東京での選挙協力解消

連立与党の基盤が揺らぎ始めた。衆院選挙区「10増10減」を受けた自民・公明両党の候補者調整。新設された東京28区で候補者を擁立したいとする公明の求めを自民が拒否し、公明は東京のすべての自民党候補に推薦を出さないと通告した。自民党は埼玉と愛知では公明党の候補を支援する方向で調整する考えを伝えたものの、修復への道筋は見通せていない。両党をつなぐパイプは細くなり、“自公蜜月”と呼ばれた時代は完全に過去のものとなっている。

「信頼関係は地に落ちた」

東京28区を巡り、自民側が「すでに自民都連が候補者を決めている」と公明の候補擁立を認めない意向を伝えたのは5月23日。その2日後、公明の石井啓一幹事長は、自民の茂木敏充幹事長との会談で、東京28区への擁立は断念し、東京での選挙協力を解消する方針を通告。会談後、石井氏は「東京における自公の信頼関係は地に落ちた」と断言した。

「東京における自公の信頼関係は地に落ちた」と断言した公明・石井幹事長(5月25日)
「東京における自公の信頼関係は地に落ちた」と断言した公明・石井幹事長(5月25日)
この記事の画像(4枚)

会談に同席した公明の西田実仁選挙対策委員長は、自民党の対応を「不誠実で、とても受け入れることができない。残念ながら交渉は打ち切る」とツイッターで厳しく批判。「全国289小選挙区のうち、わが党が議席を有しているのは現在9議席のみ。明らかにバランスが悪く、10増10減に伴う新設の選挙区のうち、いくつかで擁立を求めることは決して強引なことではない」と主張している。

公明党の危機感

勢力を拡大する日本維新の会。公明は維新の選挙戦略に危機感を募らせている。

衆院で公明は32人の議員を抱える。その中で小選挙区選出は9人。うち6人が大阪府、兵庫県の選出議員だ。4月の統一地方選で伸長した維新は、衆院選で続けてきた大阪と兵庫での公明との「選挙区すみわけ」をリセットする方針。公明が議席を持つ6つの選挙区でも候補者を立てる構えをちらつかせている。関西での議席獲得が危ぶまれる中、公明は党勢維持のため東京などの新たな小選挙区を取りにいく必要があった。

自民反発 「連立解消」の声も

公明の強硬姿勢に対し、自民の一部からは「連立解消もやむをえない」と反発の声が上がった。もともと自民内には区割り変更に対する不満が渦巻いていた。「10増10減」で選挙区が減るのは主に地方で、自民が割を食うケースが多い。新設される選挙区に先手を打って候補者擁立を仕掛ける公明に対する批判へとつながった。

選挙協力を巡る軋轢は、これまでも度々表面化してきた。2021年の衆院選で公明は広島3区に初めて候補者を擁立。自民県連は反発したが、自民議員への推薦見送りを示唆することで譲歩を迫り押し切った。昨年の参院選では公明が「相互推薦」を見送る方針を唐突に表明し、協議がもつれた。

自民の中堅議員は「これを機に連立を解消し、スッキリしたいという声が党内には多い」と指摘している。

生殺与奪の“2万票”

ただ、公明の支持母体・創価学会は各選挙区で2万票程度の集票力があるとされる。公明の推薦なしには小選挙区で当選が難しい自民議員は少なくない。公明の支援がなければ、小選挙区で自民議員の3割ほどが勝ち上がれないとみられている。

「選挙協力解消」の東京。2021年の衆院選で、自民は25ある選挙区で23人を擁立した。そのうち21人が公明の推薦を受け、14人が小選挙区を勝ち抜いた。次点と約2万票以下の差だった議員は小倉将信こども政策担当相ら6人に上る。

対立回避を模索

自民の茂木幹事長は30日、公明の石井幹事長と国会内で再会談し、東京以外に影響が広がらないよう埼玉14区と愛知16区では公明の候補を推薦する方向で地元県連との調整を急ぐ考えを伝えた。だが、東京の選挙協力解消問題は議題とならず。会談後、石井氏は、東京の対応は「変わらない」と言い切った。

岸田首相と会談後「連立政権に公明党の存在は極めて重要」とアピールした公明・山口代表(5月30日)
岸田首相と会談後「連立政権に公明党の存在は極めて重要」とアピールした公明・山口代表(5月30日)

一方で、首相官邸では岸田首相と公明の山口那津男代表によるトップ会談が開かれ、自公による連立政権の枠組みを維持していくことを確認。山口氏は「連立政権に公明党の存在は極めて重要だと思っている。それに取って代わる組み合わせや政権の姿は今のところ見られない」とアピールした。

解散戦略への影響と連立の行方

自公の亀裂は岸田首相の衆院解散戦略に大きな影響を与えそうだ。

広島サミット“成功”と内閣支持率の回復を受けて“解散風”が吹き荒れたが…
広島サミット“成功”と内閣支持率の回復を受けて“解散風”が吹き荒れたが…

G7広島サミットの“成功”と内閣支持率の回復を追い風に、今月21日の通常国会会期末にも岸田首相が解散に踏み切るのではという観測が永田町では強まっていた。だが、今では「解散は秋以降に遠のいた」と見る向きが多い。自公の間に吹く“すきま風”によって“解散風”は急速に勢いを失っている。

自公の連立関係は曲がり角を迎えた。

連立を組んで20年以上、緊張をはらみ、お互いに不満を鬱積しながらも選挙協力を行うことで両党はメリットを享受してきた。一連の問題がすぐに連立の解消にまで発展するとの見方は少ない。だが、妥協点を見出せず、深刻なしこりを残したまま選挙に突入する事態は起こりうる。その場合、相互不信がさらに拡大し、結果次第では連立解消が現実味を帯びてくることも否定できない。

【執筆:フジテレビ 解説委員 安部俊孝】

安部俊孝
安部俊孝

フジテレビ報道局解説委員。海部政権末期に政治記者になり、以来30年あまり永田町をウォッチ。自民党、野党、外務省などを担当して第一次安倍・福田・麻生政権時に首相官邸キャップを務めた。福岡県出身。早大商卒。好きなものはビール、旅、ラグビー、ブラジリアン柔術。