リーマンショック以来の金融ショックがアメリカに大きな不安を与えている。なかでも3月10日に経営破綻したシリコンバレー銀行は総資産約28兆円の全米16位の銀行で、破綻規模としてはアメリカ国内の銀行で史上2番目、リーマンショックが起きた2008年以来では最大となった。シリコンバレー銀行を傘下においていた金融持ち株会社SVBファイナンシャル・グループは17日、日本の民事再生法にあたるアメリカ連邦破産法11条の適用を申請したと発表した。

経営破綻したシリコンバレー銀行(カリフォルニア州・3月10日)
経営破綻したシリコンバレー銀行(カリフォルニア州・3月10日)
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相次ぐ銀行破綻の背景には、日本も直面する「物価高」がある。日本でも物価高が進んでいるが、アメリカはその比ではない。とにかくアメリカは今モノが高く、外食をすればラーメンが一杯3000円なんていうことも普通にある。

アメリカ労働省が14日に発表した2月の消費者物価指数では、前年同月比で6.0%と、以前高い水準でインフレが続いていることが分かった。インフレに関しては国民の生活に直結するだけに政府も躍起になって対応しており、これまで“異例の利上げ”を行ってきたが、これが今回の銀行の破綻の要因の一つとなったといわれている。

銀行入り口に張り出された閉鎖の通知
銀行入り口に張り出された閉鎖の通知

シリコンバレー銀行は、安い利率で資金を調達していたスタートアップ企業などから多額の現金を預かっていたが、急激な利上げでそのような会社の資金繰りが悪化し、預金の引き出しが相次いでいた。また同時に、投資をしていた債権などが利上げの影響によって買った時よりもその価値を下げてしまい、含み損も抱えていた。このことを不安に思った新興企業が今回、一斉に預けていたお金を引き出し、その結果、銀行のお金が底をついてしまって破綻したということだ。

「全預金者の保護」バイデン大統領が緊急会見

こうした状況を受け、バイデン大統領は13日に緊急会見を開き、異例中の異例ともいえる「全預金者の保護」に言及。「国民の皆さん、安心してください。銀行システムも皆さんの預金も安全です」と呼びかけた。

緊急会見を行ったバイデン大統領(ワシントン・3月13日)
緊急会見を行ったバイデン大統領(ワシントン・3月13日)

バイデン大統領は、全顧客を保護するとした一方で、経営陣を解雇する投資家は保護しないなどと極めて厳しいことも言及し、破綻の全容も明らかにするとしている。破綻直前に銀行幹部が5億円近い保有する株式を売却していたと可能性が浮上し、司法省などが捜査に着手したとの報道も出ていて、銀行幹部に対する怒りと不信感が広がっている。バイデン氏は「必要なことは何でもやる」と言って、「一般の方の預金は必ず守る」とも明言した。

アメリカには預金者1人あたり25万ドル(約3300万円)までを保護する制度があるが、今回のように上限を持たせず「預金を全額保護する」というのは異例だ。この“前代未聞”ともいえる対策をとった背景には、できるだけ早くこの混乱を落ち着かせ、バイデン氏が当時副大統領として対応に苦慮したリーマンショックの再来にしてはいけないという強い危機感があったとみられる。

SNSで一気に不安が拡散

預金が一気に引き出された背景には、“最新の銀行破綻劇”ともいえる、現代ならではともいえる事情がある。

今回経営破綻したシリコンバレー銀行は、債券売却で損失を出してしまったため、3月8日に増資計画を発表。すると「この銀行は危ないのではないか」という情報がSNSで一気に拡散したのだ。

システム利用不可を伝える画面
システム利用不可を伝える画面

投資家たちは「システムが使えなくなっている」「オンラインでアクセスができなくなった」などと次々に投稿。ある投資家が「投資アドバイザーにこの銀行を使うなということを言われた」などと投稿すると、閲覧は630万件以上にもなった。このように、スピードを持って一気に情報が広まり、不安が増大して、取り付け騒動に繋がったのだ。

そして、9日には預金全体の4分の1=420億ドル(約5兆6000億円)が引き出され、10日には経営破綻した。たった2日間で破綻に追い込まれた形だ。

こうした状況に、議会下院・金融サービス委員会のマクヘンリー委員長は「ツイッターを利用した史上初の銀行取り付け騒動だ」と声明を発表。これまでとは全く違うペースで情報が広がったということがわかる。

日本の新興企業などの中にはシリコンバレー銀行を利用していたところもあり、今後影響が出てくる可能性が指摘されている。また、西海岸を中心に、財政基盤の弱い中堅以下の銀行の株価が下落していて、この状況も引き続き注視していかなければいけない。アメリカの金融機関11社も16日、経営難に陥っているサンフランシスコ拠点の中堅銀行ファースト・リパブリック銀行を支援するため、約4兆円の資金を預け入れるとも発表している。アメリカの銀行破綻との直接の関係はないと政府は強調するが、銀行の経営に対する不安の高まりはヨーロッパにも飛び火し、スイスの金融大手「クレディ・スイス」の株価の暴落も起きている。

日本への影響としては、今後アメリカ全体に影響が拡大し経済が打撃を受けることで、急激な円高が進む可能性もある。アメリカ経済が打撃を受ければ、日本や世界経済にも連動するため、大きな経済的な不況に陥る恐れもある。

アメリカのFRB(連邦準備制度理事会)はインフレが改善されていないとして、一度緩めた利上げのペースを再び引き上げる見通しだったが、それも今回の銀行破綻で「利上げ」自体を、一旦停止に追い込まれるとの観測も出ている。バイデン政権としては「銀行への不安」と「物価高への不満」を両天秤にかける中で、一歩間違えれば、国民からの激しい批判も起きかねない状況で、迅速にこの問題を収束させたい考えだ。17日には破綻した銀行幹部の責任をより厳しくし、破綻前に自社株を売って得た利益を受け取れなくするなどの規制強化案も発表した。リーマンショックに比べて世界の金融網に対する安全策はとられているとされているものの、世界市場の不安が解決できるのかも問われている。

(FNNワシントン支局 中西孝介)

中西孝介
中西孝介

FNNワシントン特派員
1984年静岡県生まれ。2010年から政治部で首相官邸、自民党、公明党などを担当。
清和政策研究会(安倍派)の担当を長く務め、FNN選挙本部事務局も担当。2016年~19年に与党担当キャップ。
政治取材は10年以上。東日本大震災の現地取材も行う。
2019年から「Live News days」「イット!」プログラムディレクター。「Live選挙サンデー2022」のプログラムディレクター。
2021年から現職。2024年米国大統領選挙、日米外交、米中対立、移民・治安問題を取材。安全保障問題として未確認飛行物体(UFO)に関連した取材も行っている。