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「大胆な構想、着実な実行ということを基本におきまして、3つの言葉『変革』と『創造』と『信頼』ということを念頭におきましてこれからの色々な活動をやっていく」

「変革」「創造」「信頼」その3つを大切にしながら、いつも大胆な経営手腕を見せてきた、トヨタ自動車の豊田章一郎名誉会長(97)。14日、心不全のため亡くなりました。
豊田章一郎氏の遺した言葉を紐解くと、「変革」「創造」「信頼」の3つの柱で、トヨタを「世界のトヨタ」へと押し上げた、その足跡が見えてきました。

「変革」「創造」「信頼」の3つの柱

1982年3月、この時まだ別会社だった、自動車製造を担う「トヨタ自動車工業」と販売の「トヨタ自動車販売」が合併。新たに「トヨタ自動車」が発足され、新社長に就任したのが豊田章一郎氏でした。

従業員の前で行った訓示では、「新生トヨタ自動車は、新たな陣容に生まれて変わって、これからの試練に挑戦していくのであります。新しい発想と柔軟な思考で新生トヨタの歴史を作りだしていきたいと思います」と話した豊田氏。

1988年10月、日米貿易摩擦に揺れる中、アメリカ・ケンタッキー州に、トヨタ単独で北米初の自動車工場の建設を発表。「変革」「創造」「信頼」の3つの柱のうち、生産の「変革」を実行に移します。

この時の会見では、もう一つの柱である「信頼」を強調する言葉も。

「『アメリカの皆さまと完全なパートナーシップを築きたい』という夢が、実現に向けて大きく前進しようとしている。今後は、雇用や経済成長に貢献すると同時に、皆様のお役にたてるような新しい関係を築くよう努力したい」(トヨタ自動車75年史HPより)

その後も、イギリスやカナダなどで、次々と自動車工場を建設していった章一郎氏。
1992年には社長を退き会長になり、1994年には自動車業界としては初となる、経団連の会長を務めることとなります。

世界各国で勲章を授与され、進出した先の「現地」を大切にする章一郎氏は、どのような思いで事業に取り組んでいたのでしょか。
そこには、最後のキーワード、「創造」が大きく関わっていました。

「トヨタが創業以来、大切にしてきた理念は、『モノづくりは人づくり』まず、モノづくりを担う人を育てるということです。この理念のもと、優秀な人材の育成のご支援をさせていただきます」

その言葉通り、章一郎氏は、教育に力を入れ、2006年にはイギリスのイートン校をモデルにした、全寮制の中高一貫校「海陽学園」を設立。初代理事長を務めました。

「世界のトヨタ」立役者の秘話…意外ともいえる人柄

人を育てることで「世界のトヨタ」を築き上げた章一郎氏。座右の銘は「天地人 知仁勇」でした。長年、豊田章一郎氏を取材してきた経済ジャーナリストの片山 修氏は、この言葉の意味をこう話します。

経済ジャーナリスト 片山 修氏:
「天地人知仁勇」ですが、まず経営にはいろいろな要素が必要だと。「天地」タイミングと場所が必要だと。「人」は人だと。「知」は知恵ですね、「仁」は人の情け。そして、私はそれに「勇」という一時を付け足して座右の銘にしていますと。「勇」はチャレンジする勇気です。

成功を収めた裏に、章一郎氏のこんな性格があったと、片山氏はいいます。
清掃のスタッフに「おつかれさま」と声をかけ、会長になった後も、現場におまんじゅうを差し入れる気遣いの人でした。

経済ジャーナリスト 片山 修氏:
東日本大震災の時も、皆さんが現場で一生懸命やっていると。そして社内で対策本部をやっている人たちに、差し入れにまんじゅうを買ってきて、皆さんに配ったり。
そういう、大変気遣いの人です。

一方で、身内には大変厳しく、息子だった豊田章男氏がトヨタに就職した際には、「お前の部下になって喜ぶやつはいないよ」と厳しい言葉も。

経済ジャーナリスト 片山 修氏:
甘やかさなかったというか、(章男氏が)実際、中に入ってみると「だれも私に指示してくれた人はいなかった」と、そんな経験を章男さんから聞いたことがあります。

もうひとつ、優れていたといわれているのが「決断力」です。
弟の豊田達郎氏が社長の時に、体調を崩したことで、会社がどうなるのか、先行き不安な空気が流れると、上司とぶつかって何度も左遷されるなどしていた、奥田碩氏を社長に大抜擢。豊田家以外から社長が選ばれたのは28年ぶりだったといいます。

さらに、リーマンショックで、世界的な経済危機が訪れると、息子の章男氏を社長に抜擢。逆境は「豊田家で乗り越える」という考えだったといいます。

経済ジャーナリスト 片山 修氏:
奥田さんを抜てきしたのもそうですけども、章男さんが社長になるとき、サラリーマン社長が三代続いていたので、また豊田家に戻すと大政奉還するんだということに反発がありました。それで少しごたごたしたんです。なかなか決まらなかった。
そんなとき最後に、章一郎さんが「何をゴタゴタしているんだ、早く決めなさい」と。その一言で豊田家の総意である、章男さんが社長になったと。

最後に片山氏は豊田章一郎氏に対して、こんな思いを話してくれました。

経済ジャーナリスト 片山 修氏:
「世界のトヨタ」の礎を作ったのは、まさに章一郎さんの30年間。
ずっと幹部をやっていらして、その間で章一郎さんも10年社長をやりました。章男さんも、この間やめられて13年です。そして新しいサラリーマン社長、ちょうどバトンタッチが不思議なことにトントンといきますね。そんな感情を思います。

(めざまし8 2 月15日放送)