2022年6月、熊本・合志市に重度の障害があっても、24時間対応できる診療所ができた。長年勤めていた病院を辞め、診療所を開いた男性医師の思いとは。

これまでにない“特例”の診療所

合志市の冨田朱里くん(11)と弟の了雅くん(7)。2人は脊髄性筋萎縮症という難病。

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人工呼吸器を付け、食事も直接胃に栄養を入れて行う。問いかけに言葉を発することはできないが、目を動かして返事をする。

痰が詰まるとアラームが鳴り、吸引をしなければならない。父親が仕事でいない間は、母・有利子さんが1人で対応している。2人のもとを訪れたのは、小児科医・島津智之医師。医師が自宅を訪れ診察する「訪問診療」と呼ばれるもの。

島津智之医師:
今日は了ちゃんからするよ。いや?お兄ちゃんからがいいの?ほんと、じゃ、お兄ちゃんからしようか

「訪問診療」が利用できないころは通院していたが、たくさんの医療機器ごと移動しないといけないため、かなりの大仕事だった。

母・有利子さん:
移動が大変なので、来てもらえると助かります

島津医師は、重度の障害を抱える子どもたちや家族をさらに支えたいと、18年勤めた病院を辞め、6月に新しい診療所を開いた。

島津医師は、学生だった2000年に任意団体NEXTEPを立ち上げた。病院に勤務しながら団体をNPO法人化し、訪問看護ステーションの開設など医療や福祉の面から子どもたちをサポートしてきた。

「二足のわらじ」で順調に活動も進めてきたが、その状況を一変する出来事があった。新型コロナウイルス。急増するコロナ患者対応するため、病院の小児病床が減らされていった。

島津智之医師:
病院の中でできることもたくさんあったんですけど、コロナの対応を優先するという世の中の流れの中で、子どもたちは後回しっていうのが、自分の中でこのままでは嫌だなと思って。そういうの嫌だなが、自分でクリニック立ち上げようというふうにつながっていった

新しく開いたのは「穂っぷこども在宅&心身クリニック」。ここでは一般診療だけでなく、重度の障害がある子どもたち、コロナ禍で増えているという不登校の子どもたちの診療を行う。

これまでより多くの時間を訪問診療に充てられるほか、「医療型短期入所」を受け入れる。「医療型短期入所」は、医療的ケアが必要な人の家族が休養をとることができる制度で「レスパイト」と呼ばれる。ここでは特に、人工呼吸器が付いているなど重度の子どもたちでも、24時間受け入れが可能。

熊本県では、全ての医療圏域で人口比に対してベッド数が過剰となっている。そんな中でも「穂っぷ」は、地域からのニーズが高いとして「病床付き」の診療所でも特例で県から開設を認められた。

介助する親たちの相談とケアも

母・有利子さん:
大丈夫、1泊だけ。あしたお迎えにくるから。さみしい?大丈夫

朱里君たち兄弟が、初めて「穂っぷ」で1泊する。

母・有利子さん:
生活には慣れているんですけど、24時間全介助なので、ずっと見ないといけないのでですね。気が張ってるのかなと思います。だから預けたときは、ちょっとホッとするというか、ゆっくりできるのかな

両親は久しぶりに外食できたという。
「穂っぷ」では短期入所中、少しでも子どもたちに楽しんでもらえるようイベントなども行う。

重度の障害がある緒方勇心くん(8)も、「穂っぷ」を利用している。勇心くんの家族は訪問診療はもちろん、短期入所にも助けられていると話す。

勇心くんの母親:
うちは兄弟もいるから、長男の部活もあるし、学校行事もあるし。連れていけないので、部活とかは暑いし寒いし、ほとんど連れていけないし、預かってもらえるところがあることで、うちの家族が回っている

勇心くんの母親:
私たちも「ごめんね」って気持ちで、やっぱりショートは預けるんですよね。だけどそういう風に思わない場所を作ってくださったから「もうごめんね」じゃなくなるんじゃないかなって思って

島津智之医師:
この子に対して何ができるかなとか、この家族に対してどういったことが相談のれるかなという引き出しが、ひとつ増えたと思うんですよね。僕だけでは解決できないことも、ほかのスタッフのアイデアや知恵を借りながら一緒にやっていける、そういった場所として、ここが存在できたならと思っています

子どもたちとその家族が、当たり前の生活を送るために。島津医師の挑戦はまだまだ続く。

(テレビ熊本)