリートに座学指導を行っている。専門領域はマインドセット・アスリートリテラシー・チームビルディングなど

坂井伸一郎
坂井伸一郎

株式会社ホープス代表取締役社長。プロフェッショナルコーチ(ACC、CPCC)。成蹊大学卒業後、株式会社高島屋に入社して13年在職。在職中は老舗百貨店ならではの社会人基礎力・礼儀マナー・顧客や店舗スタッフとのコミュニケーションを現場で学び、後に販売スタッフ教育や販売スタッフ教育制度の設計も担当した。
その後、ベンチャー企業役員を経て、2011年に独立起業。現在はプロスポーツ選手やトップアスリートに向けた座学研修を行う会社を経営し、顧客に東京ヤクルトスワローズ・読売ジャイアンツ・阪神タイガース・埼玉西武ライオンズ・千葉ジェッツ・サントリーサンバーズ他、様々な競技のトップチームがいる。
自らも講師として年間1000名を超えるアスリートに座学指導を行っており、講師としての専門領域は、マインドセット・アスリートリテラシー・チームビルディングなど。