2022年8月、中国の人民解放軍が発射したミサイル5発が、初めて日本の排他的経済水域の中に落下。アメリカのNo.3とされるペロシ下院議長が台湾を訪れ、アメリカが台湾との距離を縮めたことへの対抗措置だった。

日本政府は安保3文書を閣議決定し、中国の対外姿勢や軍事動向は「国際社会の深刻な懸念事項」で、「これまでにない最大の戦略的な挑戦」と表現。警戒のフェーズを上げた。

緊張感の高まる東アジア情勢。防衛省防衛研究所・防衛政策研究室長の高橋杉雄氏に、詳しく話を聞いた。

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台湾有事への懸念

2022年10月の共産党大会で、習近平国家主席は、台湾統一のためには武力行使も辞さないという姿勢を示した。

中国人民解放軍・東部戦区のSNSは、中国軍が12月25日に台湾周辺で空軍・海軍の合同軍事演習を行ったと投稿。台湾国防部も、26日午前6時までの24時間で、中国の空軍機71機と7隻の戦艦を台湾周辺で確認したとしている。

これは、23日にアメリカで成立した「国防権限法」で、台湾に対する巨額の軍事支援が盛り込まれたことへの反発とみられ、中国側はアメリカに対し、「正しい態度を取るべきだ」と主張しています。

(Q:台湾有事が起きる場合、南西諸島への影響はどう出ると考えられますか?)
高橋杉雄
室長:
2つのパターンが考えられます。1つめは、中国としては台湾に上陸する際、南から支援に来る米軍を阻止したい。阻止する方法として一つあるのが、沖縄周辺の列島線にある飛行場や港湾を無力化するということ。中国は特に2000発近いミサイルを持っていますから、それによって飛行場や港湾を破壊すると。これは自衛隊・米軍・民間問わず、飛行場であれば破壊するということです

(Q:1つめが空港や港湾の破壊ということですね。2つめは?)
高橋杉雄室長:
2つめのパターンは、守りが弱かった場合、南西諸島を奪って中国軍が進出すること。そうすれば、米軍の接近をより手前で阻止することができます。そういったかたちで、日本に戦火がおよぶ可能性が考えられます

(Q:まずは自衛隊や米軍を無力化し、ゆくゆくは奪って自分たちの拠点にすると…それは台湾有事とはセットと思った方がいいんでしょうか?)
高橋杉雄室長:
そうですね、そこまで中国共産党がリスクを冒す状況として、台湾有事というのは一番可能性が高いと思われます

海洋進出のリスク

中国は海洋進出への強い意欲を示していて、2017年の米中首脳による共同会見では「太平洋には中国とアメリカを受け入れる十分な空間がある」と話すなど、太平洋を中国とアメリカで分割する案を出している。

中国は独自の防衛ライン、第1列島線・第2列島線・第3列島線を設けていて、現時点で第1列島線より中国側には米軍を入れないとしている。

(Q:中国がハワイ近くの第3列島線まで勢力を拡大するということは、第1列島線に近い南西諸島は一番最初に中国軍が通過することになるわけですが、どういったリスクが考えられますか?)
高橋杉雄室長:
中国は19世紀の帝国主義時代のように、アジアを自分たちの勢力圏だとアメリカに認めさせたいわけです。そうなった場合にはこの地域の軍事的行動は、全部自分たちのやりたいようにやると。そういう意味で防衛線を前に出したい。第1列島線、第2列島線というところに軍事活動のレベルを上げていきたいというのが、中国側の考えです

中国の脅威に日本は

(Q:仮に中国が日本の領土を奪おうとしてきた場合、アメリカが最前線に立って日本を守ってくれるのでしょうか?それとも日本が主体的に動くのでしょうか?)
高橋杉雄室長:

日米安全保障条約の建て付け自体が「共同対処」となっていますし、同盟国は身代わりで戦ってくれるわけではないんです。自分たちが戦うからこそアメリカが助けてくれるということが大事です。今は米中の覇権競争みたいなかたちになっていますから、アメリカとしては同盟国で負けるわけにはいかなくなった。ですから、日本が本気で立ち向かう限りは、アメリカは少なくとも同じくらい、あるいはそれ以上の温度を持って支援してくれるであろうことは、期待してもいいと思います

(Q:中国が攻めてくる可能性が一番高いのは台湾有事ですか?)
高橋杉雄
室長:
だとは思いますが、歴史上の大戦争というのは意外とノーマークな場所から起こることが多いんです。第一次世界大戦はオーストリア皇太子暗殺、第二次世界大戦はドイツのポーランド侵攻。ですから、もしかしたら南シナ海・東シナ海かもしれない。油断は一切できないと思います

(関西テレビ「報道ランナー」2022年12月26日放送)

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