7月10日、伝統の阪神ー巨人戦の解説席には、清原和博がいた。
試合が行われたのは甲子園球場。清原が数々の伝説を作った球場だ。

試合終了後、それまで現役選手との交流を絶っていた清原が、巨人・原辰徳監督、そして元木大介ヘッドコーチらと小さな交流を見せる一幕があった。

自らと関わりが深い甲子園で、「今まで頑張ってきて本当に良かった」と目に涙を浮かべた清原の姿を追った。

縁深い甲子園球場での解説復帰

この日、甲子園球場の報道陣入場口には多くの野球ファンが集まっていた。待っていたのは、伝統の阪神―巨人戦で解説を務める元プロ野球選手・清原和博のことだ。

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清原にとってプロ野球の解説は、2010年11月、ナゴヤドームで行われた日本シリーズ・中日ドラゴンズ対千葉ロッテ以来、約11年ぶりのものだ。

写真:時事通信

名門・PL学園高校野球部で1年生ながら4番打者を任された清原は、1983年〜85年にかけて5季連続で甲子園に出場、2度の優勝を飾った。未だ破られない甲子園通算13本の本塁打(2位は中村奨成の7本)と、春夏それぞれの通算本塁打数、夏の1試合3本塁打など、個人としても数々の記録を甲子園で打ち立てた。

「甲子園は清原のためにあるのか!」という実況を覚えている人も多いのではないだろうか。

そんな清原が解説復帰をする球場が、甲子園球場だったのだ。

1カ月以上前に決まったこの復帰は、野球人としての復帰と等しく、ファンからどういう気持ちで迎え入れられるかも含め、緊張はピークに達していた。

「1週間くらい前から、自分が試合に出るんじゃないかというくらい緊張していまして…」

そんな不安も、自身を待つファンの姿を見て、和らいだことだろう。OB選手や著名解説者でもここまで多くのファンが集まることは滅多になく、いつになく警備員の数も多かった。

解説席に向かう前、偶然すれ違った阪神の岡田彰布元監督に、清原が「迷惑をおかけしてすみません」と頭を下げると、岡田氏は「そんなの気にするな」と優しく声をかけた。この瞬間、清原は自らが帰る場所は野球しか無いと再認識したに違いない。

原監督・元木コーチらとの小さな交流

清原はこの一戦に向け、「巨人と阪神との首位攻防戦を解説する機会をいただき光栄です。思い出あふれる甲子園を舞台にした『伝統の一戦』の見どころを、自分も戦っているつもりでファンの皆様にお届けします」と意気込みを語っていた。

その言葉の通り、解説に向かう清原の姿は真剣だった。トイレが近くならないよう飲み物も一時間以上前からとらず、食事もしない。KKコンビに憧れPL学園に入学し、春夏連覇を果たした片岡篤史氏とともに、結果論ではない論理的で分かりやすい解説を続けた。

そんな清原の素が見えた瞬間があった。

巨人の勝利で終わったこの日、解説席に座る清原の姿を見つけた元木大介ヘッドコーチが、原辰徳監督、そして宮本和知投手コーチを呼び寄せ、3人で手を振った。

その姿に解説席から立ち上がり、何度も頭を下げ、手を振り返した。

アナウンサーに問いかけられると「鳥肌が立ちましたね。鳥肌立ちましたよ」と繰り返す。

「なんか泣きそうですね。来て良かった。大介の演出…、元木ヘッドコーチの演出だと思うんですけど、まさか原さんがバックネット裏に向かって手を振ってくるとは夢にも思っていなかったので。今まで頑張ってきて本当に良かったと思います。ありがとうございます」

話しながら目を潤ませた清原。

苦楽を共にし、戦友ともいうべき存在で、事件後、直接の連絡は一度もとっていない後輩のことを、当時の呼び名で一瞬呼ぶも、解説者としてすぐに「コーチ」と言い直した。

現役のユニフォームを着ている選手・監督らと、これまで交流を絶っていた清原が、初めてユニフォーム着た人間たちと交わった瞬間に、片岡氏も笑顔だった。

「野球を通していろんな絆が生まれていると思うので。原さんも姿を見て、ホッと安心されたというか、頑張っているなという事を思っていると思う。私も立ち会えて凄く幸せです」

野球人としての節目に付いて回る甲子園

この野球ファンを熱くさせたグラウンドと放送席を繋いだ友情とも言うべきワンシーンは、清原にとって思いもよらぬ奇跡であったと同時に、全ては巨人が勝利を収めたからこそ実現した事でもある。

またこの日は、清原自身に自らが築き上げた本塁打の伝説を思い起こさせるかのように、両チームの4番(岡本和真・サンズ)、そして坂本、ウィーラーといった主役たちが、合わせて4本のアーチを描いた。

そして何より初めて生で見る事を楽しみにしていた阪神のゴールデンルーキー・佐藤輝明の、安打と三振を目の当たりにする事が出来た。

三振を恐れず、自分のスタイルを崩さずフルスイングする結果、量産されている三振数ではあるが(プロ野球記録更新ペース・シーズン記録はブライアントの204三振)、佐藤のこの三振する姿でさえ楽しみにし、当てにいくことをしないスイングに頼もしさを口にした。

後半戦に入れば、大卒ルーキーと高卒ルーキーという差はあれ、佐藤は清原の記録した1年目の本塁打31本・78打点と比較され、連日紙面やスポーツニュース等を賑わせるであろう。記録だけではなく、ルーキーでレギュラーを獲得、優勝争いをしている事(清原は日本一)、さらにそんなレベルの高い球団で4番も務めたという、異次元の2人の共通点も比較されるに違いない。

つまり佐藤輝明の活躍を通し、改めて清原和博の“野球人”としての偉大さが浮き彫りになる。その時にはまた、清原が忘れかけていた野球人としての誇りを取り戻していくであろう。

試合後、解説席のあるバックネット裏には多くのファンが残り、清原の名前を呼び続け、姿がなくなるまで帰ろうとしなかった。

「生きていく上で貴重な体験をさせていただきました。一生残る記念となりました。野球の素晴らしさ、野球を通じてできる絆は何年経ってもいいなと思います」

報道陣の前でそう明かした清原。

自身のTwitterでも

今日一日を迎えるまでずっと 緊張していました、、、 感謝の言葉しか見つかりません…。夢のような時間でした。 今日という日は一生涯忘れません。 本当に有難うございました。

と繰り返した。

振り返ると事件後、清原が初めて正式に参加した野球イベントも甲子園だった。第100回全国高校野球選手権決勝に、野球人生を思い出すために、そしてもう一度野球人として生きていくために“原点”に足を運んだのだ。

野球人・清原和博は甲子園で生まれ、野球人としての節目に甲子園が付いて回った。

1日が終わったあと、「とにかく今日は焼き鳥を買ってホテルで」と真っ直ぐに帰った清原。迷惑がかからないようスッと帰る姿に、これからも野球と生きていく姿が見受けられた。

(取材・文 吉田博章)

7月23日に放送される「プロ野球ニュース」では、清原和博氏と共に2021年シーズンの前半戦を振り返り、引退を発表した松坂大輔と、活躍を続けるゴールデンルーキー・佐藤輝明を特集。後半戦の見どころもお届けする。

プロ野球ニュース
フジテレビONE
07/23(金) 23:00~24:00
CS「フジテレビONE」にて放送
【出演】山本昌、清原和博、藤川球児