2022年4月、知床半島沖で起きた観光船の沈没事故から1年。
線香を焚き、手を合わせる夫婦。
この記事の画像(25枚)あの日、旅先の知床で命を落とした千葉県に住む、橳島優さんの両親だ。
橳島優さんの父親(65):
息子が命を落とした4月23日が私の誕生日でもあって、息子も誕生日のプレゼントで奮発してドローンを買ってくれたみたいなんですよ。息子も知床旅行に行く前に、私に1日2日早く渡して、「お父さんの喜ぶ顔が見たいから渡していいかな」って息子が妻に聞いたら、息子が旅行から帰ってきて、娘も私の誕生日のために帰ってきてくれて、「みんなでお祝いしようね」ということで息子はドローンを渡せなかったんですよね
橳島優さんの母親(59):
私が止めたんです。「お父さんの喜ぶ顔が見たいな」って「それを見て北海道行きたいな」って言った。「そっかそっか、じゃあ渡して」って言ってあげられなかったんだろうと。悔やむことばっかりです。その時の「残念だな」って言う息子の顔や声は残っているんですよね
いまだ6人の行方が分かっていない…
2022年4月23日、知床半島沖で乗客乗員26人を乗せた観光船KAZU1が沈没。橳島さんを含む20人が亡くなり、いまも6人の行方がわかっていない。
知床遊覧船・桂田精一社長:
この度はお騒がせしまして大変申し訳ございませんでした
業務上過失致死の疑いで海上保安庁が捜査を進める、知床遊覧船の桂田精一社長。
知床遊覧船・桂田精一社長:
海が荒れるようであれば引き返す“条件付き運航”を豊田徳幸船長と打ち合わせ、事故当時の出航を決定いたしました
(Q:強風注意報と波浪注意報が出ていたが把握は? )
知床遊覧船・桂田精一社長:
把握していました
(Q:出航判断をどう考える? )
知床遊覧船・桂田精一社長:
今となればこのような事故を起こしたので、判断的には間違っていた
出航を中止しなければならない悪天候が予想される中、港を出たKAZU1。
沈没の原因について国の運輸安全委員会が公表した経過報告書によると、KAZU1はハッチの留め具2か所に不具合があり、確実に閉まっていない状況で航行していた可能性がある。
そして高波によって船の中に海水が流入。
さらに、船底を仕切る3つの隔壁に穴が開いていたため海水が広まった。
波の勢いでハッチのふたが外れ客室の窓ガラスが割れて、大量の水が流れ込んだことも加わり、沈没に至ったとみられている。
息子は冷たい海で…両親「涙が止まらない」
橳島優さんの父親(65):
どんなに悲惨な最期だったか、想像してほしいんですよ。海水温2~3度ぐらいの海に投げ出され、しかも荒れた海で陸地が見えているんですよね。救命胴衣を着けているから必死で、意識があるのもそんなに長くなかったでしょうけど、それでも助かりたくてね。必死になって陸地の方に向かって泳いで、救助に誰も来てくれなくてね、その光景を思い浮かべると、涙が止まらなくなりますよね
橳島優さんの父親(65):
風呂に入っている時に思い浮かべて、自分はこんなに温かいお風呂で良い気持ちになってごめんなって。いつも毎晩そう思って、そうするとやっぱり涙が出てきちゃいますね
橳島優さんの母親(59):
申し訳ないっていう気持ちになりますよね
大切な息子が犠牲となった事故から1年。2人は怒りを抱き続けている。
橳島優さんの父親(65):
安全意識の著しい欠如、それから当日の運航の判断、事件が起きた時の対応、すべてひっくるめてもまったくなってないですね。その前段として、知床遊覧船に運航を許していた国土交通省側の管理監督体制の甘さ。今回の事件が起きる前年(2021年)にも2度、事故を起こしているにもかかわらず、一時期でも結構ですから、運航停止とかにしていたら、今回の事故は起きなかったと思う
橳島優さんの母親(59):
せめて今後、私たちのようなつらい思いをする人が二度と出ないように
橳島優さんの父親(65):
息子の命 死を無駄にしてほしくないですよね
家族の帰りを待つ男性…書き続ける“夢のノート”
十勝地方に住む50代の男性。
あの日、KAZU1に乗っていた当時7歳の息子とその母親は、いまも行方がわかっていない。
息子とその母親の帰りを待つ・十勝地方の50代男性:
夢に2人が出てきたときに、内容を忘れたくないと思って、書き留めるようにしました
無邪気な笑顔を見せる息子、優しく語りかけてくるその母親。
夢の中で過ごした時間をノートに書き記しながら、2人の帰りを待ち続けている。
息子とその母親の帰りを待つ・十勝地方の50代男性:
夢の中でも2人がいなくなるっていうのがわかっている。どこかそういう風に会えなくなってしまうというのがわかっていて、(夢の中で)手を握ったり抱きしめたり。現実なんだなって、やっぱり2人はいないんだなって。つらいですね、目が覚めるたびに
男性は週2回、国の家族説明会に参加している。
沈没事故はヘリコプターから救助を行う機動救難士が、1時間以内に現場に到着できない“空白地帯”で起きまたが、なぜそんな状態が続いていたのか。
納得のいく答えは返ってきていない。
息子とその母親の帰りを待つ・十勝地方の50代男性:
道東で何か事故があっても、もう最初から助ける気がないですね。助からないですよ。それをずっと放置してきたというのは、許せないですね
事故から1年を前に2023年4月、釧路市に機動救難士が配置された。
悲劇を繰り返さないために運航会社や国、関係機関がいかにこの事故と向き合うかがいまこそ試されている。
(北海道文化放送)