大井川が流れ、茶畑が広がる自然豊かな静岡・川根本町。2005年に2つの町が合併した当初は、9000人以上の町民が暮らしていた。
しかし、現在の人口は約6000人に。深刻な人口減少が進んでいる。

深刻な人口減少に悩む静岡県川根本町
深刻な人口減少に悩む静岡県川根本町
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川根本町観光商工課・大村一成主幹:
若者が外に出て行ってしまったりも影響してると思います。街に仕事場は結構あるんですけれど、一旦外に出てしまうと、なかなか中には戻ってきてもらえない状況です

川根本町観光商工課・大村一成主幹
川根本町観光商工課・大村一成主幹

川根本町は後継者不足を解消し、人口減少を食い止めようと移住者を対象とした補助金制度を導入した。

川根本町観光商工課・大村一成主幹:
起業チャレンジ補助金という制度を設けており、上限100万円になりますけど2分の1の補助で起業できる制度があります

コロナ禍で働き方が変わり、テレワークが推進されたここ数年、補助金の申請も増え、少しずつだが移住者が増えてきている。

テレワークが推進され移住者が増えている
テレワークが推進され移住者が増えている

北海道から移住 きっかけは“きかんしゃトーマス”

大井川鉄道の無人駅「沢間駅」がある、川根本町千頭の沢間区。
ここには70人ほどが暮らしている。

この沢間区に2020年、北海道から移住してきた川口好美さんと舞子さん。
移住のきっかけは当時3歳の息子だった。

大井川鉄道の機関車「トーマス号」
大井川鉄道の機関車「トーマス号」

川口舞子さん:
いま息子が8歳になるんですけど、5年前のまだ3歳の時にトーマスがすごい好きで、トーマスを見たくて旅行に来たのがきっかけでした

大井川鉄道の名物、きかんしゃトーマスの列車を見に来た際、川根本町の自然に魅せられた。

川口舞子さん:
北海道の近づきがたい偉大な自然みたいなのとは全然違うなと思って、それでだんだんひかれていったのがきっかけでした

夫妻が開いたカフェ「てんでんこ」
夫妻が開いたカフェ「てんでんこ」

夫妻が開いた子育てカフェ

移住してきた川口さん夫妻がオープンさせたのは、子供と本を読んだり遊んだり、ご飯を食べたりできるカフェ「てんでんこ」。

もともと空き家として売りに出されていた蔵を改装し、約1000冊の絵本やおもちゃ、ボードゲームなどが楽しめるカフェに。

「てんでんこ」には約1000冊の絵本が
「てんでんこ」には約1000冊の絵本が

2021年4月からは、元フレンチシェフだった好美さんの弟の航亮さんも合流した。

川口好美さん:
弟自身にも新しい人生。今まで培ってきた料理とか、絵とか彫刻とかもずっとやっていたけれど、そういう技術を生かして面白いことを一緒にできたらなと

元フレンチシェフがふるまう料理
元フレンチシェフがふるまう料理

北海道から仕入れたこだわりのコーヒーも提供している。

川口好美さん:
一つ一つの豆を焙煎してるので、自分としても焙煎師さんがどういう狙いを持って豆を焙煎したのかなと常に考えながら、コーヒーを入れるようにしてますね

こだわりのコーヒーを飲むこともできる
こだわりのコーヒーを飲むこともできる

親と子供が遊べ、ご飯も食べることができるカフェ。中学校の教員や子育て支援員を経験してきた舞子さんの子供に対する思いが詰まっている。

川口舞子さん:
ご飯食べてちょっとしたら、ちょっと遊んで、満足したらもう一回ご飯を食べてというのができるのが、ここの魅力かなと思っています

移住の困難を支えたのは地域住民

カフェがオープンしたのは10月中旬。しかしオープンまでの道のりは決して平たんではなく、何度も助けてくれたのは地域の住民だった。

川口舞子さん:
2階の床板なんかは地元の木を切り倒して、それをまるまる1本という状態で何本もいただいて、製材するところも地元の方に手伝っていただいて、本当に100%川根本町産という感じで

床板は100%川根本町産の木材を使った
床板は100%川根本町産の木材を使った

店名「てんでんこ」に込めた思い

じつはこの「てんでんこ」には、子供と親が遊んで過ごすことができるカフェ以外にも、もう一つ別の顔がある。
それは店主の好美さんの職業が関係している。

川口好美さんは文芸評論家として執筆活動をしている
川口好美さんは文芸評論家として執筆活動をしている

川口好美さん:
文芸評論家、文芸評論というジャンルで文章を書く仕事をしています

カフェの一角には作家でもある好美さんの恩師、室井光広さんから預かった約3000冊もの蔵書も置かれている。
カフェの名前にもなっている「てんでんこ」は、恩師が作った文芸集からもらったそうだ。

恩師が編集した文芸集「てんでんこ」 カフェの名前はこの雑誌から
恩師が編集した文芸集「てんでんこ」 カフェの名前はこの雑誌から

川口好美さん:
室井光広さんが亡くなったことが1つのきっかけで、「てんでんこ」という名前をその雑誌からいただいたつもりで、お店を始めました

東北の方言でもある「てんでんこ」。"津波が来たら、それぞればらばらに高いところに逃げて命を守れ”という意味を持っている。

「てんでんこ」がある沢間区 周辺には茶畑が広がる
「てんでんこ」がある沢間区 周辺には茶畑が広がる

川口好美さん:
個人が個人として責任を持って考えたり楽しんだりできることがベースにあって、初めて他人の幸せとか他人の考え方とかも尊重できるんだろうと。そういう良い意味で捉えて、「てんでんこ」という名前を使うことにしました

店名「てんでんこ」に込めた思いを語る川口好美さん
店名「てんでんこ」に込めた思いを語る川口好美さん

てんでんこを町の交流・移住の拠点に

川口さんたちは、「てんでんこ」を地域の交流の場、町の移住の拠点としていきたいという。

川口舞子さん:
子供たちが遊びに来て、知らないおじいちゃんおばあちゃんとおしゃべりするとか、お母さんがアドバイスをもらうとか、何かそういういろんな人が混ざり合うような場所にしていきたい

もともと教育に携わってきた川口舞子さん
もともと教育に携わってきた川口舞子さん

川口好美さん:
よその町に行ってもいつか帰ってきてくれたり、また子育てを川根本町でしたりと。そういう風に思ってくれるサイクルがここを中心に、ここがきっかけになって生まれてくればという目標があります

人口減少が続く川根本町。
しかし、この地域に魅せられて移住してきた人たちが、地域を未来につないでいくために奮闘している。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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