未解決の殺人や行方不明事件、いわゆるコールドケース。1957年に起きた7歳の少女の誘拐殺人事件がアメリカで最も古いコールドケースといわれ、現在その件数は20万以上にのぼる。

こうした中、ペンシルベニア州ランカスター郡で、郡の最も古いコールドケースの犯人が逮捕された。そこには、数百年前にもさかのぼる「遺伝子系図」からヒントを得て犯人を見つけ出す、新たな捜査手法があった。

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事件が起きたのは1975年12月。ランカスター郡マナータウンシップのアパートの一室で、住人のリンディ・スー・ビークラーさんが何者かに殺されているのが、部屋を訪ねた叔父と叔母により発見された。

ランカスター郡のヘザー・アダムス地方検事は会見で「現場には明らかに争った跡があり、玄関のドアの外側にも内側にも血痕がついていました」と当時の状況について説明した。リンディさんは暴行され、2種類の刃物で19回刺されていた。現場からは犯人のものとみられるDNAが採取され、数百人への聴取が行われたが逮捕者が出ることはなかった。

アダムス地方検事によると、1975年当時、DNAは少なくとも刑事裁判制度に存在せず、1987年まではアメリカで使われることがなかった。20年以上が経った1997年、事件現場で採取されたDNAの鑑定が行われ、3年後にはFBIのDNAデータベースと照合されたが、ここでも手がかりすら得られなかったという。

そして2019年、地方検事局のコールドケースユニットがこの事件の捜査に着手。遺伝子解析などを行うパラボン・ナノラボ社の協力を得て、DNAを元に似顔絵が作成され、遺伝子系図による調査が始まった。遺伝子系図とは、DNAの遺伝情報から個人と個人の血縁関係のレベルや種類を明らかにするもので、担当した遺伝子系図専門家のムーア氏は、犯人が現場に残したDNAをデータベースと照合し、見つかった血縁者と犯人の共通の祖先から家系を辿る方法でこれまでも未解決事件の犯人を特定してきた。

ムーア氏が使うのはDNAをアップロードして血縁者を探す、民間の家系図作成サイトだ。しかし、犯人のDNAを照合してみると、マッチしたのは1600年代まで遡らなければ共通の祖先が見つからないような遠縁の人たちだけだった。そこから家系を辿るのは困難なため、従来のやり方での犯人特定はほぼ不可能だったという。

ムーア氏は、「このような遺伝子系図による捜査はあくまで足がかりです。高度な科学的ヒントですが、ヒントでしかありません」と話す。新たな方法を模索したムーア氏は、犯人とマッチした人が全て南イタリアの小さな町、ガスペリーナにルーツを持つことに気付いた。この町から多くの人がランカスター郡に移住していたこともわかり、昔の出入国記録や地域の資料を徹底的に調査し、イタリア移民による地元クラブの古い会員情報を見つけ出した。事件当時、ランカスター郡のイタリア系住民は2300人ほどで、そこからガスペリーナから移住した家系の、当時20代の男性に絞り、被害者と同じ建物に住んでいたことがある男、デビッド・シノポリを割り出したのだ。

ムーア氏の情報を受け、シノポリを監視下においていた捜査当局は2022年2月、フィラデルフィアの空港でシノポリが捨てたコーヒーカップからDNAを採取。それが犯人のものと一致したことで、7月に46年越しの逮捕に至ったのだった。

犯罪捜査に民間の家系図作成サイトを利用することにはプライバシーの問題などが指摘されていて、ムーア氏が使えるサイトも限られている。しかし、長年の捜査で浮上した数十人の容疑者の中にシノポリ被告は入っておらず、遺伝子系図を使った捜査がなければ今回の逮捕はなかっただろうとアダムス地方検事は語っている。

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(FCIニューヨーク「FCI News Catch!」) 

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