地域の拠り所となっていた「お寺」が、時代と共に様変わりしている。歴史と伝統を守るために、あえて革新的な取り組みを導入している寺を取材した。
400年以上の歴史…地域に親しまれた寺にも変化の波が
広島市の中心部、原爆ドームを望む場所に位置する中区十日市町。爆心地から約550ｍに位置する本覚寺（日蓮宗）は、400年以上の歴史を持つ。被爆に耐えた貴重な石造物が数多く残り、そんな鳥居や狛犬に囲まれるように祀られているのが、本覚寺の守護神『妙見大菩薩』だ。
北斗七星を神格化した仏教の守り神で、鋭い眼力で善悪や心を見通すとされる、開運の神様。運を開いてくれる『みょうけんさん』として、地元の人々に親しまれてきた。
本覚寺は1590年、現在の安芸高田市に創建された。1600年、毛利輝元による広島城築城に伴い、今の場所へ移された。
本覚寺の長い歴史を守っている34代目の住職・渡部公友さんは、時代の流れとともに変化を感じている。
本覚寺住職・渡部公友さん：
少子高齢化といった時代の流れもあって、檀家数や法事が減少している。お葬儀も家族葬といったカタチが増えているのと同じように、今はお参りに来る方もかなり少ない
生活様式の多様化によって檀家の減少や法要の簡略化が進み、寺の運営は全国的にも厳しいものとなっている。このような状況の中、渡部住職はもっと気軽に寺に訪れてもらおうと、様々な取り組みを行ってきた。
宿泊体験、仏教塾に婚活パーティー…気軽に立ち寄れる場に
例えば夏休み中は、子どもたちが1泊2日を寺で過ごす宿泊体験が行われた。寺でお経をあげたり、おつとめをするだけでなく、平和公園などの施設にフィールドワークに行ったり、夜は花火をしたりする。
本覚寺住職・渡部公友さん：
子どもたちは普段お寺に泊まる事なんて無いので、特殊な空間かもしれないが、楽しそうに過ごしてくれている
他にも、仏教に関する座談会「仏教塾」や縁結びの「婚活パーティー」、「ヨガ教室」など様々なイベントを開催してきた。
温かいご飯をみんなで...大好評の子ども食堂にもコロナの影
本覚寺住職・渡部公友さん：
今の時代、食事というものが疎かになってたり、ご両親が仕事に出ていてお子さんが一人で食事をする「孤食」が増えている。お友達同士でも気軽においでという思いで「子ども食堂」を始めた
時代と共に参拝者が減っていく中、温かい食事を求めて毎回たくさんの子どもが集まったという。
本覚寺住職・渡部公友さん：
お寺に来るというだけで、心を清める事にも繋がり、そこで手を合わせるという事が心の豊かさにも繋がってくると思っている。まずはお寺に来てもらえることを目標にいろんなイベントや行事を行っている
古来より地域の人に親しまれてきたこの寺を未来永劫守り続けるために、渡部住職は、様々なアイデアで人々を呼び込んできた。
しかし、コロナ禍で、その体制にも変化が起きていた。子ども食堂は、持ち帰りのできるお弁当に切り替えるなど、大勢が集まる行事は全て中止せざるを得ない状況に。
本覚寺住職・渡部公友さん：
法事は激減、檀家さんのお宅に毎月1回おつとめに行く月参りも中止…。時代の流れでお寺の維持運営というのは厳しくなると言われていたが、さらにダメ押しされたというか…早くコロナが終わればいいなと思う
諦めない住職の次のチャレンジは…寺にハンバーガー!?
暗いニュースが多いこのご時世だからこそ、開運の守護神を祀る本覚寺に気軽に訪れてもらいたい…。そこで、渡部住職が新たに導入したのが…
本覚寺住職・渡部公友さん：
2022年1月31日から、お寺の境内にハンバーガーの自動販売機を設置した。理由はいろいろあるが、コロナで非常に世の中が暗くなっていて、お寺もちょっと寂しくなっているので、なんか面白いんじゃないかな、楽しいんじゃないかなと思って設置を決めた
地域に明るい話題を提供したいと、遠路はるばる長野県から取り寄せたハンバーガーの自動販売機だ。
商品には、お寺らしくおみくじまで付いている。
本覚寺住職・渡部公友さん：
普通におみくじを引くだけで100円ほどかかる。我々としては楽しんでもらうという意味で、ハンバーガーにおみくじを付けている
他には無い、おみくじ付きのハンバーガー。導入後すぐに話題となり、多い時には1日100個を売り切る人気のスポットになった。売上げの一部は、寺が運営するこども食堂の運営資金として活用されている。
在庫管理など、全ての業務を自らこなす住職。自販機の設置が好評でも、至って冷静な受け止めだ。
本覚寺住職・渡部公友さん：
ハンバーガー自動販売機だけでお寺が賑やかになるとは思わない。このハンバーガー自動販売機によってこども食堂に対する意識が広まり、お寺に興味を持った方が、気軽に立ち寄れる場所になればいいと思う
（テレビ新広島）
