東日本大震災のあと、海中のがれき撤去や海の環境を守る活動に取り組んできたことが評価され、岩手・花巻市出身のダイバーが、アメリカの著名なダイビング雑誌で「海のヒーロー」に選ばれた。
「三陸の海を守りたい」と活動を続けるダイバーの海への思いを取材した。
愛称は「クマさん」 世界中の海を潜るダイバー
海藻がなく、まるで砂漠のような海底。
![岩手県大槌町の船越湾](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/1/3/700mw/img_1355af38c92a26073785fba1378b4c49371374.jpg)
大槌町の船越湾では、ダイバーたちがロープに昆布を取り付ける作業を行っている。豊かな海を取り戻そうと活動を続ける“海のヒーロー”たちだ。
![ロープに昆布を取り付けるダイバーたち](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/0/7/700mw/img_073e7104eafcb6a8711b6c986886aacc290556.jpg)
大船渡市でダイビングショップを営む佐藤寛志さん(48)は、インストラクターとして多くのダイバーを育ててきた。
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その大きな体から、ついたニックネームは「クマさん」。
みちのくダイビングRias・佐藤寛志さん:
だいぶ小さくなったので、子グマくらいになった。130kgあったが今は100kgくらい
佐藤さんは、1年の多くを海外で過ごし世界中の海に潜ってきた。
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震災が発生したのはタイで仕事をしているときだった。3日後に帰国して目にしたのは、がれきに埋め尽くされたふるさと岩手の海。
![がれきが広がる大船渡市の海](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/9/8/700mw/img_980b356fa6ef5b67285882d6f0c4c0f2558392.jpg)
みちのくダイビングRias・佐藤寛志さん(当時38):
変わり果てた姿だったので、とりあえず何かしなきゃ、なんとかしなきゃと思いました。自分の技術を生かせればと思って始めました
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美しい海を取り戻したいと、海中のがれきを片付けるNPO法人「三陸ボランティアダイバーズ」を立ち上げた。震災から5年ほどはがれきを引き上げる毎日。「ダイバーといえば密漁」と、疑いの目をかけていた漁師とも信頼関係が生まれ、一緒に活動するようになった。海を再生したいという思いは、みんな同じだ。
震災で「藻場」が減少 水産業に打撃
がれきの撤去が進んだあと、海には大きな変化が起きていた。
漁師:
個体数がとにかく減っている。もうほとんどいない
漁師の貴重な収入源「アワビの不漁」だ。三陸沿岸では、アワビのエサとなる昆布などの海藻が茂る場所「藻場」が減っている。
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冬の海水温が上がり、ウニが活発になっているため海藻を食べつくしてしまうのだ。そのウニもエサ不足となり、中身がスカスカで売り物にならない。
![エサ不足でウニも不漁に](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/4/8/700mw/img_481049ccbfd890fbeec82d4b81bc7f42327048.jpg)
県内沿岸部では、震災前には3,280ヘクタールだった藻場が、2020年度には1,446ヘクタールと半分以下に減った。それに伴い、アワビの水揚げ量も震災前の343トンから、2021年度には過去最低の80.5トンまで落ち込み、水産業に深刻な打撃を与えている。
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危機感を抱いた大槌町は2021年に「藻場再生協議会」を立ち上げた。「クマさん(佐藤寛志さん)」たちダイバーや漁師、町の職員など地域ぐるみで海藻が茂る海づくりに取り組んでいる。
三陸ボランティアダイバーズ・佐藤寛志さん:
岩場の畑を休めて、そこに種昆布を設置できれば結果が出やすい
大槌町 産業振興課・芳賀諒太さん:
ここを再生できれば漁業者にとって良い環境になるだろうなと
町の職員・芳賀諒太さん(28)も協議会のメンバーだ。
![協議会メンバーの芳賀諒太さん](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/4/d/700mw/img_4d8a927fb58f71585cbad9b9f766ece6320644.jpg)
地元の海の現状を知って「クマさん(佐藤寛志さん)」にダイビングを教わり、今では海中での作業を一緒に行うようになった。
日本人初「海のヒーロー」に
2月28日は、1.5メートルほどの長さまで育てた昆布を砂漠化した場所に移す作業を行っていた。漁師も期待を込めて作業を見守っていた。
三陸ボランティアダイバーズ・佐藤寛志さん:
5年前の写真を見ると、今よりアワビがいる
2022年度28回目の活動には、「クマさん(佐藤寛志さん)」と芳賀さん、そして漁師など5人が参加。
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港から1.5kmほど離れた野島周辺は、かつては海藻が広がる海だった。
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メンバーはウニに食べつくされないよう、海底から少し浮かせて張ったロープに育てた昆布を取り付けていった。こうした活動が行われるのは昆布が育つ冬だ。水温は7度。ダイバーにとっては過酷な環境だ。
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三陸ボランティアダイバーズ・佐藤寛志さん:
手先が冷たくて感覚がなくなる。最後のほうは動きづらくなって、すごく寒い
震災後のがれきの撤去や藻場の再生といった取り組みが世界的に評価され、「クマさん(佐藤寛志さん)」は、2023年1月、アメリカのダイビング雑誌で「海のヒーロー」に選ばれた。
日本人初の快挙だ。
![アメリカのダイビング雑誌より](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/0/4/700mw/img_04de91fd1718727158a44ae8599d564e577070.jpg)
三陸ボランティアダイバーズ・佐藤寛志さん:
非常にうれしい、光栄。今までダイバーだけでも8,000人以上が参加しているし、地元の漁師たちとも一緒にずっとやってきたので、みんなで受賞したもの
![喜びを語る佐藤寛志さん](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/2/9/700mw/img_298ef7c5e0f1d24c70e5e3e8442fcca0345863.jpg)
大槌町 産業振興課・芳賀諒太さん:
三陸の漁師のために体を張っていただいている。それを直接見ていると感謝の思いでいっぱい
ダイバーを育成「必要不可欠な人材たち」
海の再生には多くのダイバーが必要だ。そこで大槌町では、2022年度から地域の人たちをダイバーとして育成することにした。6人が新たにライセンスを取り、「クマさん(佐藤寛志さん)」と一緒に潜っている。
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三陸ボランティアダイバーズ・佐藤寛志さん:
この海を未来まで考えたときに、次の世代のことを考えていかなければならない。必要不可欠な人材たち。ダイバーがもっともっと育ってほしい
![ダイビングスーツを着せる佐藤寛志さん](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/9/2/700mw/img_92d466bd5a4e0f59fb07fefcf703bc2d463479.jpg)
がれきの撤去から始まった活動は、藻場の再生へと広がり、地元のダイバーも増えた。
その先頭で潜ってきた「クマさん(佐藤寛志さん)」は、「海を愛する“みんな”がヒーロー」だと語る。
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三陸ボランティアダイバーズ・佐藤寛志さん:
たった1人では何もできないけれども、みんなと繋がって、そういった形を作り出せる人のことを言うのかな。わたしの中のヒーローというのは、地元を愛しながら、地元の人たちと育っていくダイバーなのかな
東日本大震災から12年。海中には、いまだがれきが残り、新たな課題も浮き彫りになってきている。そうした困難に立ち向かいながら、三陸の復興を支えてきたヒーローたちは冷たい海の中で情熱を燃やしている。
(岩手めんこいテレビ)