長野市信州新町の名物・ジンギスカン。地域で最も多くの羊を抱えていた生産者が、新型コロナウイルスの影響などで引退を検討。そこで名物を絶やすまいと、ジンギスカンを提供する「旅館」が飼育に乗り出した。
深い味わいの名物料理
香ばしく焼き上がった、ジンギスカン。
客:
本当においしいですね
長野市信州新町の旅館「さぎり荘」。日帰り入浴もできる温泉と共に人気なのが、レストランで提供される地元産サフォーク種の肉だ。タレに漬け込んだジンギスカンのほか、塩で食べるシンプルな焼き肉も評判だ。
客:
肉のうま味がギューッと出てくるので、絶対食べてほしい
客:
全くくさみがないし、衝撃的です。正直言ってびっくり
ジンギスカンと言えば信州新町。店が立ち並ぶ国道19号線は「ジンギスカン街道」とも呼ばれている。
しかし、コロナ禍の影響は店を支える生産者にも…
黒い顔と手足が特徴のサフォーク種。肉はクセが少なく、深い味わいで、流通量が少ない国産は高級品だ。
大規模生産者が引退検討…新型コロナも影響
峯村元造さん:
はい、ゆっくり食べて
生産者の一人、峯村元造さん(57)。
峯村元造さん:
人間に声をかけるのと同じ。健康でいてもらえると、こちらも手がかからずに済む。おいしいお肉になってくれる
地域の生産者は6軒ほど。峯村さんが最も多く飼育してきた。しかし…
峯村元造さん:
羊をやめようかどうしようか、というところ
コロナ禍で飲食店などが打撃を受け、羊の売り上げも例年の半分近くまで減少。さらにエサ代の高騰や高齢の親の世話も重なり、峯村さんは引退を考え始めた。
峯村元造さん:
やめられると困るということで、引き留めを受けているところ。支援してくださった皆さんを考えると、つらいものがある
名物を守るため…「さぎり荘」が羊飼育
そこで立ち上がったのが、冒頭で紹介した旅館のさぎり荘だ。
さぎり荘・小山宙軌所長:
ここの羊は、全てさぎり荘の羊になります
2021年9月、仕入れ先だった峯村さんから約50頭の提供を受け、飼育を始めたのだ。さぎり荘も新型コロナの影響で、売り上げは以前の半分ほど。厳しい状況が続いているが、名物を守るための決断だった。
さぎり荘・小山宙軌所長:
これだけ続いてきたジンギスカン・羊の文化は、新型コロナに負けてなくすわけにはいかない。これからなんとかしていく、続けていくのは自分たちしかいない
現在、飼育する羊は約160頭。飼育スタッフ3人を新たに採用した。羊の世話はまだ手探り状態。夏を前に連日、毛刈りに追われているが…
飼育スタッフ:
きょう3回目ですけど、一番上手にできている
さぎり荘・小山宙軌所長:
やりながら覚えていくしかない
一方、レストランはサフォークを売りにしようと新メニューを考案。こちらは、3月から提供を始めた「盛り合わせ定食」だ。(毎日10食限定)
アナウンサー:
これは、おいしいの一言ですね。程よい弾力がお肉にあって、肉汁とともに肉のうま味と甘みが出てきます
生産から提供まで一貫してできることを強みに、将来的にはもっとメニューを充実させたい考えだ。
さぎり荘・小山宙軌所長:
多くの人に「あの信州サフォークって、本当においしいんだよね」って、知ってもらいたい。それだけの価値があるものだと思っています
引退を考えていた峯村さん。当面、さぎり荘のスタッフをサポートすることにした。
峯村元造さん:
もう1、2年軌道に乗って、歯車が回りだすまでが大変。まだ心配
さぎり荘・小山宙軌所長:
峯村さんの羊の味というのは、本当に評価されてきたので、それを引き継いでいくプレッシャーも感じますけど、絶対に守っていきたいなと思います
ジンギスカンの街・信州新町。名物を守るチャレンジが続いている。
(長野放送)