ある日 突然脳梗塞になり、人生が一変した男性がいる。半身に麻痺が残る体で、男性は2021年に金沢市内の里山で農家民宿を始めた。その宿に今、男性との交流を求めて、様々な人が訪れているという。

脳梗塞で人生が一変…医師の勧めで農家民宿を開業

金沢市の山あいにある一軒家。農家民宿「ととのや」だ。

金沢市の山間・福畠町にある農家民宿「ととのや」
金沢市の山間・福畠町にある農家民宿「ととのや」
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宿泊客:
こんにちはー!

客を出迎えるのは、宿守(やどもり)の深谷司(ふかたに・つかさ)さん。

2021年に、妻や仲間と共に民宿を始めた。

ととのや 深谷司さん:
お部屋は、こことここを使ってください。布団はそこにあるので、自分のタイミングで寝てください

客を案内する司さん
客を案内する司さん

里山の農家民宿は広々と開放的。

素泊まりは大人4000円、小学生2000円。オプションで、バーベキューや、はざ干し米の土鍋ご飯なども頂けるという。

司さんの妻 香代(かよ)さん
じゃあ、もうそろそろ畑の方に行きましょうか

到着した客を自慢の畑へ案内するのは、司さんだ。宿守の司さんは、5年前に発症した脳梗塞の後遺症で左半身に麻痺が残っている。

ととのや 深谷司さん:
ここが「ととファーム」です

食事に使う野菜の収穫は、客も手伝う。

一緒に民宿を始めた仲間の1人、田邉望(たなべ・のぞむ)さん。金沢医科大学リハビリテーション医学科の医師で、司さんの主治医でもある。

司さんと民宿を始めた田邊医師(右)
司さんと民宿を始めた田邊医師(右)

田邉望医師:
司さんが出来ないから、自然とお客さんが手伝うことになる。それが、僕たちの宿のすごくオリジナルなところ。障害を持っている彼と一緒に過ごすことで、時間がゆっくりになる。泊まった人には、その心地よさを感じてもらえるのかな

司さんは以前、配管土木の会社を共同経営していた。脳梗塞で倒れたのは、会社が10周年を迎え、専務としてやりがいを感じていた時期だった。

ととのや 深谷司さん:
いやー、もう終わったって感じや。体を動かす仕事ずっとやってたから、もうこれで何もできなくなったと…

脳梗塞で倒れた時の司さん
脳梗塞で倒れた時の司さん

病院でのリハビリで、日常生活は送れるようになったが、仕事への復帰は叶わなかった。

ととのや 深谷司さん:
誰にも会いたくなかった。急にこんな姿になったの、見られたくなかった

そんな司さんを見て、一緒に農家民宿を始めないかと誘ったのが、田邉医師だった。司さんはもともと体を動かすことが好きで、農業にも興味があった。そこで、司さんの新たな居場所として「里山」がいいのではないかと考えたからだ。

農園へ向かう司さんと田邊医師
農園へ向かう司さんと田邊医師

そして、司さん夫妻の知人の農家が空き家と畑を貸してくれることになり、2021年10月に農家民宿を始めることになった。

田邉望医師:
大きな障害を抱えて新たな人生を歩み始めるには、前の人生とは違う出会いも必要かもしれない。必要かどうかを決めるのは彼だけど、少なくともその機会があるのは大事なんじゃないかなと

自ら豆を挽き、コーヒーで客をもてなす司さん
自ら豆を挽き、コーヒーで客をもてなす司さん

病院の”中”でのリハビリが「治すためのもの」だとしたら、病院の”外”でのリハビリは「人生を楽しむためのもの」。どちらもあって初めて、人生の豊かさや彩りが得られると田邊さんは考えている。

司さんは時に客と酒宴を囲む
司さんは時に客と酒宴を囲む

民宿「ととのや」は、司さんだけでなく、体が不自由な人、心が疲れている人など、様々な人たちの心と体のリハビリができる場所、居場所になればと開業したものだったのだ。

集う人たちの心を癒す「しゃべリハ」とは

2022年8月。

常連客:
こんにちはー!

ととのや 深谷司さん:
あら、こんにちは

「ととのや」で、夏祭りが開かれた。

宿の敷地に屋台も出てにぎやかに
宿の敷地に屋台も出てにぎやかに

企画したのは司さん…ではなく、常連客たちだ。

祭りでは「流しそうめん」も…
祭りでは「流しそうめん」も…

企画した常連客:
誰が言い出したわけではない。「やってみようか」って言ったら、「いいね、いいね」ってなって。都会で忘れ去られた“人との関わり合い”で、こんな風になったのかな

祭りを企画した常連客
祭りを企画した常連客

オープンから約1年。まだ経営は厳しいが、口コミで少しずつ宿に人が集まるようになった。

ととのや 深谷司さん:
小さい子供に「司さん」って言われたら、すごい和むね。覚えてくれてるんだよね。こんなおっさん見て、司さんって…。嬉しいね

この日の客は、企業の経営者などだった。日常の喧騒を離れ、癒しを求めてやって来たという。特に楽しみにしている時間が、通称「しゃべリハ」だ。

自由に会話を交わすうちに、思わず心の内を打ち明ける人もいるという。この日も…

男性客:
去年の年末にガンになりまして、珍しい精巣腫瘍というやつで。抗がん剤治療したんですけど、残念ながら、この前、再発して…

ガンの闘病中だという男性は、司さんと会って感じたことが…

男性客:
司さんは、元に戻ろうとはしてないんですよね。新しい自分になるっていうのが、リハビリテーションなのかなって、今日お会いして思いました

ととのや 深谷司さん:
ちょっと乾杯しよっか

深谷さんと男性客:
乾杯!

ととのや・深谷司さん:
ようこそ、ようこそ

ととのや 深谷司さん:
きょうは1000歩歩いたから、明日は2000歩、歩こうかなって…。毎日戦いです。そうやって、毎日、今を生きているって感じです

記者:
まだ、お仕事が?

ととのや 深谷司さん:
宿泊あるから、忙しいね。今週はむちゃくちゃ忙しい…。よし!

金沢市の山あい、福畠町にある農家民宿「ととのや」。心や体が疲れたときは、不思議と心地いいこの宿を訪ねてみてはどうだろうか。

(石川テレビ)