立憲民主党への逆風が止まらない。共産党との関係をめぐり離れていく支持団体。低空飛行を続ける支持率。そこに「新たな“暴走老人”」との声も党内からあがる菅直人元首相による「ヒトラー投稿」騒動も。夏の参院選では「与党の改選過半数阻止」を目標に掲げる立憲だが、泉健太代表の悩みは深い。
“菅直人切り”の助言に苦笑い
「健太が菅直人さんを切るしかない。会見で『最高顧問にふさわしくない発言』と言えばいい」「できませんよ、そんなこと」
旧民主党の元議員からの助言に、泉代表は苦笑いするしかなかった。
この記事の画像(7枚)泉代表は、菅直人元首相による「ヒトラー投稿」の対応に苦慮している。党最高顧問の菅氏は、自身のツイッターに日本維新の会や創設者の橋下徹氏について、「ヒトラーを思い起こす」などと投稿。反発した維新側は、「誹謗中傷を超えた侮辱だ」として、立憲の党本部や菅元首相の事務所を訪れ、直接抗議。しかし、菅氏は「謝罪撤回に応じる必要はない」として徹底抗戦の構えだ。
参院選に向けた準備を加速する中、最高顧問による失言といえる投稿。党内からは「問題が長引けば、維新を利するだけ」「きちんと反論すべきだ」「維新のパフォーマンスに応じるべきではない」など、意見が交錯している。
立憲の議員は、「新たな“暴走老人”菅直人さんは、ああいう人だから誰にも止められない。反発を受ければヒートアップしてしまう。ヒトラーを例示したのは問題なので、泉代表がうまくなだめてほしい」と期待を込め、「党では橋下氏の『ヒトラー発言』をまとめ、反論の準備はしているが、実際に反論するかは泉代表の腹次第だ」と明かす。
しかし、泉代表ら執行部は「菅議員の個人的な発言」(逢坂誠二代表代行)として、沈黙を貫いていて、問題の収束への道筋は見えないのが現状だ。
“共産切り”宣言も連合は不満
「連携は白紙にするということは明確にさせていただく」
泉代表は1月31日、BSフジ「プライムニュース」に生出演。共産党との連携について問われ、「これまでの関係については白紙ということを、我々は宣言している」と強調。協力関係を見直す考えを示した。また「自分自身が獲得すべき票や有権者層に、ちゃんとした政策を訴えていくことを貫く」とも述べ、中道路線の支持浸透、ターゲットとしている無党派層への支持拡大を目指す意向を表明した。
この発言に対して、共産党は激しく反発している。小池晃書記局長は2日、「見過ごすことができない発言だ」と不快感を示した。小池氏は「衆院選では、立憲民主党の当時の執行部と真摯な話し合いを重ね、共通政策、政権協力の合意をもとに選挙協力を行ってきた。公党間の正式な合意であり、国民に対する公約ということになる」と指摘。「政党間の協議もしないで一方的に白紙にするという議論は成り立たない」として、参院選に向けての協議に応じるよう求めている。
立憲の今後の路線をめぐり、もう1つの不安定要素は、支持団体である労働組合だ。労組の中央組織「連合」の芳野友子会長は1日、「『白紙』の意味について明確にするべきではないか」と注文をつけた。共産党との連携に否定的な連合は、参院選を前に立憲との距離を置き始めている。
別の連合幹部はさらに手厳しい。「立憲は今の方が楽なんだ。追及だけしてるのは楽だから。政権を担う責任と覚悟がない。2012年に政権を奪われた時、ようやく責任から解放されたという雰囲気だったが、今もそのまま。彼らは、『立憲民主党』という党ではなく『野党』という党なんだ」と突き放す。
連合と共産党。一定の支持層と動員力を持つ両者の間で“板挟み”となっているのが、立憲の現状といえるだろう。
背後から迫る“第三勢力” 維新は福山前幹事長に“照準”
立憲と共産の関係について「もっと連携を深めてほしい」と話すのは、維新幹部だ。<自民と公明><立憲と共産>という枠組みがはっきりすれば、その間に<第三極>というスペースが明確に空き、維新の存在感を強められるとみているからだ。
維新は衆院選で、解散前の11議席から41議席へと躍進した。「野党第一党を目指す」と公言し、次に照準を合わせているのが、今夏の参院選だ。参院における現在の議席数は15(改選6、非改選9)だが、改選議席を倍増させて21議席とすることを目標に掲げている。
中でも最重点区と位置付けるのが、京都選挙区(改選定数2議席)だ。 改選の対象の議席は、自民の二之湯智・国家公安委員長(参院選不出馬・政界引退を表明)と立憲の福山哲郎・前幹事長が確保している。候補者の選定を急ぐ維新が、ターゲットに定めているのは福山氏。維新幹部は「立憲民主党の一時代を担ってきた福山前幹事長に真っ向勝負を挑んで勝ち切ることは、維新が近畿圏で乗り越えるべき一つの壁だ」と話す。
維新は、FNNの世論調査における政党支持率で立憲を上回っている。参院選で「与党の過半数阻止」を掲げる立憲だが、維新が台頭する中、選挙の結果次第では、野党内の主導権すら失いかねない。
“余裕”の政府与党にどう対抗するか
参院選に向け、政府への追及、国民へのアピールの場となり得るのが、1月から開かれている通常国会。永田町では、「野党が攻勢を強める国会開会中は内閣支持率が5ポイントから10ポイントは下がる」(自民党閣僚経験者)との“法則”もささやかれるが、下がっているのは、むしろ立憲の支持率だ。他の野党からは心配の声すらあがっている。
岸田首相との一問一答形式の質疑も行われる予算委員会については、「野党が攻めあぐねている」(自民党議員)と、与党側から余裕の発言も聞かれる。泉代表の就任に伴い「追及より提案」の路線に舵を切った立憲は、「柔軟な対応」を掲げて方針転換をいとわない岸田政権に対して、明確な対立軸を描き難いのも一因だろうが、野党勢力内、そして立憲内の不安定要因が、足かせとなっている面も否めないだろう。
衆院選の敗北からの立て直し。立憲に今、何が求められているだろうか。参院選に向けて、与党にどういった勢力を結集して対峙するのかがはっきりしないようでは、「決められない」との評から抜け出すのは難しそうだ。そして、党内に問題を抱えていると国民の目に映るのはマイナスでしかない。“苦悩”の時を迎え、泉代表を中心とした執行部の真価が問われている。
(フジテレビ政治部 野党担当)