1勝1敗同士の戦い

ラグビー・ワールドカップ(W杯)フランス大会の1次リーグ。日本は初戦でチリを42-12で下したものの、2戦目のイングランドには12-34とノートライで敗れ、1勝1敗となった。
次の戦いは日本時間29日早朝、相手は同じく1勝1敗で強力なフィジカルを誇るサモア。1次リーグ突破に向け、日本にとって負けられない試合だ。

先発メンバーにあのベテラン選手

サモア戦の先発メンバーはイングランド戦から2人が入れ替わった。センターにライリーが復帰し、フルバックにはイングランド戦で存在感を示したレメキ・ロマノ・ラヴァが今大会初めてスタメン入りした。最年長37歳の堀江翔太も、2試合連続で先発出場する。

ツインテール&ブルマ

堀江はフランカーのリーチ・マイケルとともに、2011年のニュージーランド大会から4回連続でW杯出場。経験値は群を抜いている。2019年大会でも中心選手としてチームを引っ張り、日本初のベスト8入りに貢献した。

リーグワンでは埼玉パナソニックワイルドナイツの“ラスボス”として知られている。ドレッドヘアがトレードマークだ。ラインアウトのスローイングの時にボールが当たらないよう、ツインテールにしている。まくり上げたパンツも目を引く。走るときに邪魔なので折り込んでいるだけだという。個性豊かな堀江を「ツインテール&ブルマ」と呼ぶファンもいる。

カギは堀江のプレー

日本が目指す4強入りに向けてW杯1次リーグはあと2戦。スクラムやラインアウトといったセットプレーが今後も重要なポイントになる。堀江はどちらのプレーにも不可欠な存在だ。その出来・不出来が勝敗を左右するといっても過言ではない。

イングランド戦でのスクラムは、堀江はフロントローとして相手の圧力をガッチリ受け止めた。プロップは稲垣啓太と具智元。ほぼ完璧なスクラムを組めたことに、フランカーのリーチは「戦えた。かなり自信になる」と語っている。

日本のスクラムは進化を遂げた。去年11月のテストマッチでは、イングランドの強力フォワードにスクラムを押し込まれて反則を繰り返し、13-52と大敗。その反省を生かして、スクラムの強化を図った。地道な練習の賜物だ。サモア戦ではスクラムでプレッシャーをかけ、相手の反則を誘いたい。

課題はラインアウト

一方、イングランド戦では、ラインアウトに大きな課題を残した。日本のラインアウト12回のうち成功は8回。成功率は67%にとどまった。マイボールを獲得できなければ準備したプレーも実行できない。前半23分には自陣5メートルのラインアウトを失敗し、トライを奪われている。

スローワーを務めた堀江はサモア戦前の記者会見で、イングランド戦のラインアウトについて次のように語った。「向こうの反応が良かった部分が結構あって、立ち位置が良くなかった場面もたくさんあった。そこを修正するだけでうまくいくと思う」。サモア戦に向けては成功率100%を目指す意気込みだ。

美しきオフロード

堀江は180cm・104kg。フォワード1列目の選手でありながら、試合では鮮やかなパスやキックも披露する。イングランド戦の後半17分、ウィング松島幸太朗が自陣からビッグゲインして会場を沸かせた。その起点になったのが堀江だ。相手がノックオンしたと見るや、いち早く駆け寄り、身体を倒しながら、こぼれたボールを右手ですくい上げて松島の胸元にパス。実に柔らかな動きだった。

4年前のW杯を思い起こした。日本が初のベスト8進出をかけたスコットランド戦でプロップ稲垣のトライが賞賛された。オフロードパス3連続でつないだ最高のトライ。ここでも始まりは堀江だった。

ボールを受けた堀江が相手のタックルをスピンターンして抜き去り、次のタックルを受けながらロックのジェームス・ムーアに右手でパス。ムーアはオフロードで、フルバックのウィリアム・トゥポウにつなぎ、最後は稲垣がゴールポストの真下に飛び込んだ。

試合から1年後、トゥポウはこう語っている。「スキルフルな堀江がボールを持ったので、『なにか起きる』と直感して、サポートに走ったんです」(Number2020年11月5日号)。堀江が動き、瞬時に「同じ絵」を見た4人の信念が生んだトライだった。サモア戦でもボールを持った堀江のプレーに注目だ。

過去2大会では日本が勝利

日本対サモアは、日本時間29日午前4時キックオフ。サモアとは過去2回のW杯でも対戦し、いずれも日本が勝っている。しかし、7月のテストマッチでは、前半にリーチがレッドカードで退場処分になったこともあり、22-24で敗れた。決して油断はできない。ただ、日本はイングランド戦から中10日、サモアはアルゼンチン戦から中5日で試合を迎える。体力面で日本は有利。スクラムを含め、準備してきたことを出せば勝てるはずだ。

堀江は、記者会見で「本当に1試合1試合大切にしなければならない状況にあるし、僕たちはハングリーに1試合1試合勝っていくことをしなければならないチームだと思う。次の試合にすべてを賭けられるようにしたい」と決意を示した。

最年長37歳、ベテランの動きから目が離せない。

安部俊孝
安部俊孝

フジテレビ報道局解説委員。海部政権末期に政治記者になり、以来30年あまり永田町をウォッチ。自民党、野党、外務省などを担当して第一次安倍・福田・麻生政権時に首相官邸キャップを務めた。福岡県出身。早大商卒。好きなものはビール、旅、ラグビー、ブラジリアン柔術。