なかなか収束しない新型コロナの感染拡大。
自宅で過ごす時間が増え、ぜいたくな家飲みを楽しむ人が増えている。
例えば、あまりの人気に一時出荷停止となったアサヒビールの「生ジョッキ缶」。
家庭用ビールサーバーのレンタルや、生ビールを宅配する会員制サービスも登場した。

各社が様々な家飲みの形を提案する中、静岡のウイスキー工場の“あるサービス”が密かに人気を集めている。
まさにウイスキーの“大人買い” 申し込み激増で抽選に
静岡市葵区の山間部、玉川地区にある「ガイアフロー静岡蒸溜所」。

テレビ静岡・大森万梨乃:
静岡市で初めてウイスキーの製造を始めた蒸溜所ですが、いまあるサービスが注目されているんです
さっそく蒸溜所の中を案内してもらった。
ガイアフロー・中村大航社長:
こちらはウイスキーを熟成している熟成庫です

樽には、それぞれオーナーがいる。いま人気を集めている「プライベートカスク」だ。
テレビ静岡・大森万梨乃:
コロナ禍になってから予約された樽はずらっと奥まで、約1000樽並んでいます
ウイスキーを1樽まるごと購入し、3年間熟成させた後、自分の好きなタイミングでボトルに詰め、その味を楽しむことができる。

ガイアフロー・中村大航社長:
このコロナ禍で、外で飲めない状況がずっと長く続いています。おそらくその流れで、プライベートカスクという自分だけのウイスキーを買って家で飲みたいという気持ちが高まっているんじゃないかと思います
元々はバーや飲食店用として、または贈答用として始まったこのサービス。
コロナ禍でのぜいたくな家飲み志向が高まり、樽ごと家庭用に購入する人が急増しているという。

申し込みが増えたため、抽選で販売することになった。
サービスが始まった2016年と比べ、9月現在、申し込み数は約10倍に増加。
オーナーになることができる倍率も10倍以上となっている。

1樽50Lでボトル30~40本分は楽しめ、値段は約30万円から。
まさにウイスキーの大人買いだ。
ガイアフロー・中村大航社長:
樽1つだとちょっとさすがに多いという方は、仲間を集めてお申し込みしていただいています
購入者「ウイスキーが育っていくのと自分を照らし合わせ…」
2020年にプライベートカスクの購入を決意した、静岡・湖西市に住む山下晶子さん。

山下晶子さん:
コロナ禍の光というか、暗い世の中で抜け道を模索しながら、買ったウイスキーはもう半年たったんだとか、1年たったんだとか。そういう風にウイスキーが育っていくのと、自分が今後どういう生き方をしていくのかということを、照らし合わせている部分はありますね
テレビ静岡・大森万梨乃アナウンサー:
人生もウイスキーも、熟成されていくのが楽しみですね
山下晶子さん:
ウイスキーに負けないように、自分の人生も前にゆっくりでもいいから明るい方に進めたらいいなと
また経営する会社の社員のために、プライベートカスクのオーナーになった人も。

静岡市清水区にあるアオキ溶接の青木智陽専務は、5年前に購入したプライベートカスクをボトリングし、創業80周年を迎える2021年、社員全員に配ることにした。
アオキ溶接・青木智陽専務:
注文した2016年から5年近く経ってやっと飲めるので、深いですよね。当時はまだコロナのコの字もなかったので、まさかこんな時に重なるとは思わなかったですけど、ちょうど家飲みにマッチしましたね。ウイスキー好きの社員は特に楽しみにしてくれています。これまでのことを振り返りながら飲んでほしいです

「時間を楽しむ」のがウイスキー
ガイアフロー・中村大航社長:
何年もかけて熟成していくのをリアルタイムで自分が見守りながら、最終的にはボトルに入っていく過程を楽しんでいただくのが樽買いのおもしろさですね

樽の大きさや材質、熟成期間など様々な影響を受けて、徐々に変化していくウイスキー。
樽に入れる前は無色透明だが…
ガイアフロー・中村大航社長:
だんだんと樽の成分がウイスキーに溶け出していきます。それによって少しずつ皆さんがご存知の琥珀色に変わっていくんですね。

では、味はどのように変化していくのだろうか。
ウイスキーとして完成する3年が経過したものと、5年経過したものを飲み比べてみた。
テレビ静岡・大森万梨乃アナウンサー:
(3年経過したウイスキー)華やかでフルーティーな味わいです
(5年経過したウイスキー)先程のものに比べて、すごい甘みが増しました。全く味わいが違います

ガイアフロー・中村大航社長:
お客様はいつでも自分の樽からサンプルを取って試飲をすることができるので、自分の好きなタイミングで順々に味わいを確かめていくことができます。静岡のウイスキーが、「時間を楽しむ」1つのきっかけになったらなと思います
熟成していく時間を待ち遠しく思いながら、未来への楽しみを予約する。
そして、熟成された年月に自分の人生を重ねながらその味を楽しむ。
コロナ禍をきっかけに新たな家飲みの形が広がりつつある。

【取材後記】
新型コロナが流行する前に、近所のバーでガイアフローのウイスキーと出会ってから、ガイアフロー“とりこ”になってしまった。人気の高いお酒なので、なかなか手に入らない。また、どこのバーにでも置いてあるわけではないため、静岡県民にとってもレアなウイスキーだ。
コロナ禍になって外食ができず、ガイアフローのお酒が飲めない日々。家で飲めたらいいのに...そんな思いから、私も樽買いをしたいという気持ちが芽生え、ここ数年で応募が急増していることを知った。
熟成していく時間を自分の人生と照らし合わせるという話には、ロマンを掻き立てられた。家飲み需要の高まりで、このようなお酒の楽しみ方に気づいた人が、きっと増えたのではないかと思う。
現在応募できるのは、オクタヴと呼ばれる50Lの樽で、2021年にオーナーになると樽詰めは1年後。飲めるようになるのは最低4年後だそうだ。
果たして4年後は今より明るい世の中になっているのだろうか、また自分はどのような人間に成長しているのだろうか。振り返ったときに後悔しないよう前を向いて頑張ろう。私もそんな思いで、このプライベートカスクを購入したくなった。
(テレビ静岡)