コロナ禍で業績が落ち込んでいる企業もあるだろうが、そんな逆境をチャンスに変えようと異業種にチャレンジしているところもある。

それが、電子部品の製造業「テクノシンセイ」(兵庫・明石市)。創業は1955年と古く、長きにわたってプリント基板の製造を手掛けてきたが、コロナ禍で厳しい状況が続いているという。

そうした中、2021年6月に始めたのが「発芽ニンニク」の栽培。部品の製造施設に生まれた空きスペースを活用し、簡易的な農業に取り組んだのだ。

発芽ニンニク栽培の様子(提供:テクノシンセイ)
発芽ニンニク栽培の様子(提供:テクノシンセイ)
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この発芽ニンニクは1週間程度で収穫でき、地元のスーパーや産直市場に卸して販売。2022年8月時点では、週に1000袋(1袋10個入り。価格は250円~300円ほど)程度を出荷し、週の売上は20万円ほどになるという。ここから諸費用が差し引かれるが、貴重な副収入になっている。

商品化した発芽にんにく(提供:テクノシンセイ)
商品化した発芽にんにく(提供:テクノシンセイ)

さらに、本格的な農業にも挑戦。製造施設の一つ、第三工場の一角を「テクノファーム」と名付けて屋外型のモデル農園を作り、従業員たちと農作物の水耕栽培にも取り組んでいるという。

コロナ禍で受注が先送り…雇用確保の一助になればと決意

テクノシンセイの従業員は100人ほど。企業規模からすると勇気のいる決断だったはずだ。コロナ禍でなぜ農業に挑戦したのだろう。代表取締役社長の木村健一さんにお話を伺った。

――コロナ禍で主力事業はどんな影響を受けた?

プリント基板は電子機器の製造に欠かせませんが、コロナ禍の半導体不足で、部品の受注が先送りとなっています。部品が集まらない、納期が定まらない状況です。そうした中で、新規事業の必要性を感じ、雇用確保の一助になればと発芽ニンニクの栽培を始めました。

プリント基板(テクノシンセイのウェブサイトより)
プリント基板(テクノシンセイのウェブサイトより)

――発芽ニンニクの栽培に注目したのはどうして?

たまたま、私が大阪の道の駅で食べたことがきっかけです。ニンニクは「料理に使うもの」というイメージがありましたが、丸ごと食べられて栄養価も高いことに驚きました。持ち帰って従業員にも食べてもらい、感想を聞いてこれなら栽培と販売ができるのではと思いました。大きな設備投資をしなくても、事業として始められることも魅力でした。
 

――実際の栽培方法を教えて。苦労したところは?

第三工場の倉庫の一角に30平方メートルの栽培専用の部屋を作り、ニンニクを一片ずつ切り離し、薄皮までむき、一個ずつ専用パレットにて水耕栽培しています。ニンニクの状態によって芽や根が出るまでの、日数が違うので苦労はしましたが、従業員たちと室温の管理や水の管理にて調整しています。1週間程度で収穫できます。

ニンニクごとに成長が異なるという(提供:テクノシンセイ)
ニンニクごとに成長が異なるという(提供:テクノシンセイ)

――販売評判や売れ行きはどう?

スーパーなどでの試食では好評を得ています。ただ、卸先がまだ限られているため、飲食店や居酒屋などにも展開できるように営業をしています。今後の販促にかかっています。作ったものを捨てることがないよう、注文数に基づいて栽培をしています。

モデル農園は従業員の福利厚生にも

――モデル農園はどのようなもの?どんなものを育てている?

モデル農園では水耕栽培のキットで野菜や果物を育てています。広さは90センチ×180センチの区画が5つほど並んであります。栽培の仕組みは簡単で、栽培層(タンク)に水を張り、穴の空いた発泡スチロールにハイドロボール(人工土)入りの栽培ポットを入れ、水の中に液肥と酸素を供給します。スペースに限りがありますが、キュウリやナス、メロンなどさまざまな作物を栽培しています。

テクノシンセイのモデル農園(提供:テクノシンセイ)
テクノシンセイのモデル農園(提供:テクノシンセイ)

――この農園はどんなことを目的としているの?

当社では、水耕栽培キットの販売、栽培層の設置、肥料の自動供給装置工事を含むシステムの販売やフォローも担っていきたいと考えております。一つはそうしたことを顧客にプレゼンするためです。また数多くの作物を育てて研究することで、将来的な事業化にもつながればと思っています。

この農園の収穫物は福利厚生として、従業員に無料配布しています。意図したことではありませんが「美味しかった」などと、従業員同士のコミュニケーションにもつながっているようです。

収穫物は従業員に無料配布している(提供:テクノシンセイ)
収穫物は従業員に無料配布している(提供:テクノシンセイ)

――今後は電子部品の製造と農業どちらも取り組んでいくの?

はい。主軸の事業は電子部品の製造ですが、付加価値の高い作物を生産できればと考えています。また栽培だけではなく、栽培のシステムを普及させることで次世代の農業経営を模索していきたいですね。

 

テクノシンセイは本業に加えて、農業という可能性も見いだしつつあるようだ。コロナ禍で厳しい状況だからこそ、新しいことに挑戦する精神が求められるのかもしれない。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。