全日本フィギュアスケート選手権が12月22日(木)から開催される。
この全日本選手権にはさまざまな思いや目標を抱えて、この舞台に挑んでいる。
今回はトリプルアクセルや4回転を武器に、全日本へ出場する4人。
トリプルアクセルを跳ぶ渡辺倫果(20)、河辺愛菜(18)、吉田陽菜(17)と、今シーズン4回転トゥループを組み込んでいる住吉りをん(19)。
そんな大技を持つ彼女たちも、全日本選手権で上位を目指している。
渡辺倫果「垂直にどーん!」浮上した今季
2013年全日本ノービスBチャンピオンの渡辺は、近年まで決して目立つ選手ではなかった。
2020年には全日本でフリー進出を逃すなど苦い経験をしている。
しかし、今季は大躍進した。

低迷期もフィギュアスケートを続けてきた理由は「辞める勇気がなかっただけ」だという。
きっかけは、小学校高学年のときの坂本花織との会話だったと振り返る。
今でも鮮明に覚えているというその会話は何げない話から始まっていた。それから渡辺が「スケートを辞めるってなったらどうする?」と坂本に聞いたという。

「『良くも悪くも辞める勇気もないよね』って。『辞めようとすると今まで培ってきたこととか自分がやってきたものがあるから、自分を裏切るような気がして、辞められないよね』と。そこから『花織ちゃんでもそう思うんだ』と思って、そのまま抜け出せずにジュニア時代を過ごしてきました」
今シーズンは「辞めなくてよかった」と思えるスケート人生を謳歌(おうか)している渡辺。
2021年の全日本で、トリプルアクセルを初成功させ、自己最高の6位に。それによりつかんだ、今年9月のロンバルディア杯で、世界女王に輝いた坂本花織や北京五輪5位の樋口新葉も出場する中で優勝を果たした。

その後GPスケートカナダで優勝するなど、一気にGPファイナルまで駆け上がった。そのGPファイナルも総合4位とまさに絶好調だ。
そんな渡辺は自身の武器であるトリプルアクセルを「巻き返しの武器」と表現する。
「フリーの最初のアクセルがショートより(成功の)確率が高い。そこで巻き返せたりしているので、スケートカナダもショート6位から優勝、NHK杯も9位から5位になっている」
「暗黒時代がちょっと多め」と自らのスケート人生を振り返りつつ、「垂直にどーん!」と浮上した今の展開に、少し戸惑いながらも楽しみまくっているという渡辺。
だからこそ、急展開のようなスピードで大疾走するのではなく、段階を経て着実に上へと上っていきたいと語った。

全日本の目標は「自分を超える」こと。しかし、渡辺は自分自身を「手強い」と笑う。
「去年、全日本6位だったので、その後の自分との戦いもしんどかったし、成績が見合っていないように感じたまま、世界ジュニアに出ていた。
ただトレーニングの先生から『プレッシャーは勝手に自分が作り出しているものだから』と教えていただいたので、しんどいかもしれないけど、自分に勝てたときに良い成績になるんじゃないかな。全日本も狙いすぎず、“自分に勝つ”ことだけを目標にやっていく」
去年6位だった全日本で今年目指すのは5位以上。大躍進している今年、見たい景色も変わってきた。
「4位以内に入れば四大陸の可能性も出てくるので、目指したいです…。けど、3、4割くらい『世界選手権を目指したい』思いも芽生えたので、自分の首をしめない程度に狙おうと思います」
河辺愛菜、樋口コーチに師事して表現力UP
去年の全日本で河辺愛菜は、ショート、フリー共にトリプルアクセルを成功させ、北京五輪、世界選手権の代表の座をつかんだミラクルガールだ。
しかしその2大会で結果を残すことができず、悔しい思いを経験した。

「去年は3位だったので、見ている方もオリンピックの選手として見ると思うので、期待外れな演技はしたくないという思いが強い。それにふさわしい演技が全日本でできたらいいなと思っています」
今シーズンは心機一転し、名古屋に戻り、新たに樋口美穂子コーチに師事。
河辺は4年後のミラノ・コルティナ五輪も見据えて、「表現を磨きたい」とスケーティングの練習に力を入れてきた。
また樋口コーチは振り付けの細かい部分まで指導することから「周りの空間がすごく見えているなと感じている。今まではジャンプのことで頭がいっぱいで、ジャッジしか見る余裕がなかった。今季は空間視野が広がったのをすごく感じている」と語る。
今シーズンのGPフィンランド大会では3位に入り、演技構成点でも手応えをつかんだ。

全日本では今シーズン試合で跳んでいなかったトリプルアクセルを再び構成に戻すため、意欲的に練習に取り組んでいる。
「上位の選手は高難度ジャンプやアクセル、4回転を入れている選手が多い。ないと勝てないなと思っているのと、アクセルを入れてノーミスをした方が演技全体の見栄えとしてもいいのかなと思っています」

目標に掲げるのは「トータル210点超え」と「世界選手権代表」だ。
その全日本に向けては「シーズンで一番良い演技をしたいし、全日本が自分の中で大切な試合という強い気持ちがあるので、後悔だけはしないように。点数とかではなく、去年と比べても“ここは良かったな”とか成長を感じられる試合にできたら」と話す。
2年連続のサプライズを起こすことができるか。
吉田陽菜、3Aを今年こそ着氷させる
2016年、2017年の全日本ノービスを連覇し、2019年、2020年に全日本ジュニアで表彰台にのぼるなど、将来を期待されている吉田陽菜。
今シーズンから国内大会でシニア転向を決めた。海外試合はジュニアのカテゴリーで出場し今年12月のジュニアGPファイナルに出場した。

2019年からトリプルアクセルを跳んでいたが、コロナ禍で国際試合派遣がなかったために、ISU公認大会で初成功させたのは、10月のジュニアGPイタリア大会だった。
ジュニアGPファイナルこそ、ルッツのミスで低迷してしまったが、ジュニアGPシリーズを2連勝。そして、シニア転向初戦となった11月の西日本選手権では、三原舞依をおさえて優勝した。

「進化した姿を全日本で!」と強く意気込む吉田。
2026年のミラノ・コルティナ五輪を見据えてのシニア挑戦だが、シニアの全日本では過去3度の出場でトリプルアクセルの成功がない。去年の全日本は9位だった。
全日本ではショートプログラムとフリーで1本ずつ組み込む予定だという。

「(全日本で)一度もきれいに降りられていないので、今年こそ着氷させたい」と成功を誓う。
「ちゃんと降りることができたら、加点がつくアクセルだと思っています。そこは自信を持って練習してきたことを信じれば、たぶん良いアクセルが跳べると思うので、試合になったら思いっきり跳ぶだけかな」
それでも「人との戦いではなく、自分との戦い」と語る。
その戦いに勝利したとき、シニアとして四大陸選手権や世界選手権代表のチャンスも見えてくる。
住吉りをん、大きな目標は4回転の初成功
そして、今シーズンに4回転トゥループを果敢に挑んでいるのが住吉りをんだ。
昨シーズンは世界ジュニアの代表に選ばれた。

去年の全日本でも4回転トゥループに挑戦したが転倒。しかし、練習では着氷しているため、あとは試合で成功させるだけだ。
今シーズン満を持してシニアデビューを果たした大学1年生。GPシリーズデビューも飾り、フランス大会、NHK杯と2戦連続で表彰台にのぼった。
スピードが落ちない伸びのある滑りが定評の住吉。羽生結弦なども担当した振付師のシェイ=リーン・ボーンと初めてタッグを組んだフリーは、迫力としなやかさがあり、新たな一面を見せるプログラムだ。
そのフリー冒頭にはシーズン初戦から4回転トゥループを組み込んできた。まだ成功こそないものの、「着実に経験値を上げてきた。去年より格段にいいレベルに来ている」と手応えも感じている。

その4回転に挑み続けていることによって住吉は得られたものもあるという。
「4回転以外のジャンプが気持ち楽になった気がします。今までは3回転+3回転が一番難しいジャンプだったので。最大のプレッシャーになっていたんですけど、4回転が最大のプレッシャーになることで、楽に跳べるようになりました」
目標の表彰台へ、大技の成功がカギを握る。
「もちろん4回転を初成功させることが大きな目標になりますが、そこだけにこだわらず、ちゃんと他の部分でも自分の納得のいく演技をして。一つは“200点台に初めて乗せたい”ことと、“表彰台を狙いたい”と思っています」
この4人に加え、トリプルアクセルと4回転トゥループの同時成功に挑戦する島田麻央、さらにトリプルアクセルを武器に全日本ジュニア3位に入った中井亜美も全日本に出場する。
全日本の大舞台で、彼女たちの大技への挑戦を見届けたい。
全日本フィギュアスケート選手権2022
フジテレビ系列で12月22日(木)から4夜連続生中継(一部地域を除く)https://www.fujitv.co.jp/sports/skate/japan/
全日本までの道の詳しい概要はフジスケで!https://www.fujitv.co.jp/sports/skate/figure/toJPN.html