長崎市出島町でこの春、新たに醸造所を立ち上げようと奮闘する若い夫婦がいる。彼らが手がけるのは「どぶろく」だ。

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かつて、海外の文化を日本各地に広げた扇形の島「出島」で、始まろうとしている若き夫婦の挑戦を追った。

「どぶろく」を出島から日本各地に

米と水とこうじだけで作る日本古来の酒「どぶろく」。「昔の酒」、「田舎の酒」などとイメージされることもあるが、日向勇人さん・咲保さん夫婦が手がける「どぶろく」は、今の食生活にマッチする洗練された味わいだ。

この日はなじみの薄い「どぶろく」を少しでも多くの人に知ってもらおうと、酒店の一角を借りて試飲会が行われた。

訪れた客:
米の粒が結構残っていて、それが酒を飲んでいるというより米を食べている感じ。甘いので飲みすぎる

訪れた夫婦:
うまい!

でじま芳扇堂・日向勇人さん:
初めてこういう飲み方を楽しむ、あるいはどぶろくに出会ったという声をもらったので、こうやってちょっとずつ皆さんに紹介していけたらいいと思う

かつて、海外の文化を日本各地に広げた扇形の島「出島」。

日向さん夫婦はこの町で醸造所を立ち上げ、「どぶろく」を作っていこうとしている。「芳扇(ほうせん)」という名前には2人の期待がこめられている。

でじま芳扇堂 日向勇人さん・咲保さん夫婦:
出島から日本の素晴らしい文化をお酒に表現できれば、日本中、世界中に広がっていくのではないかと思って命名した

出発点は故郷から…未経験から始まった酒作り

福岡県出身の勇人さん。大学時代、「なんとなくおもしろそう」という理由で能楽部に入ったのが全ての始まりだった。

卒業する頃には、日本文化の奥深さにほれ込み、選んだ仕事が「酒作り」。未経験で飛び込んだ世界だったが、佐賀県の蔵で4年間、酒の作り方を教え込まれた。

その時に知り合ったのが、長崎市出島町の出身で、ホテル業界でキャリアを積んできた咲保さんだった。

でじま芳扇堂 日向勇人さん・咲保さん夫婦:
きっかけは…結婚。結婚して一緒にどぶろく作りをやろう…ではなくて、一緒に店をやろうというのが先行していて。故郷に戻って出島で仕事をやろう、何か2人で、というのが最初の出発点

「どぶろく」との出会いは東京だった。浅草にある醸造所と店舗をあわせた店。

この形式に可能性を見いだした勇人さんは、街中で酒を作るノウハウを学ぶため、ここで「どぶろく作り」の経験を積むことを決めた。

でじま芳扇堂 日向勇人さん・咲保さん夫婦:
(“こうじ”のできは?)結構いい

妻・咲保さん:
(東京に)来てからはちょこちょこ手伝っている。酒造に関わって1年

でじま芳扇堂・日向勇人さん:
どぶろくは素材をそのまま生かす酒なので清酒と違う。清酒は良しあしを分けて、いいところ取りをしている酒。どぶろくはそうではなくて、素材を全部いいものにしちゃおうという思想がある酒なので、こっちの方が自分の中でしっくりくる

でじま芳扇堂・日向勇人さん:
酒蔵で培った技術を生かしてどぶろくにしているので、吟醸作りに近いというか、ほぼ同じやり方でどぶろくを作っている。時間がかかるが、いいものができる。基本、酒作りは全部一発勝負なので、個人的にはそれがすごく楽しい

この日は約2年の東京生活で最後の仕込み。日向さん夫婦が作る「芳扇」は、日本酒の製造技術を応用して40日かけてじっくり作っているため、とろみと甘みがありながらも、飲み口はすっきりとしているという。

まるで“大人のネクター” 季節限定のラインアップも

2023年1月、日向さん夫婦の姿は長崎・南島原市にあった。2人は今、どぶろく作りに使える果物や野菜を探している。

南島原市の福島農園は桃を生産している。収穫量は毎年12トンにのぼるが、そのうち1割は販売には適さない傷物だ。日向さんはそこに注目していた。

福島農園・福島慎司さん:
傷んでいるものもそのまま引き取ってくれるところがあったら、一番自分たちも楽

でじま芳扇堂・日向勇人さん:
酒にするとアルコールがつくので、桃としての持ちが長くなる。発酵食品でかつアルコールなので、(桃は)よっぽどダメなところ以外は使える。僕らも加工していくので、正直形はそこまで重要ではない。この風土で育まれたものを使ってでき上がるものがおいしくないわけないでしょうと、自分にプレッシャーを与えながら、喜んでもらえるものにしたい

以前、日向さんは桃を使ったどぶろくを造っている。米とこうじとともに、桃の果肉と皮を丸ごと入れて一緒に醸造すると果肉感が残り、発泡感もあり、「大人のネクター」といった感じの味わいになる。今後、長崎県内の果物や野菜、ハーブや蜂蜜など季節の限定どぶろくもラインナップにいれていきたい考えだ。

長崎・出島の店は今、着々と工事が進んでいる。敷地は決して広くはないが、2人がしたいことは全部詰め込んだ。

米と水とこうじだけで作り、素材全てをいただく「どぶろく」。長崎の出島から2023年春、新たな文化が広がろうとしている。でじま芳扇堂の店舗は、長崎市出島町に2023年3月下旬にオープンする予定だ。

(テレビ長崎)

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