刑事訴追を迫られているトランプ

刑事訴追を迫られているトランプ前米大統領は、例え有罪になり刑務所に拘禁されても政治活動を続けられるらしい。

米司法省は18日、ドナルド・トランプ前米大統領が昨年1月の連邦議会襲撃を扇動した疑いや機密文書を自宅に持ち帰っていた問題などについて、特別検察官を任命し刑事訴追する方向で捜査を命じたと発表した。

2024年の大統領選に出馬表明したトランプ氏
2024年の大統領選に出馬表明したトランプ氏
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これについてトランプ氏は「新たな魔女狩りだ」と反発し捜査には協力しないと表明しているが、トランプ政権の司法長官だったウィリアム・バー氏は18日「司法省はトランプ氏を訴追するに充分な証拠を握っているからこそ特別検察官を任命したのだろう」とテレビのインタビューで語っている。

そこで、もしトランプ前大統領が刑事訴追されたり、その結果有罪になった場合2024年の大統領選挙にどのような影響があるかだが、非営利のニュース解説サイト「ザ・カンバセーション」は16日こんな見出しの記事を掲載した。

「ノー、例え起訴されてもトランプの大統領選挙は終わらない。彼は牢屋から選挙運動や大統領として執務することもできるのだ」

「ザ・カンバセーション」(16日)
「ザ・カンバセーション」(16日)

刑務所を大統領執務室に!?

それによると合衆国憲法は大統領に求められる資格として「米国で生まれ、最低14年間米国内に居住し、年齢35歳以上の者」とだけ規定している。これ以外の理由で議会や州が大統領を処分することはできないと最高裁が判例を残している。

それは、政治資金を私的に使用しそれをめぐる虚偽報告をした下院議員を米議会が罷免したことめぐる1969年の訴訟で、最高裁は憲法が下院議員の資格を「年齢25歳以上で7年間以上米国籍の者」とだけ定めているのに、それ以外の理由で議員が罷免するのは越権行為で憲法違反と判断したのだった。

アメリカ合衆国議会議事堂
アメリカ合衆国議会議事堂

この判例は大統領を含む連邦職員や議員全般に適用されるものと解釈されており、トランプ前大統領が刑事訴追されたり有罪になってもその立場を制限することはできないと「ザ・カンバセーション」の記事は解説している。

また合衆国憲法はその修正第14条3項で、合衆国に対する暴動または反乱に参与したものは官職に就くことはできない」と定めている

トランプ氏は昨年の連邦議会襲撃事件で「反乱を扇動した」嫌疑で、この規定が適用できないか民主党内で検討されたらしいが、元々は南北戦争後に南軍を支持した公務員を排除する目的で、その条文は「連邦議会の議員、大統領及び副大統領の選挙人、あるいは国または州の文武の官職に就くことはできない」と「大統領」には触れていないので、事件当時は現職の大統領だったトランプ氏に適用するのは無理と考えられている。

大統領執務室でのトランプ氏(2017年)
大統領執務室でのトランプ氏(2017年)

さらに合衆国憲法にはその修正25条で「もし大統領がその職務上の権限と義務の遂行が不可能と副大統領と閣僚の過半数が判断すれば、副大統領がその任を継ぐ」としているが、これも大統領の病気などを前提としたものなので適応は難しいようだ。

つまるところ、トランプ前大統領を排撃するには議会が弾劾する以外に道はないようだが、そのために上院で必要な出席議員の3分の2の投票を確保できないと、トランプ氏は拘置所や刑務所を「執務室」にして大統領の職務を執行することも可能なのだ。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。