アメリカ・ペロシ下院議長の台湾訪問で米中関係が急速に悪化し、中国の反発が日本にも及んでいる。天然ガスの権益をめぐるロシアとの関係など、難しい舵取りを強いられる日本外交。

BSフジLIVE「プライムニュース」では、民主党政権で外相を務めた岡田克也氏、現外相の林芳正氏を番組前後半にそれぞれ迎え、宮家邦彦氏を交えて話を伺った。

旧統一教会問題は事実関係を明確に、国葬については首相が説明を

岡田克也 元外相 立憲民主党常任顧問
岡田克也 元外相 立憲民主党常任顧問
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松山俊行キャスター:
旧統一教会(世界平和統一家庭連合)と政治の関係について。議員によって関与の度合いが違うと思うが、今後どのように調べていくべきか。また、やはり祝電の送り先等を調べるのは難しいのか。

岡田克也 元外相 立憲民主党常任顧問:
まず、それぞれの党が事実関係を明確に調べ公表すること。それを前提に、このカルト集団に法的にどう対応していくか国会で議論を。祝電についてはかなり長い時間の話で、難しい部分もある。本人ではなく事務所の中である程度判断していたりする。しかし、祝電を打つことと関係する会合に出て具体的な発言をすることは、かなり次元の違う話。

松山俊行キャスター:
岸田内閣の支持率が下落傾向にあるもう一つの要因が、安倍元総理の国葬をめぐる賛否。岡田さんの受け止めは。

岡田克也 元外相 立憲民主党常任顧問:
手順を間違えたと思う。多くの人が納得して行われなければ不幸だが、野党に事前の相談もなくいきなり結論が出た。理由やこれから国葬を行う場合の基準など、総理の説明が求められる。

松山俊行キャスター:
いわゆる弔問外交で外国の首脳がたくさん集まり、外交の舞台ができるというポジティブな面を見る人も。

岡田克也 元外相 立憲民主党常任顧問:
本当に重要な会談ならきちんとセットしてやればいい。弔問時に具体的に詰めた外交が行われるわけではなく、それをもって国葬が必要とはならない。

岡田元外相「中国は一つのきっかけでぐっと押し込んでくる」

新美有加キャスター:
米ペロシ下院議長の訪台後、8月4日に中国が弾道ミサイルを発射して日本のEEZ(排他的経済水域)内に落下させ、森健良外務事務次官が孔鉉佑駐日大使に抗議。直接呼び出してではなく電話での抗議だったが、適切か。

岡田克也 元外相 立憲民主党常任顧問:
普通ではない。何か事情があったのでは。

宮家邦彦 内閣官房参与 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹:
普通ではないが、経験上中国ならばあり得る。呼び出しに応じてもカメラの前で日本側にガンガンやられるだけ。自分の評価にもならない、と大使が来ないなら電話するほかなかったのでは。推測だが。

松山俊行キャスター:
中国は日中外相会談もキャンセル。従来よりも相当強く出ているのでは。態度の変化を感じるか。中国側は今後も何かあるたびに同様の行動を起こし、常態化するか。

岡田克也 元外相 立憲民主党常任顧問:
今までと違う。台湾海峡の中間線も越えた。常態化の可能性は十分にある。例えば尖閣の場合も日本の国有化以来、公船が当然のように領海に入ってくる。一つのきっかけでぐっと押し込んでくるのが中国のやり方。

宮家邦彦 内閣官房参与 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹:
ペロシ議長訪台よりずっと前から、中国はアメリカ政府や関係者などにものすごい圧力をかけてきた。あの大規模な訓練を見れば周到な準備をしていたとわかる。口実ができたらそれを使って現状を変えていくやり方が、大規模な形で繰り返されている。

宮家邦彦 内閣官房参与 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
宮家邦彦 内閣官房参与 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

松山俊行キャスター:
日本では岸田政権が防衛費の相当な増額を掲げ、対GDP比2%を5年以内に達成という目標が自民党から提言として出た。日本が自国を守るためには。

岡田克也 元外相 立憲民主党常任顧問:
今回見えた台湾有事における中国の対応パターンも念頭に、防衛力をどう高めていくか。ただしそれは数字ありきではない。宇宙やサイバー、武器弾薬の在庫も対応は必要だが、もっと予算を削ることができる部分も当然ある。

宮家邦彦 内閣官房参与 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹:
数字ありきではないが、「これを削ってこれを」というスクラップアンドビルドの考えならばそれは違う。日本は弾薬から邦人救出のための能力等、全て足りない。

岡田克也 元外相 立憲民主党常任顧問:
中国も高齢化が進み、経済成長がいつまでも続くわけではない。最悪の事態に対応できる体制をつくりながら、長い目で見ていくべき。

林外相「今回の中国の台湾対応、常態化は当然あり得る。備えを」

松山俊行キャスター:
後半のゲストは林芳正外相。日本のEEZ内への中国の弾道ミサイル落下に、森次官が孔大使に電話で抗議。電話でという方式をとったのはなぜか。

林芳正 外相:
今回は非常に事態が切迫しており、より早い方法を選択した。まずはすぐに抗議をすること、日中外相会談のキャンセルに対してすぐに「こういうときこそ対話が大事」と伝えること。

松山俊行キャスター:
会議の途中、林大臣のスピーチの途中に中国の王毅外相が退席した。ロシアのラブロフ外相と会談していたという話もある。非常に非礼な感じがするが。

林芳正 外相:
自分の発言中で気がつかなかった。いずれにせよ、今回ペロシ議長は平和的に訪台した。対して演習という軍事的行為は均衡のとれたこととは言えない、と広くいろんな国に共有されていると思う。

松山俊行キャスター:
中国の台湾をめぐる問題へのこうした対応は常態化するか。中国は少しずつ常態化させる形で実効支配を進めていくとよく言われるが、台湾をめぐっても行われるか。

林芳正 外相:
向こうの意図についてこちら側から言うのは難しいが、我々としては当然あり得るものとして備えておく。防衛省も含めた政府全体で考えなければいけない。国会でもやりとりになっているが、難しいのは「こういう事態を想定している」と公になってしまうため、全て公開の場でやる性格のものではないこと。

林芳正 外相
林芳正 外相

松山俊行キャスター:
防衛費の増額や対GDP比2%を5年以内にという議論に加え、対中国を念頭に、例えば国家安全保障戦略や防衛3文書も書き換えていくべきか。

林芳正 外相:
情勢が緊迫化していることは事実。緊張感を持ち肝に銘じて、年末までに3文書の改定も。

サハリン2を巡る対露関係 安全保障と経済のバランスが必要に

新美有加キャスター:
ロシアに対する、LNG(液化天然ガス)を生産するサハリン2の権益をめぐる懸案について。プーチン大統領がこの事業を新たな運営会社に移すという大統領令に署名し、8月2日にはロシア政府が新会社の設立を決定。日露両政府が水面下で交渉し折り合いがついての発表か。

林芳正 外相:
議論していることは事実だが、折り合いがついて話がまとまったとはなかなか言えない。

松山俊行キャスター:
この権益を逃してしまえば恐らく中国に奪われてしまうことになり、対露制裁としても無意味という議論が経済産業省などから出ている。

林芳正 外相:
特に萩生田前大臣が一生懸命主張され、ずいぶん理解が進んできたのでは。

宮家邦彦 内閣官房参与 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹:
ロシアへのエネルギー依存がどれだけ許されるかを考えなければ。みすみす権益を失う必要はないが、政治的なコストを払ってでも権益を守るのか。安全保障上のロジックと経済のロジック、バランスをとらなければいけないときが来る。

松山俊行キャスター:
G7各国の中には、実はロシア現地法人とはお金のやりとりをできるという、抜け道的なルートを確保して制裁している国があるという話も。抜け道の足並みも揃えてほしいという日本企業からの声もあるようだが。

林芳正 外相:
G7で普遍的な価値は共有しているが、状況が全て一緒ではない。各国の状況に応じて例外を作っていくのは、G7の中でも当然のこと。整合性をとる努力は惜しまずやっていかなければならない。

日韓連携は北朝鮮問題を考えても大事。慎重に緊密な意思疎通を

新美有加キャスター:
いわゆる徴用工問題をめぐり、韓国で日本企業が保有する資産の現金化が目下最大の懸案。カンボジアでの外相会談では、徴用工問題について韓国側から具体的な言及はあったか。

林芳正 外相:
8月4日にカンボジアで朴振(パク・チン)外交部長官と会談を行った。7月訪日時にも、現金化が行われる前に望ましい解決策が出るよう努力する旨が述べられた。今回はそのフォローアップとして、懸案課題の協議を加速することで一致した。北朝鮮問題を考えても連携は大事。健全な形に戻すよう緊密に意思疎通をしていければ。

宮家邦彦 内閣官房参与 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹:
ワシントンに行くと、日韓関係はどうなっているのかと聞かれる。日本が消極的なんじゃないかと言う人はいる。我々は消極的なのではなく二度とゴールポストを動かされたくない、最終的かつ不可逆的とまで言ったのに、そうではなかったということだけは避けたいと言うと、みんな黙る。その意味では、林さんが今非常に慎重にやっておられるのはいいと思う。

松山俊行キャスター:
尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権の支持率が低下。かつての李明博(イ・ミョンバク)政権のように突然、竹島に行くなど反日的な行動をとる可能性は。

宮家邦彦 内閣官房参与 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹:
就任したばかりの相手国の大統領の支持率について言うのは早いと思う。彼には5年の任期があり、よほどのことがなければレームダックになるのは数年後。国内の選挙で与党が安定多数を取り、大統領が考える法律を作っていける状況になるかというところまでは見なければ。

BSフジLIVE「プライムニュース」8月9日放送