「フジテレビ『Live News α』のAD、堀川湧気、26歳です。仕事の合間にひそかに製作していた映画が京都国際映画祭にノミネートされて、大変有難い事に、映画監督として優秀賞も受賞する事が出来ました」

三田友梨佳アナウンサー・堀川湧気監督(真ん中)・黒瀬翔生アナウンサー
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10月に開催された京都国際映画祭2021。商業映画と一般公募映画の2つの部門で注目作品が集いますが、その一般公募部門であるクリエイターズ・ファクトリーでAD堀川湧気君が監督の作品「もう一度生まれる」が上位10作品にノミネート。さらに優秀賞に選考されました。

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26歳の男子青年がどうして突然こんな快挙を成し遂げたのか。日頃はフジテレビ報道番組「Live News α」のADとして番組制作をやっている、堀川湧気監督・本人が語ります。

「もう一度生まれる」作品に込めた想い

堀川湧気です。
「Live Newsα」は月~金曜夜の番組なので、仕事があまりない土日は映画制作のワークショップに通い、撮影を行っていました。

この作品「もう一度生まれる」は、コロナ禍で閉店してしまう、スーパー銭湯を舞台にした映画です。浴槽のお湯が出入りする循環の音や、スタッフの清掃音を特徴的にピックアップする事で、まるで銭湯という空間そのものが生きているような演出を施しています。

本来であれば、心身ともに安らぎを与えるスーパー銭湯がコロナ禍をきっかけに客やスタッフがいなくなる事で、役割を果たせず、空間そのものが死んでしまったように見える演出を心がけ、撮影に臨みました。

「もう一度生まれる」あらすじ:
スーパー銭湯の新人清掃員として働く亮太は、仕事を通して、当たり前の景色を保つことの難しさを知っていく。そんな中、新型コロナ感染拡大の影響で銭湯は休業に。
コロナ禍のスーパー銭湯で、清掃員達の最期の清掃作業が始まる…

「もう一度生まれる」より

本作は、いわゆる商業映画ではなく、自主制作映画の枠組みとして捉えられます。作家性をどのようにして、おとし込むかを考えたときに、報道番組で働いている経験が非常に活きました。

具体的には、ニュース番組ではその日起きた出来事やトレンドなどをまとめる機会が多いので、社会の流れを非常に意識して見るようになりました。人々の関心が集中しているものや、反対に、これから注目されるであろう人物や事柄に触れる事によって、自分の価値観だけにとどまらず、色んな立場の視点から、“なぜ”を追求するようになりました。

「もう一度生まれる」より

それがコロナ禍をきっかけに、番組で取り扱う項目がコロナ一色となり、このご時世で苦しむ方々の想いや裏側に迫る時間が非常に増えていきました。その際に見た、こぼれ落ちた想いや景色を何とかして、映像におとし込むことが出来ないかという感情から、「もう一度生まれる」の制作に取り掛かりました。

本作では、コロナ禍をきっかけに閉店してしまうスーパー銭湯を舞台にすると同時に、そこで働く人たちの想いもしっかり具現化するように意識しました。

人間の生死を看取るのと同じように、人々が空間としっかり向き合った上で、また別の空間に生まれ変わる循環を描きたいと思い、「もう一度生まれる」というタイトルを付けさせて頂きました。

「作品の何がよかったのか」優秀賞の選考理由

今年の京都国際映画祭では、「百円の恋」やNetflixオリジナルシリーズ「全裸監督」などを手がけた武正晴監督が牧野省三賞を受賞。また、国際的な活躍が期待される俳優へ贈られる三船敏郎賞には、桐谷健太さんが選出された。

一般公募型部門は、映像文化における“次世代を担う人材、才能”を発掘するプロジェクトである。今年は過去最多223本の応募があり、10本の作品がノミネートされた。

映画史研究家・審査員長の春日太一さんは、「量だけでなく質も過去最高クラス。ノミネート作品は、いずれもグランプリを獲得してもおかしくない力作。プロの映画を審査するテンションでやらせてもらった」と映画祭全体を総括。

京都国際映画祭2021

堀川湧気監督の「もう一度生まれる」については、とにかく「巧みな監督だ」という講評をした上で特に突出した部分として、下記3点を挙げた。

・人物の出し入れが抜群に上手く、個々の人物のキャラクターを自然とつかめる
・風呂の維持に賭ける職人の熱さが程よく伝わってきた
・「風呂にお湯が流れ込む」という描写をここまで生命感をもって描けるのかと感心

とした上で、この3点、いずれもプロとしても一流のレベルに達している。弱点らしい弱点はなく、グランプリ候補の一角に食い込む予感は強くあったと講評をまとめた。

この作品を撮ることになった経緯「堀川君、あなたは何者なの?」

子供の頃は感受性が乏しいというか、他人や物事に対して、あまり自分ごとになれない悪い癖があり、感動する経験が少なかった時期がありました(笑)

そんな中、高校時代から映画を見ることに夢中になり、2時間という尺の中に、多くの人々の生き様・人生が凝縮される映像の力強さに圧倒され、自分もいつか映画を撮ってみたいという感情が湧き始めました。

大学は日本大学藝術学部映画学科に入学し、映画を撮れる環境に身を置きました。しかし、映像課題の講評の度に先生から、「堀川〜…これはちょっと…」や「センスがない」「リアリティーがない」とよく言われた記憶があります。

今考えると、映画の世界観のベースとなるシナリオがボロボロだったからです。あまりにも他者に対して無知だったため、生きた言葉を描く引き出しが、自分の中に無かったんだと思います。

そこから自分なりにこのままではマズいと思い始め、映像課題のドキュメンタリー撮影や、現在働いている報道番組の環境下を通して、とにかく人を観察する目を鍛えようと意識し始めました。

報道番組では現在、ディレクター業に近い形で自ら企画を出し、原稿構成から編集までほぼ一人で作業をこなす機会が非常に増えてきました。自分の目で企画となり得るテーマを探し出し、それを成り立たせるために、撮影はどう進めるかを考える事で、より観察眼を鍛えられる経験が直に出来ていると思います。

番組スタッフから祝福の花束

また、取材相手とは、仕事の話をすることが殆どですが、「なぜその仕事に行き着いたのか?」や、「仕事に対する想いは?」等を聞き出す事でその人物の今までの人生の歩みも自然と見えてきます。相手の良さを引き出すのも、自分の言葉一つ次第という意味では、言葉を武器にする職業だと思っています。

なので、この職場環境で働ける事は、自分の最大の欠点を補える事にも繋がっていると思うので、非常にやりがいを感じながら、仕事をさせてもらっています。

映画のワークショップは、仕事休みの土曜・日曜を活用して、去年の10月から今年の5月頃まで通っていました。映画制作を志す人々が30人程集まり、ショートフィルムの制作課題や、シナリオの執筆課題をこなす事がメインになります。

シナリオに関しては、ワークショップ内で選抜された2本のシナリオを映像化するというルールがあったので、生徒一人一人が自分の作品を撮影できる訳ではありません。

ここで選ばれることがまず第一の難関だったので、コロナ禍で映画を撮る意味を考えながら、なおかつ多くの人々に響くような作品とは何か?を意識しながら、シナリオ執筆に取り掛かりました。

現役の映画監督が講師として、アドバイスをくれる機会もあったので、自分には無い視点で、意見を貰えることが非常に大きかったです。

「もう一度生まれる」撮影風景

明確な修正点を抱えながら、シナリオと向き合える時間が多く、最後には後に撮影する「もう一度生まれる」を選抜シナリオとして選んで頂けることが出来ました。

その後は監督として、脚本と向き合う事になり、チームでの役割分担を決めていきました。このワークショップ自体が、監督を志す人が多かったので、演出に特化した形で意見交換を出来たのも大きかった気がします。

講師の方々にアドバイスをもらいながら、ロケハン、リハーサル、機材テスト、絵コンテ作成の過程を通して、クランクアップまで無事乗り越える事が出来ました。

現在は、共に制作した仲間たちと次に撮影する作品について少しずつ話し合いを進めています。

どうやって撮影したのか「ドキュメンタリーなのか、フィクションなのか」

撮影場所は、川崎にあるスーパー銭湯「おふろの国」をお借りして、撮影しました。大学時代のドキュメンタリー課題で、「おふろの国」の浴室清掃主任の方にカメラを回す機会があり、そのご縁もあり、お借りすることが出来ました。

「もう一度生まれる」撮影風景

スーパー銭湯を選んだ理由は、人々の汚れを落とし、心身ともに当たり前を保つ、場所としての意味合いが大きな決め手となりました。

本来であれば、人々の当たり前を保つスーパー銭湯が、休業中に建物自体がどんどん汚れていく描写を通して、コロナ禍で様変わりする景色の変化をより主張できると思ったからです。

撮影時間は営業している銭湯をお借りしたので、営業外の深夜から早朝に掛けて行われました。大きなロケ地で限られた時間内での撮影だったので、カメラは2カメ体制で、スタッフの規模も合計15人程で回していきました。自主制作の枠組みなので、15人という人数はそこそこ多い人出であったと思います。

「もう一度生まれる」撮影風景
 

映画内では休業中という状況下だったので、暗いシーンも多く、照明の出し入れをする場面が非常に多かったです。浴室シーンではブルーライトを多用し、月の光が差し込むような空間をイメージしました。浴槽のお湯にも透き通ったような神秘的な雰囲気を出すため、ブルーライトを選択しました。

「もう一度生まれる」撮影風景

録音に関しては、役者が芝居するカットを撮り終えた後に、音単体の別録りも行いました。清掃をこなすスタッフが言葉でコミュニケーションを取るのではなく、清掃のリズムで会話をしているような印象を受けたので、映画内でも音でリズムを作れるように意識しました。

音録りの際は、カメラへの映り込みを気にする事がないので、音が割れないレベルで出来るだけ、清掃する動作にマイクを近づけて録音しました。

絵コンテのカット割り含め、音録りの段取りも撮影前に各スタッフと入念に詰めていきました。

編集に関しては、自分のノートパソコンでFinal Cut Proを使い、ひたすら黙々とやっていた感じです(笑)
台詞のボリュームと、清掃音のボリュームなど、音にこだわるシーンが多かったので、そこのバランス感を保つのが非常に大変でした。一通り、シーンを繋いだ後は、パソコンをテレビと繋げた上で、更にスピーカーも装着し、なるべく大きな画面で大きな音で編集を詰めるようにしました。

「もう一度生まれる」撮影風景

ノートパソコンでずっと編集を進めていると、映画館レベルで上映する時と、イメージの違いが生じてしまうので、家の環境でもなるべく近い環境を作れるように努力はしました。

「もう一度生まれる」撮影風景

「一般公募作品の監督で受賞したらそのあとどうなるの?」

映画祭に入選して、自分にとって大きかった事は、各業界で活躍するプロフェッショナルの方々をお呼びして、審査会を実施してもらえた事です。

各々の審査員に、作品に対して、良かった点・悪かった点を具体的に挙げて頂き、自分の作家性で継続して武器にできる点、反対に自分の弱点を明確に理解する事ができ、次回の創作時にかなり活かせると思いました。

また、他の入選監督とも、意見交換する機会を頂けたのも非常に良い経験になりました。自主制作映画は、原作という縛りがないので、監督の作家性が色濃く作品に反映されます。作品になり得るヒントの見つけ方や、演出で心がけている事など、武器にしているものが各監督によって異なるので、そこに関するお話も聞けて非常に勉強になりました。

入選監督の中ではおそらく一番若いという事もあり、まだまだ吸収しないといけない点がたくさんあると改めて実感させられました。

京都国際映画祭2021

それと同時に映画祭での入選や賞受賞は、今後映画館での単独上映に向けて、一つ評価された作品であることの証明にもなります。作品クオリティーを保証する一つの要素にもなり、映画祭という場を通して、他の入選監督や審査員など、人脈を広げられる要素もあります。

「こういう案件で一緒に撮影してみない?」や「ここで上映してみない?」など、色々な相談をする機会が非常に増え、自分の選択肢を広げられるのが最大のメリットになると思います。

一人でも多くの方々に見て頂くという意味では、京都国際映画祭という大きな映画祭にノミネートして頂き、上映機会を頂けた事は非常に価値のある事だと思っています。「もう一度生まれる」は中編映画だったので、報道番組で引き続き、多くの人と触れ合い、自分を鍛えつつ、次作は長編映画を撮影できるように準備していきたいと思います。

仕事面でも映画制作面でも、まだまだ力不足の部分が多いので、とにかく今まで通り、必死に目の前の事に向き合っていきたいと思います。

堀川青年26歳の将来の夢

最終目標は、映画監督になる事です。職業としての映画監督です。自分が映像の世界にのめり込んだのが、やはり映画がきっかけだったので。

ただ、誰しもがなれるものでは無いし、まだまだ実力不足なのは分かりきっているので、チャンスを引き寄せられるように、とにかく色んなものにトライしていきたいです。

ドラマ、ドキュメンタリー、CM、ミュージックビデオなど、そういうものにトライできる機会が作れるように、今回の映画祭入選みたいな形で、積極的に自分の力をアピールできるようにしていきたいです。

映画監督、30代でも新人監督と言われる世界ではあるので、自分の課題を一つ一つ克服して、着実に力を付けた上で、大声で「映画監督になりたい!」と言えるようになりたいです。

今はまだ小声でしか言えないです…一日一善、何か身のある一日を積み上げていく事が目の前にある今の目標です。

<プロフィール・堀川 湧気>
1995年生まれ。26歳。

日本大学藝術学部映画学科で、映画やドキュメンタリーの制作について学ぶ。卒業時に優秀な卒業制作・論文に贈呈される「日藝・特別賞」を受賞。在学時、監督したショートフィルムがNHK「岩井俊二のMovieラボ シーズン2」にノミネートされ、テレビ出演を果たすと同時に岩井俊二監督と堤幸彦監督に作品についての講評を頂く。
大学卒業後は、テレビ業界に進み、フジテレビの報道番組「Live News α」の制作に携わる。

2021年、監督・脚本・編集を務めた映画「もう一度生まれる」が京都国際映画祭にノミネート。ノミネートを通じて、準グランプリにあたる優秀賞も受賞する。

Live News αの上司は…

映画監督 兼 「Live News α」AD 堀川湧気君のフジテレビでの上司・近藤篤正プロデューサーはエールをおくる。
「普段は黙々と仕事をこなす堀川君の、熱い熱い情熱のこもった今回の作品。毎日触れるニュースから、堀川君なりの気づきと感性でこのような作品を作り上げたことに我々番組スタッフは大きな刺激を受けました。
コロナ禍で『Live News α』もリモートワークを導入するなどワークフローを改善するなかで、若手も企画をどんどん制作できる環境になりました。この改革が今回の快挙の一助になっているとすると、とても嬉しい限りです。これからも番組では『堀川監督』を全力で応援します。」