異例の説明
閣僚の辞任について首相が説明するという異例の質疑が参議院本会議でも行われた。岸田文雄首相は、旧統一教会との関係をめぐって山際大志郎前経済再生担当相を事実上更迭した経緯を説明し、重ねて謝罪。「任命責任を重く受け止めている」と述べたものの、新たに浮上した「推薦確認書」の署名問題については、自民党として調査する考えがないことを示した。
対応が後手に回ってダメージが拡大した山際氏の問題。それを経てもなお実態解明に向け指導力を発揮する意向は持ち合わせていないかに見える。国民の不信感を払拭する道筋は見えず、政権を取り巻く厳しい状況が続くことは避けられそうもない。
「深くお詫び申し上げます」
首相の説明は、野党が国会審議に応じる条件として要求し、与党側が受け入れた。「社会的に問題が指摘されている団体や関連団体と接点を有していることにより、政治に対する信頼を損ねることになったことを重く受け止めるとともに、国会会期中に大臣が辞任する事態となり深くお詫び申し上げます」。参院本会議で岸田首相は山際氏の辞任について謝罪し、「政策に遅滞が生じないよう、政府一丸となって国政の運営にしっかりと取り組む」と語った。
「推薦確認書」の調査を否定
野党側は、旧統一教会の関連団体が自民党議員に求めた推薦確認書への署名について「党としての徹底調査を命じ、結果をすべて公表する」よう迫った。この問題をめぐっては、大串正樹デジタル副大臣や山田賢司外務副大臣らが昨年の衆院選の際、旧統一教会の関連団体による推薦確認書に署名したことを明らかにしている。野党側の質問に対し、岸田首相は「議員本人から説明すべきものと考えている」と述べ、党としての調査を行わない考えを示した。
さらに野党側は細田博之衆院議長や安倍晋三元首相と旧統一教会との関係についても徹底調査するよう求めたが、岸田首相は「細田議長は三権の長であり、ご自身の判断で適切に対応すべきであると考えている。また、安倍元首相は、ご本人が亡くなられた今、本人は何も釈明、弁明できないなど十分な調査はできないのではないかと考えている」と改めて調査を否定した。
また、「政治とカネ」の問題が指摘されている寺田稔総務相や秋葉賢也復興相らについては、「政治への信頼が損なわれることのないよう、説明責任をしっかり果たしてもらわなければならないと考えている」と述べるにとどめた。
これで国民の不信感を拭うことができるのだろうか。来月以降本格化する国会審議も野党の厳しい追及によって防戦一方になるのではないか。
被害者救済では協議加速を指示
一方で岸田首相は、旧統一教会の被害者救済や教団に対する質問権の行使に関して積極的な姿勢を示している。
被害者救済のための法整備を目指す与野党4党の協議会は、被害回復の方法をめぐり与野党間の溝が埋まっていない。こうした中、岸田首相は協議会で自民党の責任者をつとめる若宮健嗣幹事長代理らに対し、「とにかく今国会中にできるところまで全力を挙げて加速化させてもらいたい」と議論を加速させるよう指示している。
新たな総合経済対策の決定を受けて開いた記者会見では、宗教法人法に基づく質問権行使の実務を担当する人員を大幅に拡充する考えを表明した。「担当部局の文化庁宗務課の体制については思い切って拡充し、従来8人であったものを来月には38人に拡充する。そして法律や会計の専門家の協力を得つつ、被害者や弁護士による団体などから情報提供と必要な協力を得ていく」としている。
局面を打開できるか
岸田首相は旧統一教会への初の質問権行使という措置を取ることで教団組織の実態を解明することを目指している。内閣支持率が続落する状況を打開し、政権浮揚につなげたい考えだ。
「信なくば立たず」。記者会見で岸田首相はいつものキャッチフレーズを繰り返した。「従来から政治への信頼こそすべての基盤であると思っている。国民の皆さんの信頼を回復する近道はないと思っている。皆さんの声を受け止めながら、一つ一つ結果を積み上げていくしかない」。
信頼回復に向け、党としての調査も含め旧統一教会の問題に踏み込む姿勢が求められている。火種はまだ多い。近道はない。
【執筆：フジテレビ 解説委員 安部俊孝】
