名古屋に創業100年以上の老舗の昆布店がある。この店は、2021年11月に新たにきしめんの店をオープンさせた。一口すすれば、ほどよい甘さと昆布出汁のうまみが口の中に広がる、出汁が主役のきしめんだ。

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名古屋駅前のミッドランドスクエア地下1階にオープンした「棊子麺茶寮(きしめんさりょう)いしこん」。

女性客A:
お出汁がよく効いていておいしくて、さっぱりとした感じ

女性客B:
お出汁の味が好きで、おいしかったのでまた来ました

出店したのは、おせちにも使われる最高級の昆布を使った昆布巻などを販売する老舗の昆布店。

天然昆布と名古屋コーチンのうまみを最大限引き出す

午前9時。開店にむけての準備は、つゆのチェックから始まる。

調理の担当者:
少しの“えぐみ”までわかるように何回も試飲して。味がちゃんとしたものかを確認するように

一般的にきしめんのつゆはかつお出汁が多いが、この店の出汁のベースは昆布と鶏ガラ。こだわりの昆布のうまみで勝負をしている。

この店を始めたのは、創業100年以上の名古屋市東区の老舗昆布店「石昆(いしこん)」。昆布巻を主力商品に有名デパートなどで販売され、名古屋土産としても知られている。

全て手作りの昆布巻は、北海道産天然一等昆布を使用。ニシンなどを丁寧に巻き、4時間以上じっくりと炊き上げることで昆布のうまみを最大限に引き出している。

もう1つの看板商品が、昆布の一番出汁で炊き上げた手羽先。昆布のうまみがしっかり染み込み、ホロホロの柔らかさがたまらない。この2つの人気商品に使われてきた技が、きしめんにも惜しみなく注ぎ込まれている。

調理の担当者:
昆布と鶏肉を使って始めた出汁。(昆布は)より深みを出すために3種類使っています

天然一等昆布をはじめ、利尻昆布など北海道でも高級とされる3種類の昆布をブレンド。もう一つ得意とする鶏ガラは、名古屋コーチンを使用している。

最高級食材のうまみを引き出すために、寝かせては炊く作業を繰り返し、3日間かけて濃厚なのにさっぱりとした出汁が完成。

注文が入ると、しょうゆ味のかえしと合わせ、コクを出すための油を少し加える。麺と合わせれば、昆布と鶏のうまみが詰まった“出汁が主役”のきしめんの完成だ。

男性客A:
すごく上品でコク、うまみのあるスープできしめんに合いました

女性客C:
出汁は上品で味わい深くて、とてもおいしかった

お客さんも出汁のうまみを感じているようだ。

4代目が新たに始めた“つゆが染みこむ”きしめんの店

4代目 石川哲司社長:
色がめちゃくちゃ透き通っている。こういう時は、出汁の温度がしっかり出せている証拠

つゆをチェックするのは、この店の仕掛け人でもある石昆の4代目・石川哲司社長。

4代目 石川哲司社長:
コロナで物販、お土産の売上が落ち込みまして…。新しいことへの挑戦で始めました。できるだけ昆布のものを食べていただきたい思いから、出汁にこだわった店ということできしめん店を

石川社長は出汁を味わってもらいたいと、つゆの味が染み込みやすいきしめんを選んだ。そのため、麺にも特別なこだわりがある。

4代目 石川哲司社長:
できるだけ幅広で、できるだけ薄くしてくれと依頼しまして。出汁に一番絡むように最高のサイズで作ってもらっています

自慢の昆布と鶏のうまみを最大限に引き立てる、脇役としての麺。この出汁と麺を生み出すのに1年以上かかったという。

石川社長のチェックは厳しく、味はもちろん注ぎ方にまで目を光らせている。

4代目 石川哲司社長:
出汁がおたまギリギリになっているか確認していました。少ない量になると、出汁の味が変わってしまって使い物にならなくなるので

きしめんに季節のごはん、昆布巻、とろろ昆布がついたセット「かけきしめん」(1400円)はボリュームも満点。

きしめんは9種類から選ぶことができ、一番人気は名古屋コーチンのかしわ、とき卵と石昆の自慢の食材が全て入った「親子月見」(2400円)。ふわふわの卵が絡み、出汁がよりマイルドで上品な味わいだ。

他にも、出汁を引き立てる「かしわ」(2000円)や「九条ねぎ」(1800円)も人気(どれも季節のごはん・昆布巻・とろろ昆布付)。

出汁にこだわりすぎて…経費削減のため社長自ら店頭に立つ

この日も、ランチタイムにはたくさんのお客さんがやってきた。店頭には自ら接客する社長の姿が…。

4代目 石川哲司社長:
いい出汁を出すためにコストがすごいかかっているので…。それ以外をできるだけ抑えるために店に立っています

最高級の天然昆布を使用するなど出汁にこだわったあまりに、当初想定していた以上のコストがかかってしまった。席数も少なく、決して儲かる仕組みになっていないため、社長自らも店頭に立つことで経費を削減している。

ここまでして出汁にこだわるのには、店を知ってもらいたいという以外にも理由があった。

4代目 石川哲司社長:
昆布の消費量ってすごい減っている。出汁を取らない方が増えていて、あらためて出汁の良さを知っていただきたい。うまみ成分が強いので海外の方にも知っていただきたい

老舗昆布店が作った出汁が主役のきしめんには、出汁の文化を守りたいという思いも込められていた。

セットの「ごぼう飯」は、昆布の一番出汁で作った手羽先のタレを使って炊き上げている。またセットには、他にも昆布巻やとろろ昆布と、できるだけ昆布の味を感じてもらえるようなメニューとなっている。現在は「ころきしめん」を考案中だという。

(東海テレビ)

東海テレビ
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