中間選挙の候補者選びで民主党が、対立する共和党の、それも最も忌み嫌うトランプ支持の候補者のために5500万円余を投じて応援のテレビCMを流すという前代未聞の出来事があった。
ミシガン州では2日共和党の予備選が行われたが、下院第三選挙区で現職のピーター・マイヤー議員が新人のジョン・ギブス氏に敗れるという番狂わせがあった。
この記事の画像(3枚)実はマイヤー議員は共和党でも反トランプ派として知られ、昨年1月下院で当時のトランプ大統領に対する弾劾が計られた際に賛成に回った10人の反乱議員の1人だった。
そこでトランプ前大統領はマイヤー議員への報復に、トランプ政権で住宅都市開発次官補を務めたギブス氏を「刺客」として送り込み積極的に応援をしていた。
ところが、選挙戦後半になってこんな選挙CMが大量に地元のテレビで流れ出した。
「ジョン・ギブスは西ミシガンにとっては保守的すぎる」
「トランプに推薦されて下院に出馬した」
「ギブスはトランプを偉大な大統領と呼ぶ」
「トランプ政権の側近でその政策はトランプ同様保守的だ」
「移民を弾圧、愛国教育を支援する」
「ギブスの政策は西ミシガンにとっては保守的すぎるのだ」
そして最後にこういうコメントと字幕が入る。
「このCMについてはDCCCが責任を負う」
DCCCというのは「民主党下院選挙対策委員会」のことで、ワシントンから中間選挙の戦略や選挙資金の支援などを行なっている組織で、問題のCMの内容からもトランプが支援するギブス氏を追い落とすためのものかと考えられた。
ところがこれに対して対立候補のマイヤー議員がクレームをつけた。このCMはマイヤー議員の再選を阻止するための不当な干渉だというのだ。CMは一見ギブス氏の政治姿勢を批判しているように見えるが、共和党内のトランプ支持の有権者を煽ってマイヤー議員から離反させることを狙ったものに他ならないという。
NBCニュースのウェブサイトは、DCCCは中間選挙の本選では現職のマイヤー議員と戦うのは不利なので新人のギブス氏を応援したもので、そのために42万5000ドル(約5525万円)を投じたと伝えている。
このCM作戦が功を奏してか、2日行われた共和党の予備選でギブス氏は54065票(51.8%)でマイヤー議員50211票(48.2%)に勝利し、11月8日の中間選挙で共和党の候補者として立候補することになった。
「敵の敵は味方」という比喩を実行したわけだが、その「味方」はすぐに新たな「敵」になるわけだ。果たしてギブス氏が思惑通り「御しやすい新人候補者」のままでいるのかどうか、逆にCMがはミシガン州第3選挙区の保守派の掘り起こしに貢献したことも考えらるので、CNNは「民主党は非常に危険な賭けに出た」と評している。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】