「反トランプ」急先鋒の大物議員大敗で“踏み絵“加速か

16日夜、共和党の現職下院議員、リズ・チェイニー氏の敗北を米メディアが一斉に報じた。ワイオミング州の共和党の候補者を決める予備選挙は、「反トランプ」を掲げ続けた大物議員であるチェイニー氏に対し、前大統領のトランプ氏が“刺客”となる弁護士のヘイグマン氏を擁立したことで一気に全米注目の選挙区となり、報道各社も連日特集を組み選挙戦を追っていた。

敗北宣言をするリズ・チェイニー氏
敗北宣言をするリズ・チェイニー氏
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“刺客”といえば日本では2005年小泉首相(当時)の郵政解散選挙を思い起こさせる。小泉首相は、閣議で解散への署名を拒否し辞表を提出した大臣を罷免し、造反議員には総選挙で公認を与えず、“刺客“候補を擁立した。今も共和党に絶大な影響力を持つトランプ氏が行ったのが、まさにその”刺客“作戦だった。

「チェイニー」という名前は、日本でも一度は耳にしたことがある人が少なくないかもしれない。父親はブッシュ政権で副大統領を務めたディック・チェイニー氏で、父親の引退後、彼女は下院議員を3期務め、共和党でナンバー3の座に上り詰めた。しかし、チェイニー氏は2021年1月6日、トランプ氏が扇動したとする議会襲撃事件をきっかけにトランプ氏を追求する側に立ち「二度と大統領執務室に近づかないように必要なことは何でもする」と反トランプを明確にした。そして、その姿勢は崩さず旗印としながら、今回の選挙戦に突入した。しかし、選挙戦は終始劣勢で最後までそれは覆ることはなく、30%(チェイニー氏)― 69%(ヘイグマン氏)の大差で敗れた。(17日時点)

チェイニー氏だけではない。議会でトランプ氏の弾劾決議案に賛成した共和党の議員10人がトランプ氏の標的となった。10人のうち4人が引退したが、チェイニー氏のワイオミング州をはじめ、ワシントン州、ミシガン州、サウスカロライナ州の4人の現職下院議員は予備選でトランプ氏が推す候補に敗れた。予備選で勝利し、共和党候補となったのは2人だけという状況だ。

結束強める“トランプ共和党”

ニューヨーク州司法長官事務所に向かうトランプ氏(8月10日)
ニューヨーク州司法長官事務所に向かうトランプ氏(8月10日)

連邦議会襲撃事件を調査する下院の特別委員会は、今もその調査を続けている。加えて最近は、一族が経営する企業を巡る疑惑で司法当局による調査が行われたり、フロリダ州にある自宅がFBI(米連邦捜査局)により家宅捜索が行わたりするなどし、トランプ氏には様々な疑惑が付きまとう。

しかし、こうした司法当局によるトランプ氏への捜査が、逆に“トランプ共和党”の結束力を強めているとの見方が大きい。実際に共和党員への世論調査では、トランプ氏へのFBI捜査を「権力の乱用」と答えた人は47%と「乱用ではない」の40%を上回った。

また、今、大統領選が行われればトランプ氏に投票すると答えた人は7月の53%から8月には57%に増加した。(いずれもPOLITICO調査)こうした調査とチェイニー氏などの選挙結果は、2024年の大統領選挙への出馬に意欲を示すトランプ氏を後押ししている。

反トランプの“急先鋒“が語るチェイニー氏敗北後の行方

記者団の取材に応じるボルトン氏(8月17日)
記者団の取材に応じるボルトン氏(8月17日)

トランプ政権時代、大統領補佐官を務めるも外交政策で対立し、解任されたジョン・ボルトン氏に17日、チェイニー氏の予備選敗北と共和党の針路について話を聞くことができた。ボルトン氏は「反トランプ」の急先鋒の象徴でもある。

FNNの取材に対しボルトン氏は「チェイニー氏の敗北は、共和党にとって本当に損失だと思った。彼女は自分の意識と原則に立っていた。そして、歴史的に共和党の成功は、私たちの哲学に従い、最高の政策を明確にしたときだと思う。私たちは、それが誰であろうと、一人の人間に依存する政党では決してない。そして、党への忠誠心は、一人の人物の立ち位置によって左右されるものではない。だから、彼女は今後どうするかを明確にしたのであり、私は彼女の幸運を祈る」と語った。さらに「もし彼女が(2024年の)大統領選に出馬すれば、私は興味深くそれを見守ることになる」とも話しチェイニー議員を支援し、反トランプの姿勢を貫く考えを強調した。

筆者の取材に応じるボルトン氏
筆者の取材に応じるボルトン氏

11月には、2年後の大統領選の行方を占う中間選挙が行わる。トランプ氏の勢いとともに反トランプの勢いにも目が離せない。

【執筆:FNNワシントン支局長 千田淳一】

千田淳一
千田淳一

FNNワシントン支局長。
1974年岩手県生まれ。福島テレビ・報道番組キャスター、県政キャップ、編集長を務めた。東日本大震災の発災後には、福島第一原発事故の現地取材・報道を指揮する。
フジテレビ入社後には熊本地震を現地取材したほか、報道局政治部への配属以降は、菅官房長官担当を始め、首相官邸、自民党担当、野党キャップなどを担当する。
記者歴は25年。2022年からワシントン支局長。現在は2024年米国大統領選挙に向けた取材や、中国の影響力が強まる国際社会情勢の分析や、安全保障政策などをフィールドワークにしている。