南九州随一の繁華街と言われる鹿児島市の天文館。コロナ禍で人出が激減し、大きな影響を受け続けてきたが、かつてのにぎわいを取り戻しつつある。その一方で課題もあるようだ。飲食店関係者や来店客を通して、“天文館の今”を探る。

賑わい戻りつつある天文館

2023年4月28日金曜日、夕方5時。外はまだ明るいが、予約で満席という飲食店「季節屋 久」があると聞き仕込みの時間に訪ねてみた。

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開口一番「忙しいですよ、ありがたいことに」と弾んだ声のスタッフの原田さん。2月になってから店は連日満席で、この日も満席だという。コロナ前に近づいていることを実感していた。

夜のとばりがおりた午後8時、天文館のメインストリート・文化通りは過去3年の閑散としていた時期に比べ、明らかに人通りは多くなっていた。

天文館を訪れた人は、「人がめちゃくちゃ増えたなあ、というのを感じますね」「(訪れたのは)5年ぶりぐらい。コロナだったので」と話す。

コロナ禍の休業要請などで真っ暗になった天文館
コロナ禍の休業要請などで真っ暗になった天文館

2020年春先から始まったコロナ禍。緊急事態宣言や飲食店の時短営業などで、天文館も大きなダメージを受けた。2020年4月の映像を振り返ると、通りから店の明かりが消え、多くの飲食店が入居するビルは真っ暗。鹿児島を代表する繁華街は静まり返っていた。

コロナ前の2019年を100とした天文館の夜の人出のグラフ
コロナ前の2019年を100とした天文館の夜の人出のグラフ

変化はデータにも表れている。コロナ前の2019年を100として天文館の夜の人出をグラフにしてみた。1月から4月で比較すると2021年はコロナ前の3割前後で推移し、2022年も3割を大きく下回る期間があった。しかし2023年は5割に届く日も見られるようになった。少しずつだが確実ににぎわいは戻ってきていると言えそうだ。

午後9時前。開店前に訪ねた店に戻ると16人の団体客が。草野球チームの歓迎会で、これだけの人数が集まるのは3年ぶりだという。元気よく乾杯するメンバーの表情は明るかった。一時は制限されていた大人数での宴会も、復活していた。

やがて時刻は10時に。夜も更け始める天文館には驚きの光景が広がっていた。2時間前よりさらに人が増えた印象。かつての天文館を感じさせる光景が広がっていた。

戻ってきたのは“笑顔”も

飲食店が多く入居するビルの1階にある生花店を訪ねてみた。

鹿児島テレビでは2021年1月29日、新型コロナをテーマに1時間の特別番組を放送した。店主・前田新太郎さんはこの番組で、「1回でいいので知事に、天文館の現状を見に来ていただけたら」と、スタジオの鹿児島県・塩田康一知事に窮状を訴えていた。

人出が増えうれしそうな前田さん
人出が増えうれしそうな前田さん

あれから2年余り。前田さんは同じビルの飲食店の従業員の誕生日に贈るという花束を用意していた。平日の動きがまだ寂しいと話すが、「あの頃に比べたら、これだけ人が動いているというのがあるだけで、心が楽になる。マスクを取った状態でお花を贈ったり、渡したりした時に表情が伝わるのが一番うれしい顔」と前田さんの表情も、あの時と違い笑顔に満ちていた。

天文館が活気を取り戻す意味について鹿児島の経済の専門家に聞いた。

九州経済研究所・福留一郎経済調査部長:
天文館は、景気をはかるバロメーターと言われていたので、ボリュームが出てくると「経済が動いているんだな、景気が良くなってきているんだな」と、われわれの心理面にも(影響を)与える。やはり鹿児島の顔ですから、そういう所が元気になっていくと県全体に波及効果がある

活気が戻ってきた天文館だが、飲食店は手放しで喜べない面もある。人手不足の問題だ。取材した飲食店の店長は「復活したのはよいが働き手が少なくて大変。コロナによる休業や時短で収入が減り飲食店は働き先として不人気なのでは」と話していた。

九州経済研究所の福留氏も、「コロナによって飲食業のニーズがなくなり他の業種に就き、そこで仕事や生活を確立しているのでよほど条件が良いとかでないと飲食業には帰ってこない」と指摘する。コロナ後の活気を完全に取り戻すにはこうした課題の解決も必要といえそうだ。

「あなたにとって天文館とは?」

しかし、今、天文館に帰ってきた人たちに「あなたにとって天文館とは何ですか?」とたずねると…

・私にとって天文館は「絆」。野球だけではつながらない心と心の距離を、飲みニケーションで結んでくれる

・「力」です。みんなで飲むことによって仕事だったりいろんなことを頑張れる力のもとになるので
・「青春」です!初めてお酒を飲んだのも天文館

・「息抜きの場」です
・「みんなが集まる場所」ですね。繁華街なので人が集まらないと面白くない

・「華」です。華やかな天文館であってほしいというのと、みんなが華やかに着飾っておしゃれな街であってほしいのと、華がある天文館であってほしい

と、前向きなコメントが次々に返ってきた。
徐々に活気が戻りつつある天文館の今だった。

(鹿児島テレビ)

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