“政策大転換”の説明は・・・

通常国会最大の焦点である「防衛力強化」や「少子化対策」をめぐって与野党の論戦が交わされた。岸田文雄首相の施政方針演説に対する各党の代表質問。3日間にわたって衆参両院で開かれたが、議論が深まることなく終了した。岸田首相は具体策に踏み込まない答弁を繰り返した。

「防衛増税」に野党反発

衆議院の代表質問初日。トップバッターの立憲民主党・泉健太代表は、「防衛増税」をめぐり衆院の解散・総選挙を要求した。「防衛費、まさに額ありき。増税ありき。国会での議論なし。乱暴な決定ではないか」と岸田政権の姿勢を厳しく批判。「防衛増税を行うなら、解散・総選挙で国民の信を問え」と迫った。

代表質問初日、トップバッターは立憲・泉健太代表(25日・衆院本会議)
代表質問初日、トップバッターは立憲・泉健太代表(25日・衆院本会議)
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防衛費の増額に伴う増税方針をめぐっては、自民党内にも反対論が根強い。菅義偉前首相は「議論がなさ過ぎたのではないか」と苦言。また、防衛増税に消極的だった萩生田光一政調会長は「増税の明確な方向性が出た時には、いずれ国民に判断をいただく必要が当然ある」と指摘し、増税を実施する前に衆院解散・総選挙を行い、国民に信を問うべきだとの考えを示している。

「解散・総選挙は適切に判断」

泉氏の質問に対する岸田首相の答弁。「我が国は戦後最も厳しく不確実な安全保障環境に直面している。その中で、防衛力の抜本的強化、維持を図るためには、これを安定的に支えるためのしっかりとした財源が不可欠だ」と強調したが、「増税」という言葉は使わなかった。

衆院解散・総選挙に関しては、「何について、どのように国民に信を問うかについては、時の内閣総理大臣の専権事項として適切に判断していく」とかわした。

「増税」という表現なし

2日目の代表質問に立った日本維新の会の馬場伸幸代表も防衛強化の問題を取り上げ、「増税以外の財源を探す努力が足りないのではないか」と批判した。

2日目の代表質問に立った維新・馬場代表(26日)
2日目の代表質問に立った維新・馬場代表(26日)

岸田首相は、必要な財源の約4分の3は「歳出改革などあらゆる工夫を行うことにより賄う」とした上で、「それでも足りない約4分の1について、『税制措置』での協力をお願いしたいと考えている」と答弁。防衛費増額の一部を増税で賄う考えを示したが、ここでも「増税」という表現は避けた。

「少子化対策」財源に触れず

岸田政権が新たに最重要政策と位置づけた「少子化対策」については、泉氏が「どこから財源を確保するつもりなのか」と質した。

これに対し、岸田首相は「各種の社会保険との関係、国と地方の役割、高等教育の支援のあり方など様々な工夫をしながら、社会全体でどのように安定的に支えていくかを考えていく」と述べるにとどめ、財源問題について具体的に触れることはなかった。

岸田首相は「従来とは次元の異なる少子化対策を実現したい」と語っている。財源問題を避けて通ることはできない。児童手当の拡充が対策の柱になる見通しだが、財源の確保は最大の課題。新たな財源には「数兆円」が必要になるとみられている。

「異次元のはぐらかし」

岸田首相は、昨年末、臨時国会閉会後に重要政策の大転換を図った。それだけに通常国会では論戦を通じて国民への丁寧な説明が求められている。だが、関心の高い問題ほど岸田首相が語る内容は具体性を欠き、説明が尽くされたとは言い難い。

代表質問を終えた泉氏は「異次元の説明不足、異次元のはぐらかし」と痛烈に批判。「非常に後ろ向きで不誠実な国会対応だ」と酷評した。

4月に統一地方選

「増税」という言葉を避け、少子化対策の財源について踏み込まない岸田首相。その背景には4月に行われる統一地方選挙と衆院補欠選挙がある。選挙前に負担増につながる議論は避けておきたいという思惑が透ける。

FNN世論調査より(1月21・22日実施)
FNN世論調査より(1月21・22日実施)

ただ、今月のFNN世論調査では、防衛費増額のための増税に「反対」と答えた人は67.3%に上っている。「賛成」は28.9%にとどまる。通常国会の召集直前、21・22両日に実施した調査結果だ。

代表質問という与野党論戦を終えた今、「反対」「賛成」どちらが増えただろうか。選挙が近づいているからこそ、国民が納得できるような説明が求められている。

FNN世論調査より(1月21・22日実施)
FNN世論調査より(1月21・22日実施)

また、世論調査では、少子化対策のために増税や社会保険料の増額などで国民負担が増すことについても聞いたところ、「増えても仕方がない」が48.0%、「増やすべきでない」が48.9%と賛否が割れた。財源も含めた具体案をしっかり示した上で、その必要性に理解を求めるべきであろう。

自民・伊吹元衆院議長
自民・伊吹元衆院議長

自民党・二階派の会合に出席した伊吹文明元衆院議長は、具体性を欠く岸田首相の説明に苦言を呈した。「『岸田レストラン』はメニューを出したが、どういう料理なのか分からない」。

国民も同じ思いだ。メニューの中身が分からなければ、有権者は何をもって投票に臨めばいいのか。

「国民の前で正々堂々議論」

施政方針演説で岸田首相は「決断」や「改革」といった言葉をちりばめ、重要課題に正面から取り組む姿をアピールした。

施政方針演説を行った岸田首相(23日・衆院本会議)
施政方針演説を行った岸田首相(23日・衆院本会議)

「政治とは、慎重な議論と検討を重ねた上に決断し、その決断について国会の場に集まった国民の代表が議論をし、最終的に実行に移す営みだ」と語った上でこう強調した。「この国会の場において、国民の前で正々堂々議論し、実行に移していく」。

「国会の場」、次のラウンドは衆院予算委員会だ。岸田首相と全閣僚が出席し、30日から3日間の日程で基本的質疑が行われる。一問一答形式の論戦の中、国民が納得できる説明ができるかどうか。「決断」を「実行に移す」岸田首相の熱意と力量が試されている。

【執筆:フジテレビ 解説委員 安部俊孝】

安部俊孝
安部俊孝

フジテレビ報道局解説委員。海部政権末期に政治記者になり、以来30年あまり永田町をウォッチ。自民党、野党、外務省などを担当して第一次安倍・福田・麻生政権時に首相官邸キャップを務めた。福岡県出身。早大商卒。好きなものはビール、旅、ラグビー、ブラジリアン柔術。