12月22日から始まる全日本フィギュアスケート選手権。
今年は大阪府門真市の東和薬品RACTABドームで開催される。
宇野昌磨(25)は9月、「ゆづ君のような存在、誰が見ても世界のトップだって思える選手になりたい」と語っていた。
この記事の画像(10枚)12年連続12回目の出場となる全日本。今年は“世界王者”として迎える大舞台だ。
そんな新時代のホープである宇野の「心」は、大きな変化を遂げていた。
羽生結弦の背中を追い続けてきた宇野昌磨
「ずっとゆづ君の後ろをついてきていたので、いざ自分がこういう立場に立たされたとき、最初は実感がなかったんですけど、自分もみんなを引っ張っていく存在にならなきゃなって思いました。
先輩たちが僕たちの世代までずっとつないできてくれたスケートかいわいの人気度とか、この立場に立たされている責任としてそれをちゃんと引き継ぐ」
9月、力強い決意と共にこう語っていた宇野は、時代を背負う覚悟を「結果」という形で示す。
ショートプログラム「Gravity」、フリー「G線上のアリア ほか」とプログラムも新しくした今シーズン。
フリーでは4回転5本を組み込み、世界トップクラスのジャンプ構成でGPシリーズ2連勝を果たすと、GPファイナルでも300点の大台を超えて初優勝した。
羽生結弦の背中をジュニア時代から追い続けてきた宇野。彼にとって3歳上の兄のような羽生は、常に自分の先をいく存在だった。
2014年の全日本で、当時17歳の宇野は4回転ジャンプを携えて臨み、シニアの大会で初めて羽生と一緒に表彰台にのぼった。
2018年の平昌五輪では、初出場の大舞台で堂々の演技を披露し、銀メダルを獲得。しかし、この日も表彰台の一つ上には羽生の姿があった。
それでも宇野は「(羽生と比べて)注目をあまりされないのがプレッシャー的にすごく楽だなという思いもある。しばらく楽をさせてほしいと思います」とメダル獲得後の会見で語り、笑いを誘った。
宇野にとって羽生は常に道しるべとなる存在。
思わず目を奪われる唯一無二の演技は、いつでもハートをたぎらせた。
2020年の全日本で宇野は、羽生の演技を見て「もっとスケートうまくなりてぇ!って、本当に心の底から思いました」といつになく熱い思いを口にする。
そんな刺激を力に変えて宇野は、さらなる成長を遂げる。
今年2月の北京五輪では2大会連続のメダルを獲得、3月には初の世界王者に輝いた。
しかし7月、羽生がプロ転向を発表したことで揺れ動いた宇野の心。
それでも「決して後輩を引っ張る存在ではない」と言っていた彼が「引っ張っていける存在にならなきゃ」と決意を新たにした。
全日本も「何が起こるかわからない」
ジュニア時代、そしてシニアデビューから途切れることなく出場し続ける全日本。
今シーズン、宇野は出場したすべての大会で優勝している。
全日本は過去に4度優勝しているが、宇野はGPファイナルから帰国した12月中旬のインタビューで「(全日本は)何が起こるかわからないのが面白いところ」と笑う。
「“何が起こるかわからない”なんて、やる側はそんなのたまったもんじゃないですけど、見ている側は“何が起こるかわからない試合”はやっぱり面白い。
全日本は他の大会よりもそれが一層出る大会だと思っていて。選手誰もがすごく緊張する舞台なので、面白い大会が見られたなと、僕も出るんですけど(笑)」
先日まで行われていたFIFAワールドカップ(W杯)カタール大会を「めちゃくちゃ見ていた」という宇野。
「ずっと見ていたら試合も面白くてすごくハマった」と話し、“何が起こるかわからない”試合の見る側の面白さも味わったという。
そんな余韻からか宇野は、全日本のキスアンドクライに飾られる、選手たちの目標を書いたボードに、W杯で話題になった言葉「ブラボー!」と書いた。
サッカー日本代表の長友佑都が試合後のインタビューなどで「ブラボー!」と盛り上げてくれた場面に、宇野は「僕には絶対できひん」と思ったと明かす。
宇野にとっての「ブラボー!」に、どんな意味が込められているのか聞くと「なーんにも意味ないです」とニヤリ。
「せっかくキスアンドクライでいっぱい映るじゃないですか。ちょっとぐらい面白いのがあってもいいかなって思って」とちゃめっ気たっぷりに答えた。
GPファイナル帰国から全日本までは時間も限られている。
その中で宇野は、疲れをとりつつ、ファイナルでの課題を全日本までの短期間で練習をして改善したいと話すなど、“練習の虫”は健在だ。
今シーズン、ベストな状態で試合に臨めている理由も「練習」にあると語る。
「本当に後悔のない練習をしてきました。そう言い切れる状態で、ほとんどの大会に出ることができた。試合までの練習はしっかりできていると思うので不安は少ないかなと思います」
先日25歳を迎えたばかりの宇野は、日本のフィギュア界ではベテランの域にいる。
GPファイナルには、日本の男子が宇野を含めて4人出場した。その大会を経て宇野は、日本勢の勢いを感じつつ、数々の大会を経験した“ベテラン”だからこそ見えてくる課題も挙げた。
「みんな若いなって思いました。ジャンパーが多くて、ジャンプが優れた選手ばかりだったんですけど、ジャンプだけでなく、“表現力”も兼ね備えたら、新時代にふさわしくなるんじゃないかなと思います」
宇野にとって“引っ張っていく”とは?
宇野が決意した「引っ張っていく」こと。
シーズンも始まり、ジュニア勢も含めて多くの日本の選手が出場する全日本を前に、改めてその「引っ張っていく」思いについて聞いてみた。
「引っ張っていくって、本当にいろいろな種類があって。結果で引っ張る人もいれば、後輩に直接コミュニケーションを取って伝えていく人もいれば、試合でスケートに向き合う姿勢を見せる人など、人それぞれだと思うんです。
僕は結果がついてくればいいと思いますけど、みんなより長くスケートをしているので、いろいろな経験も多くしている。スケートの向き合い方、ルールも含めていろいろな向き合い方が、今の若い選手たちよりも効率的に『なんでこんな練習をするのか』『何が今一番大事なのか』と、自分の練習の仕方や試合での取り組み方で見せられているかなと思っています。
仲良く切磋琢磨しながらお互いを高めてやっていける存在でありたい。みんなが自分の最高のパフォーマンスをして、それを競い合うのがフィギュアスケートだと考えている。
お互いが良い刺激になれる存在、年齢が離れていてもわだかまりができない存在でいたい」
背中を見てきた羽生がプロへと転向したことで迎えた新時代「シン・フィギュア」。
宇野にとっての「シン」は何かと聞くと、フィギュアスケートという競技の未来を見据えた答えが返ってきた。
「ジャンプに関してはこの2年、レベルアップしましたし、僕以外の若い人たちもこれからどんどんレベルアップし続けると思うんです。
やっぱりグランプリファイナルで感じたことは、フィギュアスケートはジャンプと表現力両方を兼ね備えたスポーツだということを、みんなに忘れられないようにしなければいけない。僕も最近は『ジャンプ』と言っていましたし、これからもジャンプをやっていくのは変わらない。
でもずっとフィギュアスケートが進化していくためには、基礎として芸術と技術の兼ね備えが大事だと言うことを、これからも体現していきたいと思っています」
さまざまな思いを抱き、覚悟を決めた宇野。
「引っ張っていく」存在として全日本の舞台でどんな背中を見せるのか期待したい。
全日本フィギュアスケート選手権2022
フジテレビ系列で12月22日(木)から4夜連続生中継(一部地域を除く)
https://www.fujitv.co.jp/sports/skate/japan/
全日本までの道の詳しい概要はフジスケで!
https://www.fujitv.co.jp/sports/skate/figure/toJPN.html