花火師の父親を持つ長野県松本市の26歳の女性がこのほど、初めて作った花火を打ち上げ、「花火師」としてデビューした。父の背中を追いかける日々をスタート、「基本を忘れずに、期待を超える花火を作りたい」と意気込んでいる。

花火師デビュー 上條栞奈さん

長野県松本市・村井神明宮の奉納花火
長野県松本市・村井神明宮の奉納花火
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雨降る松本の夜空を彩る大輪の花。

松本市の村井神明宮の例大祭で打ち上げられた奉納花火だ。打ち上げたのは中信地域唯一の花火業者・華松煙火。

花火を見守る上條栞奈さん
花火を見守る上條栞奈さん

少し緊張した面持ちで打ち上げを見守る女性。この日、花火師デビューを迎えた上條栞奈さん(26)だ。

華松煙火・上條栞奈さん:
楽しみというか、ちゃんときれいに見えるのかなと

奉納花火
奉納花火

雨の中、初めて自分で作った「4号玉」が打ち上がるのを待っていた。

「松本を華やかに」

華松煙火の工場
華松煙火の工場

華松煙火は、明治7(1874)年創業の前身の花火業者から数え、およそ150年の歴史がある。

社長の上條博人さん(64)は5代目。農協で働いていたが1994年に花火師となりその後、先代から後を託された。

華松煙火 社長・上條博人さん
華松煙火 社長・上條博人さん

2013年、「松本を華やかに」と社名を現在の華松煙火に変えた。

華松煙火 社長・上條博人さん:
歓声や拍手を聞くのが一番、自分たちとしてもやりがいがあったと感じる。なくしたくない、松本から花火の火は消したくない思いがある

父の背中を追いかけて

華松煙火・上條栞奈さん
華松煙火・上條栞奈さん

栞奈さんは博人さんの次女。子どもの頃から花火が大好きだった。

華松煙火・上條栞奈さん:
生まれた時から(父が)花火師だったので、いろんな花火大会に連れてってもらったり、夏の間、打ち上がっている花火をたくさん見てきたので、単純に花火がずっと好きだった

上條栞奈さんと兄・僚士さん
上條栞奈さんと兄・僚士さん

東京の大学を卒業後、松本に戻って就職。営業の仕事をしていたが、花火への思いが募り、兄・僚士さん(32)に続き、2022年6月、華松煙火に入った。

華松煙火・上條栞奈さん:
ずっと好きだった花火、家の仕事を手伝えることができればなと思っていた。(花火は)私のお父さんが上げているんだよと、誇りはありました

栞奈さんの作業を見守る社長・上條博人さん
栞奈さんの作業を見守る社長・上條博人さん

栞奈さんの弟子入りに父・博人さんは―。

華松煙火 社長・上條博人さん:
「そう来たか」という感じでうれしかった。家族全体でやってる花火屋なので、入ってくれてうれしい

栞奈さんは2022年12月、火薬類を取り扱える国家資格を取得。

いよいよ、祭りの「奉納花火」でデビューすることになった。前身の業者時代も含めた150年の歴史の中で、初の女性花火師だ。

細心の注意で「玉ごめ」

玉ごめ
玉ごめ

この日の作業は「玉ごめ」。半球型の「玉皮」という容器に、花火の命ともいえる火薬の「星」を並べていく。

華松煙火 社長・上條博人さん:
ただやらないでさ、ここから始めて(一つ一つ)きれいに並べれば周りがきれいにいくと思うから

父のアドバイスに従って―。

華松煙火 社長・上條博人さん:
そうそう、六角形をずっと作っていけば

綿の詰め物で「星」の高さをそろえ、続いて、中心に「星」を四方に飛ばすための割火薬を入れ、紙を敷く。

衝撃や摩擦、静電気に細心の注意を払いながらの作業だ。

華松煙火・上條栞奈さん:
(花火は)きれいなものではあるけど、紙一重で危険なものでもあるので、一つ一つの作業がおろそかにできない難しい仕事だなと

初めて作った「4号玉」

玉貼り
玉貼り

半球が2つできたら棒でたたきながら「球体」になるよう合わせていく。

すき間がないか確認―。

クラフト紙を貼りつけてから3日間乾燥させ、栞奈さんが初めて作った4号玉・「紅波紋入引冠先白光」が完成した。

初めて作った4号玉「紅波紋入引冠先白光」
初めて作った4号玉「紅波紋入引冠先白光」

博人さんが「華やかだから」と薦めた花火で、直径130メートルの花が咲く。

華松煙火・上條栞奈さん:
赤い水たまりに水が落ちた時の波紋みたいな火が広がって、オレンジっぽい光が垂れて、最後に白く発光する玉になります。職人の方たちに囲まれて、その花火と一緒に打ち上がるのが楽しみ

「打ち上げ筒」を設置

4月15日、迎えた「奉納花火」当日―。

くい打ち
くい打ち

雨の中、栞奈さんたちは「打ち上げ筒」の設置に取り掛かっていた。

華松煙火・上條栞奈さん:
あの大きい玉を地上に打ち上げるためには、しっかりとした筒が必要だったり、(力仕事で)そこはなかなか大変なところ

打ち上げ30分前、栞奈さんは導火線などを最終確認。

導火線などを最終確認
導火線などを最終確認

華松煙火 社長・上條博人さん:
事故のないように、皆さんに喜んでもらえる花火を上げてもらいたい。宜しくお願いします

いよいよ打ち上げ

打ち上げスタート
打ち上げスタート

午後8時、打ち上げスタート。

栞奈さんの4号玉は14発目。

いよいよ、4号玉「紅波紋入引冠先白光」の打ち上げだ。

自分で制作した4号玉「紅波紋入引冠先白光」を見上げる
自分で制作した4号玉「紅波紋入引冠先白光」を見上げる

華松煙火・上條栞奈さん:
とりあえず無事に最後まで上がって良かった。(自分の作った玉は)なから良かったと思う。一員になれたと思う

25分間、約140発の花火が夜空を彩る―。

「安全第一、期待を超える」

華松煙火 社長・上條博人さん
華松煙火 社長・上條博人さん

打ち上げを終えて―。

華松煙火 社長・上條博人さん:
無事故で終了できるのが一番です。(栞奈さんの)玉自体もイメージ通りの玉が上がったのでは。良かったんじゃないかと思う

花火師として無事、デビューを果たした栞奈さん。

次の打ち上げも奉納花火。父の背中を追いかける日々が続く。

華松煙火・上條栞奈さん
華松煙火・上條栞奈さん

華松煙火・上條栞奈さん:
まずは安全第一で、見る側もやる側もけがなく無事に終えられる仕事はしていきたいなと思うし、皆さんの期待を超えられるようなものを作れればいいなと思う。どんな時でも基本を忘れずに頑張っていきたい

(長野放送)

長野放送
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