神経質で、飼育や繁殖も難しいと言われるカマイルカ。その出産に密着した。

初産の成功率10% ベテラン飼育員も不安

メスのカマイルカのコンビ、サンゴ(22歳)とヒカリ(17歳)は、福岡市の水族館「マリンワールド海の中道」の人気者。背びれがカマのように見えることが名前の由来と言われている。

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獣医師:
おお!

トレーナー:
見えた?

獣医師:
いますね!心臓まではまだ見えないですけど、ちゃんとへその緒と胎児が見える

2021年、嬉しい出来事に水族館が湧いた。9月にサンゴ、11月にヒカリの妊娠を確認。マリンワールドとしては初めてとなるカマイルカのW妊娠だった。

現場の指揮をとるのは木下克利さん。マリンワールドのイルカ担当歴20年を越えるベテラン飼育員だ。そんな木下さんでも、カマイルカの出産に不安は隠せない。

マリンワールド飼育員・木下克利さん:
日本の水族館の中でも、バンドウイルカと比べると圧倒的に出産例が少ない。そういったところで不安ですね。休ませてるんですけど「もう遊びたい」ってバチャバチャお腹をぶつけたりする(苦笑)

カマイルカの妊娠期間は約1年間。神経質で飼育や繁殖も難しいと言われている。国内施設でのカマイルカの出産はこれまでに52例で、子どもが1歳以上に成長したのは僅か22例にとどまる。さらに初産の場合、その成功率は10%ほどと言われ、非常に難しい出産なのだ。

マリンワールド飼育員・木下克利さん:
初産になるのと、マリンワールドでもカマイルカの出産は初めてになります。生残率を考えていくと、ここでも毎年1~2頭ぐらい増やしていくようなかたちをとっていかないといけない

人工ミルクの調理、遊泳スピードの訓練重ね

ショーの合間の時間に行われていたのは、万が一に備えての人工ミルクの調理訓練。

マリンワールド飼育員・木下克利さん:
本日のレシピは動物用ミルクです。海外産で、日本では手に入りません

さらに、遊泳スピードの訓練で使う模型の制作も。

スタッフ:
子イルカに見立てた模型を作ります

マリンワールド飼育員・木下克利さん:
ちょっとイルカの形にならなかったんじゃないの?

スタッフ:
突起物が多いと壊れやすいので、シンプルイズベストです

水槽ではイルカも準備に励む。

マリンワールド飼育員・木下克利さん:
子どもが追走しながらミルクを飲む。それを模擬トレーニングしておくことによって、子どもが生殖口の近くに来ても嫌がらなくなる

生まれたばかりの赤ちゃんイルカは、母イルカからきちんとミルクを飲めるかが生存率の大きな鍵を握る。子どものゆっくりと泳ぐペースに合わせて、母イルカも泳げるようにトレーニングを重ねる。

出産開始から2時間後、頭が引っかかり…

万全の体制を整えつつ臨月を迎えた5月17日。その日は突然やってきた。

マリンワールド飼育員・木下克利さん:
突然でした!突然、尾びれが出たということで、全然予想外で

スタッフ総出で見守る中、陣痛に苦しみながらサンゴも懸命に力む。

スタッフ:
来そう、出そう…頑張れ、頑張れ!めっちゃいきんでる!もう出そうよ!頑張れ!

出産が始まって2時間になろうとした、その時。

マリンワールド飼育員・木下克利さん:
出た!血が出た

獣医師:
あっ、引っかかってる!

スタッフ:
出て!出て!出て!

獣医師:
頭だけ詰まってる!

マリンワールド飼育員・木下克利さん:
何で頭だけ引っかかる!

スタッフ:
やばい、やばい!

獣医師:
子どもが呼吸できてないから、なるべく早く出さないと

人の手が加わると、育児放棄や今後の子育てに影響が出る可能性があり、スタッフは見守ることしかできない。祈るような時間が続く。

木下さんが決断し、どこかに電話を掛けた。

マリンワールド飼育員・木下克利さん:
頭が引っかかって出てこない。介入しようかと思ってます

スタッフが出産に介入した。

マリンワールド飼育員・木下克利さん:
泳ぎよる?呼吸しよる?

スタッフ:
してないです…

どうにか命を繋いで欲しい…。スタッフたちが心臓マッサージを施し、懸命な蘇生を行う。

しかし…。

マリンワールド飼育員・木下克利さん:
午後2時7分、死亡です

言葉が出ないスタッフたち。サンゴの赤ちゃんが息を吹き返すことはなかった。

次の命に向けて「頑張るしかない」

マリンワールド飼育員・木下克利さん:
原因ははっきりわかりませんけど、へその緒が切れたあとに頭が引っかかってしまったので、そこで時間がかかったのがダメだったのではないかと思う。ああいった状態になった時に、すぐにどうするのかという判断ですよね。そこが一番重要だった

3週間ほどのち、再びマリンワールドを訪れると、元気に泳ぐサンゴの姿があった。出産後の体調が心配されたが経過は良好。

スタッフたちは次に控えるヒカリの出産に向けて、すでに前を向いて取り組んでいた。

マリンワールド飼育員・木下克利さん:
暗い感じもあったが、みんなも次に繋げていくしかないと。くよくよしても仕方ない、次の命に向けて頑張っていくしかない

(テレビ西日本)

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