ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始してから2カ月あまりが過ぎた。ウクライナ国内に残る市民たちは、頭上から砲弾が落ちてくる生活を今も続けている。町をロシア軍に占領され、銃撃を受けたという女性に話を聞いた。

ロシア軍に占領された町から避難したオレナさん(左)とユリアさん(右)
ロシア軍に占領された町から避難したオレナさん(左)とユリアさん(右)
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携帯が見つかれば殺される…占領された町の実態

オレナさん(45)とユリアさん(47)の2人は親戚同士で、ポーランド・サチンの果樹園にある季節労働者向けの宿舎に身を寄せていた。ベッドが3台並んだ簡素な部屋に、10代の3人の子供たちと寝泊りしていた。

2人が住んでいたのは、原発が砲撃を受けたザポリージャとロシアが制圧を宣言したマリウポリの間にあるポロヒだ。人口2万人ほどの小さな町で、オレナさんは建築業に従事、ユリアさんは郵便局で働いていた。しかし、3月2日に町をロシア軍に占領され、生活は一変した。

――占領された時の様子を教えてください。

オレナさん:
防衛部隊の少年たちが、装甲車に乗って叫んだんです。「隠れて!奴らが町を壊しに来る」って。重装備のロシア軍に比べて、防衛部隊は手りゅう弾と機関銃しかなかったけど、それでも8時間持ちこたえてくれました。

ユリアさん:
でも、その後は誰も何もできませんでした。

オレナさん:
ロシア軍が防衛部隊を一掃したんです。

ロシア軍に占領された町・ポロヒ
ロシア軍に占領された町・ポロヒ

ユリアさん:
占領されてからは、みんなお腹を空かせてただじっとしていました。ロシア軍は好き勝手するんです。彼らは市民の家に居座って、まるでその家の主人のように振舞っていました。

ロシア軍がどんなに傍若無人に振舞おうが、ポロヒに助けが来ることは無かった。多くの女性が行方不明になったという話もあったそうだ。娘たちが性的暴行を受けるかもしれない――そんな恐怖とも戦いながら、彼女たちは2週間、電気のない中ただじっとしているしかなかった。

――当時の写真や動画はありますか?

オレナさん:
ありません。携帯が見つかったらダメなんです。撮影しているところを見つかったら殺されるかもしれません。彼らはそこで何が起きているのか他の人に見せたくないのです。

実際に、携帯電話をめぐりオレナさんと娘は銃撃を受けたという。ロシア軍が町を占領してから1週間が経った頃、彼女たちは近所のガソリンスタンドに向かった。そこにある発電機で、携帯電話を充電するためだ。同じように近所の人たちも集まっていたそうだ。

オレナさん:
突然、ロシア軍がやってきて、みんな地面に伏せました。彼らは、ガソリンスタンドを取り囲んで、一斉に撃ってきたんです。私の娘は、恐怖で震えていました。

銃撃を受けたオレナさんと娘
銃撃を受けたオレナさんと娘

オレナさんの娘は12歳。耳をかすめる銃弾の音は恐ろしかっただろう。命は助かったものの、さらにその翌日も自宅の近くで砲撃があったという。

オレナさん:
近くのアパートが砲撃されて、家が揺れたんです。衝撃で膝から崩れ落ちました。

気が付いたら足が…15歳少女も犠牲に

別の避難者からもポロヒでの惨状について話を聞くことが出来た。町の幼稚園で教員として働いていた女性だ。卒園生が砲撃に巻き込まれたという。

「教え子の足が無くなった」と話すポロヒから避難した幼稚園教員
「教え子の足が無くなった」と話すポロヒから避難した幼稚園教員

幼稚園の教員:
卒園生のマーシャは足を失いました。彼女の母親も。彼女たちが幼稚園の近くを歩いていた時、砲弾が落ちてきたんです。母親は「気付いたらもう足がなくて、マーシャが大きな声で叫んでた」と言っていました。マーシャも砲弾の破片をたくさん浴びて、足を切断せざるを得ませんでした。

砲弾は15歳の少女にも容赦なく降りかかる。

足を失ったマーシャさん(15)(ザポリージャ地域国家管理局副局長のSNSより)
足を失ったマーシャさん(15)(ザポリージャ地域国家管理局副局長のSNSより)

命がけの避難

オレナさんとユリアさんは、自宅のすぐそばのアパートが砲撃されたことを受け、避難を決めたという。子供たちが「どうしても逃げたい」と話したためだ。

――逃げた時の状況を教えて下さい。

オレナさん:
3月12日、必要な物を最低限と現金をかき集められるだけかき集めて家を出ました。2.5キロ歩いたところで、偶然、避難者の車の隊列が通りかかって、ある男の人が私たちを車で拾ってくれました。彼はザポリージャに向かっていて、ウクライナ軍に入隊するつもりだと言っていました。普通のサイズの車だったんですが、7人が乗り込みました。

ロシア軍に占領された町・ポロヒ
ロシア軍に占領された町・ポロヒ

行く当ては無かったが、とりあえず国外に避難するため、ザポリージャの駅を目指した。しかし、避難は一筋縄ではいかなかったという。

オレナさん:
途中で銃撃を受けたんです。突然、ウクライナ兵に車列を止められて、「これから砲撃がある」と、私たちを全員、道路沿いの店の後ろに隠してくれました。そうしたら、本当にロケット弾が飛んできました。正確にはロケット弾かは分からないのですが、何か大きな音がして爆発したんです。なぜ狙われたのかは分かりません。ただただ、私たちは建物の後ろに隠れていました。

彼女たちは、なんとかその場を無事にやり過ごし、銃撃に遭い乗り捨てられた車を横目に先へと進んだ。すると、ロシア軍による検問が待ち構えていた。

ウクライナ国内のロシア軍
ウクライナ国内のロシア軍

オレナさん:
私たちは車からは降りませんでしたが、ロシア人は私たちをじっと見てきました。1人が、笑いながら「何人乗りなんだ?快適かい?」と聞いてきたんです。7人いるから、お互いの膝の上に座っている状態だったんですよ。でも、「快適です」と答えるしかできません。何をされるか分からなかったですし、震える手を隠せませんでした。ロシア兵は、車の中を全部検査して、大人の男性がいないかどうか、確認してきました。

ユリアさん:
検問所では、たくさんの人が行方不明になっています。ある列は普通に通ることが出来るけど、別の列は全く進みませんでした。

2人の話によると、検問所を通る前は車列にいた車が、検問後に姿を消していたそうだ。通過において何が決め手となったのかは分からないが、彼女たちは「白い腕章」を付けていたという。占領された地域の住民が着用を求められる、“親ロシア”を意味するものだ。

ポーランド・ワルシャワ中央駅
ポーランド・ワルシャワ中央駅

彼女たちは駅に着くまでの間に、このような検問を3回受けた。そして翌朝、ザポリージャの駅から列車に乗り、スロバキア、チェコ、ハンガリーを経由して、3日半かけてポーランドにたどり着いたそうだ。

町にとどまる“砲撃に慣れた”家族

オレナさんたちは、死と隣り合わせの生活からなんとか逃げ出すことができた。しかし、妹家族や母親たちは、今もポロヒに留まっているという。小さい子供や高齢者にとっては、長時間に及ぶ避難は負担が大きい。さらに、生まれ故郷を離れる決断は簡単ではないそうだ。

ロシア軍占領の町に今も親戚がいるオレナさん(左)とユリアさん(右)
ロシア軍占領の町に今も親戚がいるオレナさん(左)とユリアさん(右)

オレナさん:
年寄りは避難したがりません。「私たちはここで生まれ、ここで死ぬんだ」と言うんです。それに、目的地もなく避難するのは大変だから。

――今は、親戚と連絡は取れていますか?

オレナさん:
14日経って、突然電波が繋がるようになったのですが、携帯電話の基地局が撃たれて、また繋がらなくなりました。でも、2日後には復旧されて、また繋がるようになりました。

とりあえず、安否は確認できる状況にはあるという。親戚に聞いた話では、町の電力供給は回復したものの、物価が急激に上がり苦労しているそうだ。

ユリアさん:
キャベツ1玉が200フリヴニャ(約860円)なんですって。想像してみて下さい。

オレナさん:
しかも、みんな銀行から現金を引き出せないんですよ。砲撃でATMが壊れてるから。

さらに、物価の上昇といった混乱だけでなく、町では相変わらず砲撃が続いているという。

ロシア軍に占領された町・ポロヒ
ロシア軍に占領された町・ポロヒ

オレナさん:
母親や妹たちは「今は生きているけどその先は知らない。寝たらその後何が起こるか分からない」と言うんです。

ユリアさん:
そんな状況に、親戚は「慣れた」と言っていました。爆弾が自分たちの上に落ちてくることに。一日中砲撃を受けていて、それが当たり前になってきてしまっているんです。ロシア軍は、私たちの町を、いとも簡単にこの地球上から消し去ることが出来てしまうんですよ。

「とにかく避難してほしい」。そう思っても、逃げることが簡単ではないことは、オレナさんたち自身が身を持って知っている。破壊されていくふるさとに親戚が今も住み続けている状況に、彼女たちの不安は察するに余りある。

「プーチンをずたずたに引き裂きたい」

これまで感情をあまり見せずに淡々と語ってくれた2人だが、軍事侵攻を決めたロシアのプーチン大統領への思いを聞くと、怒りがあふれ出した。

「プーチンをずたずたに引き裂いてやりたい」と話すユリアさん(右)
「プーチンをずたずたに引き裂いてやりたい」と話すユリアさん(右)

――この状況についてどう感じますか?プーチン大統領に伝えたいことはありますか?

ユリアさん:
あの人は……人ですらない、なんて呼んでいいのかも分からない。彼は安全な場所で生きていて何の危険もない。なぜロシアの若い連中が彼のために戦っているのか、全く理解できません。プーチンをはりつけの刑にするだけでは足りません。今すぐ拷問にかけて、ずだずたに引き裂いてやりたい。

町を占領されたオレナさん「何のために死ななければいけないのか」
町を占領されたオレナさん「何のために死ななければいけないのか」

オレナさん:
ウクライナの人が彼にどんな悪いことをしたって言うんでしょう。ウクライナからプーチンの軍隊を連れて出て行って欲しい!子供も大人も、何のために死ななければいけないんですか?まったく理解ができません。

彼女たちが絶え入るような声で言った「ただ生きたいだけなんです」という言葉が、いまも頭から離れない。

【執筆:FNNパリ支局 森元愛】

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