“危険水域”に転落

岸田内閣の支持率が政権維持の“危険水域”と言われる20%台にまで落ち込んだ。時事通信が8月4~7日に実施した世論調査で、内閣支持率は前月に比べ4.2ポイント減の26.6%。3カ月連続で下落した。不支持率は8.1ポイント増の47.4%だった。マイナンバーカードを巡るトラブルが泥沼化し、収束の兆しが見えないことが大きな要因だ。

内閣支持率は3カ月連続で下落。“危険水域”と言われる20%台にまで落ち込んだ
内閣支持率は3カ月連続で下落。“危険水域”と言われる20%台にまで落ち込んだ
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政府は8日、マイナ保険証に別人の情報が登録されたミスを、新たに1069件確認したと発表した。5月までに判明していた分と合わせると、ひも付けミスは計8441件に上る。

7割が「指導力を発揮していない」と回答

政府が公表したマイナンバー総点検の中間報告では、マイナ保険証の誤登録以外に、公務員の年金情報でも118件のミスが判明したほか、障害者手帳や労災年金でも誤りが見つかった。

登録作業を担当する自治体や健康保険組合による本人確認が不十分だったことが原因だが、確認の手順を現場に徹底していなかった政府にも重い責任がある。マイナカードの普及を急いだこともトラブルを招いた一因だろう。

マイナンバー情報総点検本部に出席した、岸田首相と河野デジタル相(8月8日)。世論調査はマイナカードのでトラブル対応について厳しい結果となった
マイナンバー情報総点検本部に出席した、岸田首相と河野デジタル相(8月8日)。世論調査はマイナカードのでトラブル対応について厳しい結果となった

時事通信の世論調査では、マイナカードのトラブル対応で「岸田文雄首相が指導力を発揮していると思うか」と尋ねたところ、「発揮していない」と答えた人が69.0%に上り、「発揮している」の8.3%を大幅に上回った。

河野太郎デジタル相の対応については、「評価しない」が52.5%と半数を超えた。「評価する」と答えた人は18.2%にとどまっている。

「24年秋に、現在の健康保険証の廃止を目指す」と話した河野デジタル相(2022年10月)
「24年秋に、現在の健康保険証の廃止を目指す」と話した河野デジタル相(2022年10月)

河野大臣は2022年10月、「2024年秋に現行の健康保険証を廃止する」と突如打ち出した。マイナカード普及の旗を振ってきた河野大臣に対し、混乱の責任を問う声は根強い。そして、問題が深刻化するまで矢面に立つことを避けてきた岸田首相の責任も重い。

岸田内閣全体の責任だと指摘した立憲・岡田幹事長(8月8日)
岸田内閣全体の責任だと指摘した立憲・岡田幹事長(8月8日)

立憲民主党の岡田克也幹事長は8日の記者会見で、「河野大臣はもちろんだが、岸田内閣としても内閣全体で進めてきた話だから責任がある話だ」と指摘した。立憲民主党は、この秋にも召集される臨時国会に健康保険証の廃止時期を延期するための法案を提出し、追及をさらに強める方針だ。

「11月末まで」点検完了を指示

岸田首相は4日、健康保険証を廃止してマイナカードに一本化することへの国民の不安払拭に向け、新たな措置を発表した。一本化後にマイナ保険証を持っていない人全員に「資格確認書」を交付。有効期限を当初予定していた「最長1年」から「最長5年」に延ばすと説明した。

健康保険証の廃止時期を延期するかどうかについては判断を先送りしたが、「総点検作業を見極めた上で、廃止時期の見直しも含め、適切に対応する」と含みを持たせた。

マイナンバー情報総点検本部に出席した、岸田首相(8月8日)
マイナンバー情報総点検本部に出席した、岸田首相(8月8日)

さらに岸田首相は8日、マイナンバー情報総点検本部に出席し、原則として11月末までに個別データの点検を実施するよう指示。また、再発防止策として、マイナンバー登録に係わる横断的な省令改正やガイドライン策定を9月中をめどに実施するよう求めた。

遠のく年内解散

総点検の終了時期は、従来の「秋まで」から「11月末まで」となった。しかし、膨大な確認作業を抱える自治体には先行きへの不安が広がる。終了がずれ込む事態もありそうだ。河野大臣は「期限よりも、しっかりやってもらう方を優先したい」と述べている。

任期満了に伴う自民党総裁選が行われるのは、2024年9月。それまでに衆院選で勝利し、総裁選を無風で乗り切るのが岸田首相の基本戦略とされる。今秋の衆院解散・総選挙も、与党内で可能性が高いと見られていた。

収束時期が見通せないマイナ問題
収束時期が見通せないマイナ問題

だが、マイナ問題の収束時期は見通せず、混乱は長期化の様相を呈している。総点検の作業が進めばミスがさらに見つかり、批判が拡大しかねない。国民の不安払拭に向けた道筋はいまだ見えない。

「衆院選は来年だ」。首相率いる岸田派の関係者はこう語った。永田町では年内の衆院解散は困難との見方が広がっている。

東京地検の捜査を受けている秋本真利衆院議員(左)と、フランス研修を巡り批判を浴びている松川るい参院議員
東京地検の捜査を受けている秋本真利衆院議員(左)と、フランス研修を巡り批判を浴びている松川るい参院議員

不祥事も岸田首相の戦略に水を差す。

風力発電会社から多額の資金を受け取ったとして、東京地検特捜部の捜査を受けている秋本真利衆院議員は、外務政務官を辞任し、自民党を離党した。自民党女性局長の松川るい参院議員らは、フランス研修が「観光のようだ」と批判を浴びた。

刷新感を打ち出せるか

岸田首相は9月中旬にも内閣改造・自民党役員人事を行う方針だ。岸田首相は10日、視察先の富山・射水市内で、「岸田内閣としては先送りできない課題に取り組み、答えを出していくことを基本姿勢としている。そのために適材適所、どうあるべきか考えていきたい」と述べている。刷新感を打ち出し、政権浮揚につなげたい考えだ。

内閣改造では、河野デジタル相の処遇をめぐり、難しい判断を迫られる
内閣改造では、河野デジタル相の処遇をめぐり、難しい判断を迫られる

内閣改造の焦点の一つは、河野大臣の処遇。マイナカードの旗振り役として矢面に立ってきた大臣を続投させるのか、それとも交代させるのか。岸田首相は難しい判断を迫られることになる。

【執筆:フジテレビ 解説委員 安部俊孝】

安部俊孝
安部俊孝

フジテレビ報道局解説委員。海部政権末期に政治記者になり、以来30年あまり永田町をウォッチ。自民党、野党、外務省などを担当して第一次安倍・福田・麻生政権時に首相官邸キャップを務めた。福岡県出身。早大商卒。好きなものはビール、旅、ラグビー、ブラジリアン柔術。