借金の返済を免れるため、元同僚を殺害し、ダム湖に遺棄したとして、強盗殺人などの罪に問われている男の裁判員裁判が福井地方裁判所で続いている。

13回目の公判で、被害者の父親が証言台に立ち、「動いている子どもを次々と刺して…子どもには何が何でも生きていてほしかった」と涙ながらに話した。

借金返済免れようと何度も突き刺した

強盗殺人と死体遺棄、銃刀法違反の罪に問われているのは、福井市の無職・丹羽祐一被告(48)。

起訴状などによると、2020年6月、丹羽被告は借金の返済を免れようと学習塾の元同僚・青柳卓宏さん(当時40)の背中を包丁で刺したあと、胸や首などを錐(きり)で何度も突き刺し殺害した。

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その後、遺体をスーツケースに押し込み、坂井市内のダム湖に遺棄した罪に問われている。

検察によると、丹羽被告は青柳さんに約1,160万円の借金があった。被告は殺害後、青柳さんの自宅アパートにあった300万円余りを奪っているとしている。

家に来ない息子 異様な違和感

被害者参加制度で法廷に立った父親は、青柳さんの性格について「反抗期もなく、普段から優しい子どもだった。おばあちゃん子で真面目な性格だった」と人柄を話した。

高校生の時から数学が好きで、それを生かす仕事に就きたいと塾講師になったという。

青柳さんは1人暮らしをしていて、週に3回ほど両親との夕食のために実家に帰っていた。事件当日も夕食を一緒に食べる予定だったが、いつまでたっても息子は家に来ない。遅れるときは必ず連絡をしてきたが、この日はその連絡もなかった。心配でアパートを見に行ったが、その姿を見つけることはできなかった。ただ車だけが残されていて、異様な違和感を覚えた。

翌日、坂井市内のダム湖で遺体が見つかったという事件を報道で知った。「まさか」とは思ったが、身体的な特徴が違っていたため、息子だとは思わなかったという。しかし、その日の夜、警察が実家を訪れ、遺体は青柳さんだという事実を聞いた。「愕然(がくぜん)とした。あまりにも非現実的な出来事で頭がついていかない」との心情を語った。

息子の遺体と対面したのは、安置されていた警察署内だった。本人確認のため、体の上にかかっていた白い布をとると、腐敗のためか顔は緑色に変色していた。「自分の子どもとは認識できなかった」という。

現実を受け入れられない中で、通夜と葬儀が進んでいった。火葬する前の夜、両親と兄は青柳さんのひつぎを間にはさんで寝た。

火葬場で息子と最後の別れ。火入れのスイッチを押す時、「卓宏!たかひろ!」と父親は泣きながら何度も息子の名前を叫び続けた。

法廷で息子に伝えたいことを聞かれると、「一番つらかったな。まだ動いている子どもを次々と刺して…。そこまでしなくてもと思った」。そして、涙ながらに「子どもは心の中で親を呼んでいただろうと思う。何が何でも生きていてほしかった」と話した。

被告からの謝罪なし 「二度とこの世に出てきてほしくない」

丹羽被告については、「謝罪があるだろうと思っていたがなかった」と証言した。弁護人を通して、謝罪文と丹羽被告の両親が用意した500万円を提示されたが、「量刑を少しでも軽くしたいという意図を感じたので受け取っていない」という。

父親が証言台に立った公判の1週間前、被害者の母親も証言台に立った。

検察から丹羽被告に求める量刑について聞かれると、「一番重い刑を願います。二度とこの世に出てきてほしくない。」怒りをにじませて言葉を発した。

検察は無期懲役を求刑。弁護側は「強盗殺人にはあたらない」として、懲役10年が妥当だと主張している。判決は3月10日に言い渡される。

(福井テレビ)

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